2014-15 リクエスト | 輪廻・11

 

 

帰してやれば良かった。
あの時帰してやれば、苦しませる事はなかった。

王命など犬の餌にくれてやれば良かった。

あの腕を掴み、無理にでも突き飛ばし。
あの光の中に戻してやれば良かった。
此方側へと引くのではなく。

己の名を懸けた約束を果たすべきだった。
何と引き換えても、最初のあの場所で。

─── 何の事だ。何を言ってるんだ。

命尽きるまで護る。
そう決めたのなら一人にすべきではなかった。

何処へ行こうと必ず共にいるべきだった。

あの方の手を握り、必ず俺も行くと伝えて。
何が何でも共にくぐるべきだった。
あの手を離すのではなく。

理解のある男の振りをするのではなく。
俺が戻るまで待てと、そう言っていたなら。

─── 俺は、手を離したのか?

ああそうだ。俺は手を離したのだ。
絶対に離すべきではなかったのに。

命令を聞くべきではないのか?

誰にも分からん。己の心のみに従え。
心のみが、行くべき道を知っている。

 

その声を聞きながら目を開ける。ああ、夢か。目を開けてやっと知る。
体が重い。頭も、そして心の奥のどこかも。

もうすぐ明け方だ。たいして眠っていない。
ベッドに上半身を起こし、窓の外を眺める。

あの手を離すべきではなかった。 命令を聞くべきではなかった。
その声を繰り返しながら、溜息をつき頭を振る。

─── あの手を、離すべきではなかった。

 

******

 

「都市伝説があるらしい」
オフィスに入って来た同僚が、俺の座るデスクの端に腰を掛けていきなりそう言った。
「・・・急に何だ」
「ネットでな。情報部ではもう話題になってるよ」
「たかが都市伝説でか」
「いや、それでじゃない」
「何が」

奴は俺のデスクの上のパソコン画面に文字を入力し始めた。
職員IDカードと指紋認証で二重ロックのかかったPCは館内でイントラネットを使用する限り、セキュリティにはかからない。
素早く打ち込んだ画面を目で示される。

ダマッテ キケ

「急に盛り上がっただけじゃなく、信憑性があるらしい」
無言で頷くと、入力は続く。

ユ・ウンスガ ハラレテル

「ネットで盛り上がってるのか?ネットだけか?」
俺はそれに頷き、入力を返す。

ナゼ

奴は即打ち込む。

レイノ ユウカイジケン

「今のところは証券街のチラシ程度かもしれん。それにしてもこの話になると、結構いるらしい。
私の知り合いの知り合いの親のかかってた医者がいなくなった、それも20年も前に・・・とかな。
リアルに病院の名前が出たりする。
で、暇人が調べるじゃないか、その医者を。そうすると、本当に失踪してたりするらしい」
「そうなのか。偶然の一致じゃないってことだな。失踪ありきの後付けの都市伝説じゃないのか?」

ソウサブガ ウゴイテル

「そうかも知れんが、子供が騒ぐには十分なんだろ。お前もたまにはネットくらい見ろよ。
世相が分かる検索人気ワードくらい覚えとけ。モテないぞ、若い子に」

ワカッタ

「そうだな。で、最近の人気ワードは何なんだ」
「失踪、神隠し、そんな感じだ。ただの人気凋落で消えた芸能人まで対象になってるよ。田舎で見つかるのが関の山だ」

ポンウンサガ カランデル スグイケ

「興味ないな」
俺はPCの履歴を全消去しながら、そう言って席を立った。
「言うと思ったよ」
奴は頷いて、デスクから腰を上げた。
「コーヒー買いに行くけど、お前は?」
「ああ、俺は良いや。じゃあな」
そう返す奴に頷き返し、俺は部屋を飛び出した。

部屋を駆け出て車に飛び乗り、公衆電話を探す。近頃一番見なくなった、携帯時代の現代の遺物。
それでも逆探知には一番時間がかかる。彼女の職場に対し、正式な令状が出るまでは。

コンビニエンスストアの入り口に目当てのそれを見つけ、車を停めて走って近づく。
ウンスの研究室へ連絡すると、すぐに内線電話が彼女の研究室へと転送される。
「はい、ユです」
あの明るい声が、電話越しに聞こえる。
「ウンスヤ、俺だよ」
「うんテウ、どうしたの?」
公衆電話の小さな台に肘をつき、安堵の息を吐く。
「いや、声が聴きたいなって」
ふふふと笑うその声に。
「今、丁度休憩中だったの。どうかした?」
「今晩、時間あるか」
「あるよ、今日は早く終われそうだし。7時半から8時くらいかな」
「それでいい、十分」

そう言いながら、俺はさりげなく周囲の気配を読む。
オフィスから出てここまで、尾行の気配はない。
時間との勝負か。それともまだ身内を疑うことはないのか。

少なくともこの4年を調べ、彼女に内部情報が渡っていない事は捜査部も確認しているはずだ。
この件で関係者の俺が捜査に加わることはないだろう。
4年前の事件の捜査担当だったことは勿論、ウンスとの個人的な付き合いも、全て既に把握されているはずだ。

「じゃあ、8時に研究所に迎えに行く」
「うん、あ、でも・・・」
言い淀んだウンスに、心臓が嫌な音で鳴る。
「どうした」
「今日おしゃれしてないから、期待しないで」

何だよ。その声に腰が砕けそうになった。
これ程呑気なら、まだ状況は差し迫ってはいないはずだ。何か怪しい気配があれば、幾らなんでも気付くだろう。
「何着てても綺麗なのは知ってる。じゃあ後で」
「うん、後でね。気をつけてね」
「ウンスヤ」
「・・・・・・ん?」
一度遠ざかった受話器越しの声が、慌てたように戻って来る。

「愛してる」

考えるよりも先に出たその声に、自分自身が一番驚く。
驚いているはずなのに、今言わなければいけない気がする。

「テウ、どうしたの?」
「・・・いや、言いたかっただけ。後で」
「うん、後でね。テウ」
「ん?」
置こうとしていた受話器から洩れる声に、 今度は俺の方が慌ててそれを再び耳を近づける。

「そこにいるよね?」
「いるよ」
「後でね。お願いだから気をつけて。無茶しないで」
「分かった。切るぞ」
「うん」

今度こそ受話器を置き、俺は大股で車に戻る。次の目的地はすぐそこだ。

 

 

 

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23 件のコメント

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    さらんさん、お話の更新、ありがとうございます❤︎
    今日はゆっくり休めましたか?
    薬はちゃんと飲みましたか?
    さて、さらんさんのお話です!
    いつもながら、必ずドキッとするフレーズが入ってるんですよね。
    「理解をするふり」…!
    後悔の原因にぴたりと当てはまり、クラクラしました。
    お話が一気に動き出し、スマホから目が離せません。
    さらんさん、水分をたくさん摂られて、しかと身体を休ませて下さいね!
    本当に御大事に(´・_・`)

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    さらんさん、こんばんは。
    さらんさんの書かれる二次小説,大好きで毎日、繰り返し読ませて頂いてます。
    この「輪廻」・・・辛いです・・ウンスの想い。そして、高麗に残してきたヨンの事。
    ヨンの生まれ変わりであろう「テウ」とウンスは幸せになれるのかな・・でも、幸せになってほしい・・
    でも、高麗に残してきたヨンは、どうすれば、幸せに死ねるの・・とか。
    さらんさんが、書き始め、ぼろ泣きしたと言うとおり、読めばよむほど、辛すぎて、悲しすぎて・・・
    大好きな作品、これからも楽しませて頂きます。
    ありがとうございます。

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    わぁ。ドキドキします(*^^*)
    何かが動きだしそうですね。
    それにテウの奥の奥に眠っている(前世の?)記憶の扉が開き始めたのでしょうか…

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    もしかして、ウンス過去に戻れます?
    テウが命令を振り切り、天門の中にウンスを
    押し込んで、ヨンの元へとか?
    勝手にこちらの想像がどきどきしながら、
    たくましくなります。
    こんなに予測や想像をめぐらしてるのも、
    シンイではじめて!!
    ほんとに素敵です。
    勝手にほざいて、ごめんね。(≧▽≦)
    また次の話を待っています。('◇')ゞ
    (@^^)/~~~

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    起承転結の『転』のようですね。
    彼の仕事とウンスの事件でもしかするとお国事情の誤解を受け始めているような…
    重いテーマを書いていて熱が出たのではないですか。もう大丈夫ですか?無理はしないでくださいね。

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    >なんちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あはは、ドキドキしちゃってください❤
    最後に、ああ、と思って頂けると嬉しいです(*v.v)。

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    >coco_cat^.^さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、今回はさすがに助走(起)が長かったので
    勢い二人の関係が深まる期間(承)も長く・・・
    自身が納得できる話運びと、この文書の長さという板挟みで
    葛藤する日々です・°・(ノД`)・°・

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これは、どうなるのでしょう。
    少なくても、この二人がいろいろと決意することは確実です。
    そして最後に、皆が笑って終わりが迎えられれば嬉しいなと(*v.v)。

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    お話は、終盤です。そしてテウも、ウンスも
    それぞれに決意のしどころです。
    皆が理解したふりをせぬよう、そして後悔せぬよう・・・
    それを祈りつつ、もう暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >遥さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    人生が選択の連続であると、この話を書き始めた時思いました。
    そして最後に、選択を間違えたらアウトなの?と
    そこが、伝わることを祈りつつ・・・
    今暫し、お付き合い頂ければ嬉しいです❤

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    >まろんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    何しろ「歩みが遅くて」ですwこの辺りはヨンですww
    記憶の扉、そしてこれから動き始めるいろいろな予兆・・・
    うう、書き手だけが知っているこの先を、皆さまにどうお伝えできるか。
    この段階が、いつも一番緊張します・・・
    最後まで今暫し、お付き合い頂ければ嬉しいです❤

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    PASS:
    >yokoさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これなのです、二次創作物の楽しく、難しいところは。
    結末までを知っているのは書き手のみ、そして
    ああ、全てぶちまけてしまいたい、という衝動に駆られるのも
    一度や二度では御座いませんww
    あまりに辛い、哀しい、というコメントに関しては、
    大丈夫な時は大丈夫ですよ、とお答えします。
    それは、駄目かも、いや大丈夫かも、と
    そうした精神状態で、ネットでの二次創作物
    (=UPまで好き勝手に終わり部分を読めない。書籍ならできるのに)
    を書くことの難しさだなあ、と。
    たださすがに、全部ぶちまけるのは野暮なので、やれませんが・・・(;^_^A
    終りまで今暫し、お付き合い頂ければ嬉しいです❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    はい、動きました。
    ヨン(らしき人w)のじわりとしたあの言葉から。
    さすが完全無敵の無敗帝王、その呟きの威力破壊力の
    HP高さ、ハンパなさそうです。
    後暫し、お付き合い頂けると嬉しいです❤

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    PASS:
    >海月さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    全然話が違うんですが、今海月さまへのコメ返をしようとしていて
    うぃんぱちBGMでDon't Wanna Miss A Thingが・・・
    ヨンに叱られたような気になりましたw
    俺の横以外で、イムジャを寝かせるな、と。
    ドキドキお待ち頂ければ嬉しいです。
    もう暫し、それですべてが伝われば嬉しいです・・・(*v.v)。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、私の中では、前世(ソンジン)現世(ヨン)来世(テウ)ともに
    少しずつ違い、少しずつ被り、そして根っこのところまで掘り下げると同じ、を目指しています。
    テウも、いい意味で不器用であれば、それもまた道。どうなるか、今暫し見守って頂ければ嬉しいです(*v.v)。

  • SECRET: 0
    PASS:
    おはようございます(^^)
    益々先がわからなくなりました。ウンスの切ない気持ちを感情移入すると、う~ん^^;
    やっぱり切ないです。
    常に心にはヨンが居るゆえ。次を待つ間過去の作品を読み返してしまう私です(≧∇≦)

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    PASS:
    >のりちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これは、最後まですごく悩んだ部分でした。
    今回はソンジンの時とは違い、明らかにウンスが心を開いていたので。
    でも、やはり最後は・・・です。
    今宵の最終話(長いですが)お付き合い頂けたら嬉しいです(*v.v)。

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