2014-15 リクエスト | 輪廻・14(終)

 

 

「これくらいか」
俺はやっと息を吐く。

四年前の誘拐日時は分かっている。 当時の周辺の様子は調査済みだ。
但し気象情報を確認したことはなかった。
ここ最近の、調べられる限りの気象情報資料を集める。
天気図だけではない。気象、地象、地動。 地球磁気、地球電気と輻射。
アクセス禁止になっている情報は、今のところはない。

奉恩寺の仏像の緯度経度を当時の高麗地図に当て嵌めて場所を特定し、その当時周辺で起こった天変地異の記録を遡れるまで遡り、歴史書、古文書の類を読み漁る。
高麗の記録は、当時の元首国の元、現在の中国に残っている事も多い。そちらの記録まで調べていたら、膨大な量になる。
ましてやあの国の機密情報レベルになれば、アクセスできる訳もない。
それでもいくつか参考になりそうな物を集めてプリントアウトし、資料を作る。
作業がひと段落し、デスクの前で伸びをする。
「ウンスヤ」
その呼びかけに、リビングからの返事はない。

寝室のデスクトップで確認した結果画面を表示したまま俺は椅子から立ち上がり、開いたままの寝室のドアからリビングを覗き込む。
そこから見えるリビングのカウチの上、ウンスが横になり目を閉じている姿が目に入る。
寝込んだか。 腕時計を確認すれば04:16
そりゃあ眠いはずだ。無理もない。

寝室を出てリビングへと戻り、カウチのウンスを抱き上げる。
その軽い小さい体、柔らかく俺の腕をくすぐる長い髪。
閉じた睫毛が頬に落ちる影、それが開いた時の瞳の色まで、今の俺は思い出すことができる。
そして忘れていくだろう。いつか薄れていく。
あの頃の助手席のヒョナが薄い影になり、あの声が遠い響きになっていったように。

忘却は人間が神から与えられた天の恩恵だ。
忘れなければ辛いことが多すぎるのだろう。
脳が情報をシャットアウトするのだ、許容範囲を超えた時。
辛さも悲しみもそして痛みも。そうして折り合いをつける。
残された人間は現実に、生きて行かなければならないから。
どれほど覚えていたいと願っても。
痛くても良いから、忘れるよりましだと思っても。

そしてその辛さの中で、チェ・ヨンという男を忘れなかった。
そんなお前の気持ちを知って、太刀打ちできる訳もない。
そんなお前を、覚えておきたい。
大切な事を思い出させてくれた事を。
それでも、きっと無理だ。

だから思いを痛みと共に体に刻む種類の人間を、俺は蔑視しない。
許されるなら、俺もタトゥでも彫るかな。その考えに少し笑む。
いかにもアメリカ式嗜好だと、お前は呆れるだろうか。

抱いていた体を、そっと寝室のベッドへと下ろす。
窓の外は、ほの白い明け方だ。
その時微かに声を上げ、微笑むように僅かに開いた唇から

「テウ」

初めて確かに聞こえたその声に目を見開いた。
瞬きもせず、ベッドの上のお前にただじっと。

タトゥよりもくっきりと今、俺の胸に刻まれた声。
ウンス。その囁きだけで良い。
きっと忘れない。どれ程薄れても。
明け方の光の中、白いシーツに揺れて溶けるようなお前の白い頬の輪郭と共に、必ず思い出せるだろう。

 

******

 

ベッドの中で目を開けると、窓の外は綺麗な朝だった。
その朝の光が射す窓の横のパソコンデスクに向かって、テウが黙々と何かを打ち込み、作業をしていた。

「テウ」
起き抜けの掠れ声でそう呼ぶとデスクの前のテウは手を止めて、ベッドの上の私に振り向いた。
「起きたか」
「うん。運んでくれたんだね」
「ああ、勝手にごめんな」

そんな風に謝る必要なんてない。
あなたが支えてくれたから、ここまで来られた。
「ありがとう」
大好き。とても大切。親友みたいに、戦友みたいに。
でも、私の運命はもう決まってる。
欲しいのは、一緒にいたいのは、あの人しかいないから。

「じゃあ早速で悪いけど、確認してくれ」
そう言ってテウが、ベッドに向かって差し出したプリントアウトされた紙を、私は1枚ずつ確認していく。

「この結果が確かなら、天門が開くのは、黒点数だけが条件じゃないのね」
「ああ。太陽活動期はやはり高速フーリエ変換の解析平均10.4883年周期に変わりはないんだ。
影響はあるんだろう、恐らく。でも開く要素の全てじゃない。
他の気象条件が影響し合っているのかもしれない。
あの4年前の1日に絞り込むと、判断材料が少なすぎて今のところは何とも言えない」

テウは資料の中でマーカー処理したあの日のデータを指で示して、私にそう言う。
「そうなのよね」
「ただ、近々開く可能性は高い。そうでなければ今回の捜査が突然始まった意味が分からない」

最近の黒点数グラフを見る限り、数の増加はそれほど見られない。
それが納得できないのか、 テウはそのあたりのグラフを指でとんとん示しながら首を振る。
私はその声に頷いた。

「そうね、そうだと思う。開くのは黒点数だけの問題じゃない。
昨日計算したの。私が高麗に最初に行ったのは1351年。恭愍王が元から高麗へ戻っていらした年。
次に行ったのは1252年ごろの蒙古と元の国境」
「待て、ウンス」
急にかかった厳しいテウの声に、私は驚いて口を閉じた。
「何?」
「ちょっと待て」
テウは硬い表情で急に立ち上がると、寝室を出た。

キッチンの方で、小さな音がする。
すぐに戻ってきたその手にはミネラルウォーターが2本。
1本のボトルの栓を開けて渡してくれた後、テウは椅子に座り直し深く息をつくと、自分のボトルから大きく水を一口飲んだ。
そして私に目を戻して、静かに聞いた。

「天門とやらは、高麗につながっているんだよな?」
「少なくとも、あそこから出る場所はいつも同じだわ。その時の情勢によって国境は変わるでしょ」
「いつも同じ年の同じ場所に出る訳ではない、ということか」
「そう、少なくとも私がくぐった時は、3回とも年代は違った。1回目は1351年、2回目は多分1252年。
そして3回目は恭愍王が即位されて5年って言ってたから1355年、56年かな」
私ははっきりと告げた。

「待ってくれ。黒点数は1849年から観測が始まった。300年平均値しか出ていない。
お前が行ったのは 1351年と、1252年、1355年か56年。確かだな?」
テウはそういうとデスクに向かい、また入力を始める。
そして入力を終え、結果をプリントアウトしながらこっちに振り返って首を傾げた。

「じゃあ、ウンスヤ。例えばだ。全て仮定だがもし今回 天門が開いた。お前が入れたとしよう。
しかしその先に チェ・ヨンがいない場合もあるって事だろう?」
そのテウの言葉に私は頷いた。
「勿論。1252年だった時は、あの人には逢えなかった」

そう、逢えなかった。そしてソンジンと劉先生がいた。
そして今回はあなたが。
「それでも、会えなくても後悔しないのか」
その問いに、首を振る。後悔なんてしない。
これ程いつも近くで護ってくれる。あの人の魂が。
どれほど時を超えても、姿を変えても。

だから私は、潜らずにいられない。帰らずにいられない。
開く限り またいつかどこかで、あなたと逢える事を信じて。

ねえ、そこにいる?
そう聞くたびに。
此処に、おります。
私の愛するあの声が、いつか返ってくることを祈って。

そして昨夜、あなたが生きていたと知ってからずっと考え続けたこと。
あの日。あなたが死んでしまったと思ったあの日から、大きく変わった要素は1つだけ。

目の前のこの人、キム・テウと出逢ったこと。
刑事と被害者って立場の通りすがりじゃなく、向き合ったこと。

もしかしたら、本当に、もしかしたら。仮定でしかないけど。
あの時モンゴルで劉先生に逢えなかったら、天門が開くって知ることはできたかしら。
単なる薬房の御主人としてすれ違って終わっていたら。
劉先生に会えなければ、ソンジンにも会えなかった。
ソンジンに逢えなかったら、私、あの時帰れたかしら。

もしも今、あそこでこの人に、テウに逢えなかったら。
あなたが歴史通りに生きたって知ること、出来たかしら。
辛すぎて、二度と検索なんてしようと思わなかった私が。
もしテウと会わなかったら、天門が開くって知ることは本当に出来たのかしら。
二度と奉恩寺になんか、行くことはないと思ってた私が。

頭の中で、逆再生みたいに時が巻き戻る。
あそこでテウに会う前、私はパソコンを床に投げた。
床に投げる前に、私はあなたの死を知った。
あなたの死を知る前に、全ての気力を失ってベッドに寝ていた。
ベッドに寝る前に、奉恩寺で泣き叫んだ。
奉恩寺で泣き叫ぶ前に、オンマと病院前で別れた。
オンマと別れる前に診察を受けた。
診察を受ける前に、奉恩寺からオンマに連絡をした。
連絡をする前に、高麗から帰ってきた。

人生で起きる事には全て意味がある。
Everything happen for a reason.
どんなに辛いことも、悲しいことも。

帰ってきたのが失敗だったと、心から悔やんだ。
でも帰って来なければ、オンマたちに会って最後の挨拶をすることはできなかった。
挨拶ができなければ、いつも高麗で、心のどこかで、負い目を感じなかった?
いつまでもぐずぐず、悩んだりしなかった?

あの時あなたと離れたことは、今でも心が痛い。
あなたの手を離してしまったことを、きっとこれからも心が千切れる程、後悔し続ける。
だからこそ、あなたを探す。

もう一度帰れる、逢える、声を聴けるって信じて。
あの背の高い姿を、悠々とした歩き方を、黒い瞳を、大きな手を、広い背中を。
この目で見られる、この手で触れられるって信じて。

 

一晩でウンスの目が変わった。
目の前の彼女を見ていると、それが良く分かる。
雨の中で泣き叫んだ時、病室で門前払いを喰らわせた時、自暴自棄で屋上にいた時、COEXの前で立ち尽くした時。
ジャングルジムで、おでん屋で、カフェで、噴水橋で、どこで見た時とも会っていた時とも、一緒にいた時とも違う。

これが多分、本来の彼女だ。
前向きで誤魔化しがなく、無鉄砲で怖いもの知らずで。

だからそのままの姿を見せられる場所に帰してやる。
そのままのお前を愛している男の許に帰してやる。
帰れるように、最後まで護ってやる。

「これだ」
俺はウンスに、プリントアウトした結果用紙を渡す。
「1252年、1351年、55年、56年」

順に指で追いながら、そのグラフを示す。
「あくまで予想数値だ。現在から遡って計算している。
何かの規則性が見つかるのか、まずは検討しよう」

そう言いながらウンスにペンを渡す。
頷いてそれを受け取る彼女を見ながら
「現場に戻ってみる。その後俺は一旦出勤する。捜査の進展具合が何か判るかもしれない。
休暇届も出してくる。ウンスは?」
「私は連絡だけする。休暇は余ってるから、それで大丈夫」
「分かった。奉恩寺まで送る。手続きが終わったらすぐに戻る。そこで合流しよう」

俺はそう言い、椅子を立つ。
ウンスは頷き、ベッドを降りた。

 

******

 

奉恩寺で車を降り、昨日のように境内を歩く。

俺は刑事の勘なんて信じたことはない。
そう言われるものには、物理的理由があると思う。
周辺の人間の動き、音、呼吸、集合したことで発生する体臭、周辺温度のわずかな上昇。
物理的なそうしたものが俗に言う「気配」になると。

だからこそ、間違いはない。この先に何かが起きている。
俺はウンスの腕を軽く引き、足を止めた彼女に視線で教える。

彼女は俺の視線の動きを追って、静かに足を進める。
肩に掛けたバッグを握り直す指が白く、少し震えている。
「大丈夫だ、護る」
俺が小さく呟くと、彼女は頷いた。

あの仏像のところまで出ると、周囲の様子は昨夜とは全く異なっている。
何よりも違うのは、風だ。強い風が、それも一か所に向けて全方向から吹き込んでいる。
快晴の朝なのに、その柔らかい日光の色とは明らかに違う光があの仏像の台座の裏から射している。

ウンス、俺は謝らなきゃいけない。一瞬でもその言葉の正当性を疑ったことを。
これは、体験しなければ判らないだろう。
いや、こうして目の前で見ても信じられない。

仏像の裏に吹き込む強い風、白い光を感じながら歩く。
その瞬間俺の肩に、思いもかけない人物の手が置かれる。
「テウ、お前なんでここに」
そう小さく、鋭い声で呼ばれる。ユン先輩に。

「先輩、お久しぶりです」
驚きの余り、足が止まる。
「挨拶は良い、何でここにいるんだよ」
周辺に鋭く視線を投げる先輩。
まだ規制線は張られていない。
しかし周辺では明らかに慌ただしく人が立ち動き、作務衣を纏った住職も集まっている。
その中には以前の同僚や鑑識課の人間の顔も混じっている。
まだ国情院側の捜査部は現場にはいない。

「観光ですよ」
俺の呑気な大きな声に、周辺の人間の目が集まる。
敢えてユン先輩に言ってウンスの手を掴み、強く引きながら歩きだす。

「な、に言ってるんだテウ!」
俺の足を止めようと、ユン先輩が回り込む。
仏像の裏まで、あと10メートル。

「先輩、久しぶりに会えたのに冷たいっすね」
俺はそう言いながら先輩のガードを避け、足を進める。あと7メートル。

突然の俺達の登場で、鑑識課の人間たちの手も止まっている。
まだ規制線を張るな。頼む。
周辺の人間には見せなければいけない。
先輩が職務違反をしているわけじゃない事を。

「久々に彼女が、奉恩寺の仏像が見たいと言ったので」
あと5メートル。ウンスの腕を離す。

「ここは危険だ、すぐに出ろ。命令だ!」
「命令?いやだなあ先輩。見たいのは彼女です」
あと3メートル。俺はそこで足を止める。
先輩は命令を出した。これで規則違反には当たらない。

先輩、教えてくれましたよね。

「一般人の彼女を、正式な令状もなく拘束はできない。
行きたいところがあれば、警察は止めることはできない。
ですよね、先輩?」

俺は周囲の人間に聞こえるように言った。
「ウンス、行け!」
大きく叫び、彼女の肩を押した。
「仏像の裏が見たいんだよな?行け!行って見て来い!」
「キム・テウ!」
野太い怒号と共に先輩が俺の胸座を掴み上げる。

ウンスが走りだす。
その動きに一歩遅れて、周囲の鑑識が慌てて規制線のテープを取り出す。
まだ結ばれず、鑑識官の手の中で揺れているその規制線の黄色いテープを踏み超え、彼女はあの仏像の裏へ姿を消した。
その姿が台座を回り込んだ瞬間、風と光が強くなり、次の瞬間、それは穏やかに収まった。

規制線テープを手にぶら下げた鑑識官が、驚いたように叫ぶ。
「彼女が、消えました!」

ユン先輩が無言で俺を見る。俺は頷き、頭を下げる。
「ありがとうございました」
「お前、処分はどうする」
「俺はどんな処分でも受けます。先輩の責任ではないと、証明できればそれで良いです」
「お前なあ」

そう言って、先輩は俺の腹にかなり本気でストレートを一発見舞う。
格闘技有段者のその一撃に、一瞬息が詰まる。
「・・・っ先輩、可愛がりですか」
「怒ってんだよ俺は!」
「いや、俺の方はまだ何も通達はなかったんで。こっちの職務違反には当たらないと思いますよ」
「だからってな!」
「ただし、先輩の方で何かあれば、必ず出席します。
俺が逃がしたと証明も証言もします。ここの皆が目撃してる」

俺は周囲にぐるりと目をやった。全員が俺と先輩を見ている。
「必ずそうします」
その俺の肩を抱き、先輩が鑑識官に言った。
「取りあえず規制線を張れ、無駄かもしれんが」

 

******

 

ここに来るのは、4年ぶり。
あの丘を目指して駆けだして、すぐ違和感に立ち止る。

待って、変。どこ?どこが?

景色が違う。見える景色が。胸の中が、どんどん嫌な色に染まっていく。
それを振り切るように走りだそうとした時、 重いバッグが肩から滑った。
バッグを肩に抱え直して、一目散にあの木の元へと坂を下る。

いる?いない?分からない。
いなければ、また探すしかない。
その道程を想像するだけで、眩暈がする。

丘まで辿り着き、草をかき分けるようにあの木の見える場所まで進む。

2回目だから、もう分かる。あの木が小さい。
まるであの時、モンゴル時代に紛れ込んだあの時みたいに。

ここは、きっと高麗じゃない。私、帰れなかった。
そして辿り着いた、あの木の根元。
ぐるっと回って確認しても、やっぱりあの人はいなかった。

力が抜ける。
崩れるみたいに膝が折れて、ぺたんと足を止めた木の根元に座り込む。

ヨンア、私帰れなかった。きっとここは高麗じゃない。
私、あなたのところに、戻れなかった。

ここにも別のあなたがいて、私はまた巡り逢うのだろうか。
そして多分、その人をまた傷つけて旅をする。
いつかあなたに戻れるまで。

そこに、いる?

空に向けて、夜の中で、朝の光に、そう訊きながら。

「ヨンア」

声に出して、そう呼んでみる。
顔を空に向けて、大きな声で訊いてみる。

「そこにいる?」

此処に、おります。

あの愛しい、大切な声が聞こえる。

私はどうにか腰を上げる。止まっちゃ駄目。
天門まで戻れば、まだ開いてるかもしれない。くぐってみなくちゃわからない。

鉛みたいに重い足で、一歩踏み出す。
頑張れ、ユ・ウンス。止まらないで、歩いて。
笑っていれば大丈夫。いつかきっとまた逢える。

天門へ戻るために、木の根元を半周して、草原へ降りた時。

「此処におります。そう伝えた」

目の前を塞ぐ鎧の胸、頭の上から降る声に私は顔を上げた。
あの黒い目。伸びた髪。眉の傷。

「聞こえたか、イムジャ」
「・・・・・・え?」

その瞬間、硬い鎧の胸に私の顔が押し付けられる。
「何処にいた」
そう呟く声が聞こえる。
「何をしていた」
「・・・よ、んあ?」
「何度探して門をくぐったか、知っているか」

探し続けたあなたの腕の中にきつく抱き締められても、まだそれを信じられない私がいる。

腕の中で顔を上げて、その頬に触れる。
額に手を当て、目を覗き込む。
頸に、手首に指を当てて脈を取る。
心から懐かしい、その脈と肌を指先に感じながら。

「本物・・・?」

私のその声に、あの目許がほんの少しだけ緩む。
ゆっくり頷く、あの懐かしい顎の線が見える。
次の瞬間私の手が握られる。あの大好きな掌に。
残る片手で私の肩に掛けたバッグを奪い取りぞんざいに肩に下げると、鬼剣を握り直して
「話は後ほど。参ります」

そう言って私の手を引き、ヨンアは大股で歩きだす。
天門は今も大きく開いて、眩しい光が射している。

その光の前で、あなたが足を止めて私を見つめる。
私はその目を見つめ返す。

「もう二度と離れるな。これが最後だ」

私は強く頷いた。何度もくぐるものじゃない。
くぐって許される場所じゃない。運命さえ変えてしまうこの門は。
必ずいつも誰かを巻き込み、その人生まで変えてしまうこの門は。

「全て残さず、終えましたか」
私はこくんと頷いた。もう何もない。
あなたから離れる理由はもう何もない。

「もう、絶対に離れない」
「誓えますか」
「うん、誓う」

どこに出るのかは分からない。それでもあなたと一緒なら。
私はあなたの手を強く握り、引かれるまま光の中へ一歩踏み出した。

もう、二度と離れない。それだけ誓いながら。

 

 

【 輪廻 ~ Fin ~ 】

 

 

 

 

リク話【 輪廻 】 終了しました。
にしブ~さま、素敵なリクありがとうございました。
そしてヨンで下さった皆さま、ありがとうございました。
皆さまそれぞれのイメージを崩したくなく、テウのイメpicは
最後まで取っておきましたが、
私のイメージは、オ・ジホさんでした❤
(角度により伊藤英明さんに似てますが、他人です)

後半、UPが遅くなって申し訳なかったです(ノ_-。)
次回より、ヒドひょんのお話始まります。

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1 個のコメント

  • ヨンの生まれ変わりだけあって、やっばりテウもいい男でしたね。
    生まれ変わった人はやはり別な人となってしまうのでしょうか・・・?まだ私には解らないです。生まれ変わりをどのように考えたらいいのか解りません。生まれ変わりのテウを選ぶという選択はヨンを裏切ることになるのでしょうか?
    生まれ変わりは同じ魂を持っているということはないのでしょうか?もし同じ魂であるなら、どの生まれ変わりの人を選んでも、同じ魂を選んでいるのでは?
    こんなことを考えてすいません。

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