2014-15 リクエスト | 輪廻・1

 

 

【 輪廻 】

 

 

今年も春が来たらしい。
寒い、長い冬は終わったって、TVのニュースは言っている。

「各地から続々雪解けの報せが」
「済州ソプジコジの菜の花畑に」
「鎮海、安民道路では桜の花を」

ああ、そうなんだ。世の中はまた春が巡ってきたんだ。
私の時間はずっと止まってるのに。

ねえヨンア、春が来たんだって。

あなたのあの高麗の、部屋の窓から見えるその景色にも

桜は咲いてる?

そこに、いる?

 

******

 

あの日、あの天門を潜ったのは何故なんだろう。
何回も繰り返した自問自答を、また繰り返す。
あなたが言ってくれた言葉を鵜呑みにして、絶対に戻れると思って潜ったのは何故だったんだろう。

何度も行き来できたから、大丈夫だと思った?そんなの言い訳にしかならない。
信じていたから、戻れると思った?そんなことは、誰にも分からなかったのに。

強い想いが、縁を結んだと思ってた。あなたしかいなかった。
私が心から信じて、大切で必要で、横にいたいと願った人は、あなたしかいなかったのに。

「ウンスヤ、もういい加減にしたら?」
2人で飲むバーで女友達は横のスツールを立ち、したたか酔っ払った私の肩に手を掛けた。

暗い店内、静かに流れる音楽。
ところどころに灯ったキャンドルの揺れる影は、あの頃の、高麗の夜を思い出させる。

夜になると部屋の蝋燭を灯して、あなたの帰りを待っていた。
今日は遅いかな、それとも早いかな。何が食べたいかな、そんな風に思いながら。

泣いても泣いても、泣いても。
叫んでも逢えない。呼んでも声は返らない。

「いい加減にって、何を」
私酔っぱらっている、と、脳のどこかが冷静に考える。
「あんた、ずっと変じゃない。ほらいつだっけ。
一週間くらい行方不明になって、部分性健忘症で戻って来たの」
「4年前」

女友達は、大袈裟な顔で、私の顔を覗き込んだ。
「もうそんな前だっけ?」
私はその声に頷いた。
「そうよ、そんな前よー。驚いちゃうわよね」
あははは、と笑い始めたら、笑いが止まらなくなった。

4年前、あの時私は、何であの門をくぐろうなんてそんな風に思ったんだっけ。
酔った頭で、必死に思い出す。
そう、両親に会いたかったんだ。
ちゃんと挨拶もせずにこの世界に置いて来てしまったアッパとオンマに。

あの人は、あの人は何て言ったっけ?
「イムジャ、行って来い」
そうだ、そんな風に言ってくれたはずだ。
「そして俺の分も、お礼とご挨拶を」
あの人は紅巾族との戦いと、そして倭寇の制圧と、そんな事に忙殺されて始終皇宮を留守にしていた。

「一緒に行ってやれれば」
そう言って私を抱き締めた。大好きなあの長い腕で。
私はあの人の胸に抱かれて言ったんだ。
広い胸に顔を埋めて、あの人の香りを吸い込んで。
「大丈夫、すぐに戻って来る。待ってて」

待ってて、と。

だからきっとあなたは待っているはず。あの木の下で。
すぐに帰る筈だった。帰れる筈だった。
戻ってきた奉恩寺で、社務所に飛び込んだ。
携帯電話を借りて、そこから実家に電話をした。

行方不明だった私の声に、電話に出たオンマは泣きながら
「どこに行ってたの、馬鹿なことして、1週間も!!」
何度も何度も、そう言った。
「ごめんね、思い出せないの。でも無事よ、体はどこも問題ない」

会いたいといった私に、心配したオンマは急いで 江南まで駆けつけてくれた。
そのまま病院に連れて行かれた。
COEXで消えた時の状況も状況だし、捜索願が出されていたせいで、発見の報告を受けた警察もやって来た。

「逆向性部分健忘です」
ドクターのその声に、診察に立ち会っていた2人のうち、年嵩の刑事さんが不審そうに、
「逆向性部分健忘?」
そう声を上げた。

「あれですか、よくTVでやる、ここはどこ、私は誰ってやつですか」
「端的に言うなら、ええ、その通りです」
健康診断、CTもMRIもレントゲンも血液も脳波も検査して。
その電子結果画像のモニタを見つめながら、ドクターが言った。

そのドクターの部屋の窓の外。泣きだしそうな曇り空が見える。
高いビルの上階にあるこの病院の窓からはその灰色の空しか見えない。

まるで今の私みたい。早く帰りたい。こんなに高い場所にいたくない。
こんなデジタル機器に囲まれて、嘘っぽい言葉で、勝手に病名をつけられたくない。

早く帰って、あの人に逢いたい。
あの人の大きな掌で、髪を撫でてほしい。
あの頬に触れて、あの黒い目を見て、脈を取ってあげたい。
どこも痛くないのか、確かめてあげたい。
私にしかできないんだもの。だから帰らせて。

「外傷はありません。でもこの1週間の事が、大きなニュースも含め、何も思い出せない。
脳波の反応も含めて、本当に思い出せないようです。そうなんだよね、ユ先生?」
「・・・はい、そうなんです」

私は心ここにあらずで頷いた。思い出せないのは本当。
それが部分健忘と呼ばれるなら、それでもういいから。
だから行かせて。もうオンマに会えた。もう帰らせて。

「この後思い出せるかもしれない、きっかけがあれば。
焦ることもない。ユ先生の病院には、うちからも 報告をします」
そのドクターの言葉に、私は頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

これで戻れる。もう帰れる。
私は慌ててドクターの前の椅子から腰を上げ、 オンマの手を握り、そのまま診察室を飛び出した。

 

 

 

 

リク話【 輪廻 】 開始です。
184. 無題
ウンスのいたソウルで、ヨンの生まれ変わりと出会う。
どんなシチュエーションで、どんなお話しになるか、楽しみです。

(にしブ~さま)
開始ですが、これはちょっと、まずいかもしれません。
書きながらボロ泣きしたのは初めてです。
あまりにキツ過ぎちょっと方向転換必要かもです・・・
明日朝までに考えます・・・

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14 件のコメント

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    これは、さらんさんではないですが、
    うるうるしてしまいました。
    ウンスも可哀そうですが、残されたヨンが可哀そうで可哀そうで!

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    あれだけ 帰りたかった場所なのに
    あれだけ会いたいと思った人たちなのに
    もう ウンスは 高麗の人になっていたのね
    今は 高麗に帰りたい ヨンに会いたい
    あわせてあげたいよ~
    離れ離れは もうイヤなはずなのに~

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    さらんさん、今夜もありがとうございます。
    新しいシリーズに突入ですね。
    何もかもが便利な現代では、どこで何がどう動いているのか、何の恩恵を受けているのか分からず、こうして冬の夜の下でも温かく、明るく過ごせるわけで…。
    でも、その代わりに大事なものを切り捨ててきているのでしょうね。
    大切な人が居るところがウンスの住む世界だとしたら、今のソウルは、ずうっと寝泊まりしていても家具の一つも買おうとしない「ホテル暮らし」のようなものかもしれませんねえ。
    でも、さらんさんならではの新シリーズ、本当にいつもいつも楽しみです❤
    さらんさん、お恥ずかしく、図々しく、そして厚かましいですが、今日は私の誕生日でした。
    さらんさんのお話に出会ってから今日まで、私の一日一日に素晴らしい「彩り」を添えて下さったこと、感謝感謝です❤

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    さらんさん、いつも楽しく読ませてもらってます。リク話、ありがとうございます。出だしからすでに、切ないモードですね(*_*)四年も会えていないウンスとヨン(>_<)それだけで、すでに私も泣きそうです(T_T)

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    さらんさんがぼろ泣き・・・うわー。いったいどうなるのでしょう・・・。。。
    ちゃんとヨンの事は覚えてる、そしてヨンの生まれ変わりと会う・・・
    ん、んーどうなるの・・・???
    ハンカチ用意して続きをお待ちしております

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    >muuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    ああ、日が変わってしまいました。
    ごめんなさい、でも遅まきながら
    ❤❤❤お誕生日、おめでとうございます❤❤❤
    muuさまに出逢えた今年に感謝します(*v.v)。
    そしてそんな日の近くに、媽媽の御子様が生まれたことも
    (んー、あと1日ずらせばよかった!)
    今回は、書くほどに切なく胸が痛く
    これはまずいのではないか、と・・・
    でもソンジンの二の舞話になるのも困るし、
    とても悩んでいます。
    楽しんで頂ければ嬉しいのですが・・・

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    >かよさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    これですね…ここからどう書いても、痛い悲しい
    そんなお話になりそうで、どうしようか本気で考え中です。
    HAPPY ENDになる自信がなく。
    楽しんで頂けたら嬉しいですが・・・ううう、です(ノ_-。)

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    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    そうですね、ウンスにとっては現代だろうと高麗だろうと
    ヨンのいる場所が、自分の居場所になっているようです。
    いやあ、今回は本気でまずいかもしれません。
    全く明るい先が見えて来ず、苦しいです・・・

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    >にしブ~さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    今回は、ソンジンの二の舞話にしてもつまらないし、
    現在の世界で会うならヨンはいないはずだし・・・と。
    書くほどに胃が痛くなる感じです。
    さすがに今回は、楽しんで頂く自信が・・・
    ヨンで頂けたら嬉しいです(ノ_-。)

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    さらん さま
    新リク話、始まりましたね。
    しかし、スタートから2人が逢えなくなって四年、、、。
    シンイ関係者は四年が好きですね(笑)
    四年も逢えないなんて、酷すぎます。
    ヨンが待ち切れずに迎えに来るやもしれないぐらいの年月です(>_<)
    さてさて、どうなることやら。気になります。

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    >★sachi★さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これはもうねー・・です。
    書いてて今はちょっと胸塞がる重重さですが
    最後に嬉しい部分があることを祈りつつ・・・
    頑張ります

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これは私も初体験、泣きながら書きました。
    (2話部分)
    はー、苦しかった。でも仕方ないです。
    ちょっとは緩やかにしたので、ましになるといいのですが…

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    >milkyさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    三年では短いし、五年じゃ長すぎるって感じなのですかね?w
    ヨンも、そうですね・・・迎えに。はい。
    この後もかなり辛いシーン、続きます(ノ_-。)

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