2014-15 リクエスト | 為虎添翼・10

 

 

800スレッドのあのシーツは、とても役立ってくれた。
溶けるような肌触りの寝心地は、やっぱり最高だった。
そこに2人で入ったら、もう二度と出たくなくなった。

絶対に怒ると思ってた。別れる事になるかもって。
でもこの人は彼はチャン先生だと言ったきり、 その事に何も触れなかった。

横で眠るあなたの腕にそっと触れてみる。
白いシーツを引き立て役にした、薄く筋肉の浮いた腕。
その指に結んである赤い糸が見えればいいのに。そう思いながら。
見えればその糸は、絶対この指につながってるはず。
そうじゃなきゃ、私はきっと無理やりにでも結ぶ。

この人が大儀そうに、ゆっくり目を開ける。
開けた瞬間、どこにいるのか分からなかったんだろう。
私をじっと見た後に天井を、窓の外を見回して、もう一度私を見た。

そのまま顔を見ていたら、明らかに、しまった!って顔をした。
傷つくより怒るより、まず思わず吹き出してしまった。
しまった!って顔の後で私を見てすぐに目を逸らして、 その横顔で見たことがないほど嬉しそうに笑ったから。

「ご両親にお許しを頂く前に」
そう言って、この人が大きな掌でその目許を隠した。
「隊長、お願いがあるの」
私がその胸に腕を回して顔を見上げると
「何ですか」
目許を隠したまま、穏やかな声で訊き返された。

「両親に会う時、ジェウォンオッパも一緒に来てほしい。 一緒に説得してほしいの。
だから今日この後、二人でオッパのとこに行ってもいい?」
その声にこの人が目許の掌をゆっくり下ろして、私をじっと見た。

きっと私だけがこの人と一緒に行っても、アッパは許さない。
この人の問題じゃない。オッパのおじさまの事がある。
そして最後にオッパにも、しっかり話さなきゃいけない。
もうここに戻らない事、一緒にはいられない事。
MSF、国境なき医師団への参加を断ったのは、おじさまの事だけじゃなく私の事も理由の1つだったと思う。
私が医師として経験を積んだら一緒にと、思っていたのかもしれない。

自由になっていい。待たないでいい。生きたいように生きてほしい。

あなたは私の運命の人じゃないけど、道を示してくれる大切な仲間だから。
離れた扉の向こうから私を叱って。
大事な時に力が足りずに落ち込んだり、この人と喧嘩してめそめそしたら。
ウンスはそんな奴じゃないだろって言って欲しい。
私がこの人の世界で持てる力の限り、患者を救えるように導いて。
そして何より、この人を護れるように見守って。

そんな風に思うこの世で一人きりの大切なあなたが、私に向けて静かに訊いてくれた。
「一人で会って来なくて良いのですか」

 

侍医の気質を思えば、俺が共にいる事を嫌がるはずだ。
ましてそのような最後の話し合いの場、あの男の体面もある。
ご両親との対面に援護を頼むのも気が進まぬ。
俺とこの方で片をつけるべき問題だ。
しかし今までの経緯を思えば、それが自然なのだろうか。

こうしてこの方のすべてを手にした後に、あの侍医の前に立ち、残される侍医に何を伝えれば良い。
この方は身も心も俺のものだ、ゆえに手を出すなとでも伝えるのか。
埋めたかったのは己の心の穴。いつも何か足りぬと焦っていた穴だ。
あの男の心を穿ちたい訳ではない。

「2人で会いに行きたい。最後に。あなたが私にとってどんな存在なのか、ちゃんと伝えたい」
この方がねだるように、胸に回した手を揺する。
この方との間を隔てていた布が一枚無くなった。
それだけでこうも違うものなのか。
己の肌にこの方の肌が触れるとはこういうことか。
胸を揺すられ改めて思う。
だからこそ、それを追ったあの男の気持ちが判る。

「それは悪趣味が過ぎます」
いかな剣の遣い手とはいえ残忍すぎる。息を吐きそう諭す。
「私なら全部聞いて、納得してからにしたい」
「知らぬが仏とも」
「私を1人で会いに行かせたいみたい」
「そう言うわけでは」
「分かった。釣った魚に餌はやりたくないんでしょ。今までは他の男の人と2人で会ったら怒ったくせに」

・・・何を言い出すのだこの方は。
その不満げな声に、胸に擦り寄った小さな肩に手を回す。
「釣った魚は、生涯大切に飼います」
その肩先に唇を寄せて呟くと、手を回した肩が粟立った。
「まず話を聞いて」
この胸を両手で押して逃れようとする小さな抵抗に苦笑し、腕を広げてその身を逃がす。

それでも会いに行く気にはならぬ。誰よりもあの男の気持ちが分かるからこそ。
俺ならば平静に聞くことなど出来ない。これほど追った方からであれば尚の事。
怒鳴り、縋ってでも翻意を求めるだろう。その姿を俺が見る訳にはいかぬ。
あの男であれば、決して無茶はしまい。
そうするにはこの方を慕い過ぎていた、少なくともあの頃は。
信じて行かせる方が良い。
そう思いながら細い肩を、今一度この腕の中へきつく囲い込んだ。
その肩は窓からの光に溶け、腕の中でも見失いそうなほどに白い。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    ウンスちゃんひとりで、婚約者と会うの?
    チャン侍医の生まれ変わりでも、人柄も同じとは限りませんよ。
    それに、チェヨンくんをひとりにするのも心配です。

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    一夜を過ごしたからの ヨンの想い ウンスの想い
    男と女の考え方の違いが よくわかります。
    にしても さらんさんって 脳ミソがヨンになってるのね 男の気持ちを ここまで描けるなんて…(゜o゜)

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    チェ・ヨン 男としてチャン侍医のプライドを護るのですね、これはウンスが蹴りを付けなければ成らない問題なんですね。
    ウンスが、彼を説得出来ればご両親もきっと納得してくれると…
    早く続きが読みたいです。

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    さらんさんこんばんは♪
    Rか?と思ったら
    すっ飛ばしなのね♪( 〃▽〃)
    さらんさんらしい(*^^*)
    チャン侍医はなるほどって思いました
    たしかにびっくり登場(^w^)
    ヨンとウンス
    まさか結婚前に?( ・∇・)
    でもあの状態でいかねば男でないわ(  ̄▽ ̄)
    と思ったのでよかったです。
    そして「しまった」と
    思ったヨンに萌ました。(*≧艸≦)
    パラレル考えるにはそうとう
    エネルギーを必要に思えます。
    さらんさんファイティン(~▽~@)♪♪♪

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    チャン侍医に背中を押され迎えた嬉し恥ずかしの朝。
    何ともこそばゆい空気の流れる二人ですね。
    目を隠して気まずそうに照れているだろうヨンが可愛いです。
    ウンス、けじめをつけに行くのですね。ウンスはオッパとして、ヨンはチャン侍医として見ているから同じ人でもそれぞれの想いは違うようですね。

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いえいえ、ヨンは結構はざまで揺れているのですよ~
    ただ侍医の面子と体面の為、彼の男としてのプライドも
    尊重しているだけなのでしょう・・・w

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    爆!脳ヨン。望ましいことです( ´艸`)
    私は明らかに、ウンスよりはヨンになりたいですねwww

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    最近思うのです。韓国で受け入れられず、日本でここまで
    受け入れられるのは、ヨンのメンタリティが
    (というか、キャラ全般の)
    日本の武士道に近いから?と。
    韓国ではこれは共感を得にくかったのかなと。今回の我が家のヨンは「武士は食わねど高楊枝」です(え

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    >海月さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    守りますね、さすがに。実際そうは行きませんがw
    ただし、話に割り込む無粋だけは避けるようです( ´艸`)

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    >わるきさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あはは、そこは妄想の出番です、わるきさま❤
    思う存分、どうぞです❤❤( ´艸`)❤❤

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    >愛知のひとみさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そこであーしてこーしては書かぬが華ですw
    妄想枠ということで❤
    このリク話は、この話に限らず本当にいろいろ、自分の限界挑戦中です。
    なんかこうやって一つずつ昇華していくと心残りもなくなり
    いい具合に雑念も消えていく気がw

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    さらん様、こんにちは❤
    ヨン(ウンスも?)、本懐を遂げましたね(*^_^*)
    優しくて、くすぐったい朝を迎えたふたりが、
    本当に幸せそうで、私も嬉しいです。
    ヨンのチャン侍医(?)に対する思い理解出来ます。
    さらん様、流石ですね(#^.^#)
    このイケメン二人には、愛する女が他の男を選ぶ場面に居合わせるのは、剣で突かれるよりも、辛い事なのかも知れません。
    深いなぁ...(=_=)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    コメ返の遅れにて、話自体はかなり先行しておりますが。
    結局の処、話をつけにとはいえヨンもくっついてくるしw
    もうなんだかなー、です(;´▽`A“

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これですね、お互い認めあっているからお互いを選ぶならば
    まだどうにか理解しようとするでしょうが・・・
    第三の男だったら、血を見ますね。恐ろしや(°Д°;≡°Д°;)

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