2016 再開祭 | 海秋沙・序

 

 

【 海秋沙 】

 

 

何処までも唯青く高く広がる秋の空。
探しきれぬ涯を探すよう見上げる瞳。

その横顔を縁取る透明な秋の陽射し。

鞍上から、揺れる薄原の中から、あなたはいつも見上げている。
空を、風を、流れ行く雲を、そしてあなたを見詰める俺の眸を。

鮮やかな景色はどれ程の筆上手でも、正しく残す事など出来ん。
瞬きのたび己の脳裏と瞼に写し取る。忘れぬように祈りながら。

いつか最後に眸を閉じる時、必ず思い出せるように心にしまう。

そしてあなたに言うだろう。行きましょう。
これからも俺と生きましょう、イムジャと。

そんな風にして閉じる瞼の裏に闇が広がる事はない。
ただ明るく優しい風が吹き、美しい笑顔だけがある。

今日写し取った一瞬の、そして久遠のあなたの笑み。

そして俺達は旅を続ける。螺旋の中に互いを探して。
何一つ変わる事などなく、そして何もかもが新しい。

だから言う。見つけ出した懐かしく新しいあなたに。
あなたが教えて下さった大切なあの天界の言の葉を。
知らない筈なのに声が震える程に大切なあの一言を。

愛していると。

 

*****

 

光の中で見つけるあなたは、いつも昨夜腕に抱いた方と違う。
何一つ変わる事のない、まるで刻を止めたような美しい寝顔。
それなのに、いつでも昨夜とは違う。

昨夜眠りに落ちる前よりも、今朝目覚めるあなたを愛している。
想う気持ちは空と同じ、海と同じ。風や雲や、陽や月と同じだ。
涯はなく、ただ生まれ出で、誰にもそれを止める事は出来ない。
この顔に笑みが浮かぶ唯一の理由。

今の密かな楽しみは、この方より先に目覚め寝顔を確かめる事。
寝息の調子の変わるのを耳に睫毛の揺れる影を見詰める朝の床。

見慣れない旅籠の天井に、窓の桟の格子模様が描かれている。
其処を睨み眸を閉じる。朝から天女に覆い被さる訳にはいかん。

はねむーんとは温故知新。
懐かしい者と思い出を分け合う事であり、新しい道を共に進む歩みの決意。
そしてまたもまじないを唱え、悶々とした眠れぬ夜を過ごす事でもあった。
いや、この方が相手だからそうなるのか。
少なくとも俺の周囲で妻を娶った男に、そんな戯言を口にする奴はおらん。

誰もが共に居て当然のように日々の暮らしを重ね、子を生す。
時に波風が立ち心を移し、金に飽かせ情人を拵える者もいる。
他人の事など気に掛けぬ俺の耳にまでそんな噂話が届く程だ。
改めて知ろうとすれば、相当な醜聞がその影にある事だろう。

だからこそ不思議でならん。
好奇心ではなく暇潰しでもなく、単純に不思議に思う。
これ程愛おしい女人を腕に、どうすれば他の女に目が移せるのか。
まして子までを生したなら。

子。この方と生す子。
考えるだけで緩む頬を、どうにか奥歯で噛み殺す。

庭にはためく洗濯物に交じるだろう小さな産着や襁褓。
あの時慶昌君媽媽に歌ったような、調子外れの子守歌。
げーむとかいう、天界の俺の知らぬ遊びもあるという。

俺は漢文を教えよう。そして無論武芸を。生きる力を。
この方は医学、そして天界のあの文字を。優しい心を。

旅籠の窓から射し込む朝陽は刻々と高さを変えていく。
眩しさにあなたの眠りの邪魔をさせぬよう、溢れる光を掌で遮る。

其処に輝く金色の輪。
心の臓に繋がる指に光る、割れず、欠けず、曇る事のない金剛石。
そして俺の夜着の袷を握る小さな手、その指に光る同じ誓いの輪。

眠るあなたは今、どんな夢の中にいるのか。
瞼は閉じているのにその口許は笑んでいる。
愛していると千回、萬回伝えれば良いのか。
そうすればいつかこんな朝も日常になるか。

それなら苦労はない。ならないから戸惑う。
いつまで経っても色褪せぬ初戀と、毎日向かい合うようなものだ。
息は詰まり、心の臓は蝶のように飛び回る。
あなたの視線の一つ、声の一つに一喜一憂して振り回されている。

高くなっていく陽射し、温かみを増していく窓の外。
今日は穏やかな日になるだろう。
朝寝の過ぎた海鳥がようやく目覚めて啼き交わす声。
この方に見せたかった海は近い。

寝かせておきたいのに起きて欲しくて、その鼻の稜線をなぞる。
いつもあなたが俺にして下さるように。
鼻を通り、紅い唇を。そこから両頬を。
伏せた長い睫毛の先端を、閉じた瞼を、そして最後にその眉を。

この眉を辿るたびあなたの瞳に浮かぶ切なさの理由は判らない。
俺はあなたに触れる嬉しさだけで、其処に痛みや切なさはない。

俺の知らぬ何かを知っているのだろう。
あなたの切なさと、隠す傷ごと抱き締める為だけに此処にいる。

起きろ。起きるな。起きろ。起きるな。
辿る指先に願いを込めて、あなたの顔を撫で続ける。

朝飯は何処で取ろう。宿か、それとも町へ出ようか。
秋の海で何をしよう。貝を拾うか、水遊びは寒いか。
あなたが楽しみにしていたから、最高の旅にしたい。
いつか二人が目を閉じる時、この旅の全てを思い出せるように。

再会した懐かしい家族、あなたが守ってくれた墓所での出来事。
吹かれた風、佇んだ野、並んで見上げた空。

そして仕上げはこれから見に行く海の景色。

作ろう。俺達二人の未来の最初の日を共に。
笑おう。この先辛い時は思い出せるように。

堪えきれずにその額に唇を寄せ、朝を知らせる刻印を押す。
いつか二人が目を閉じた時も、俺がこうして起こしてやりたい。

あなたは睫毛を揺らし擽ったそうに笑うと、何かを呟いた。
愛してると聞こえた気がして有頂天になり、あなたをきつく抱き直す。

「海へ行きましょう」

耳元の声は届いたのか、届かぬのか。
あなたは待つ俺の首に腕を絡め、柔らかく引き寄せ紅い唇で教えてくれた。

声ではなくこの唇に、その返答の刻印を押して。

 

 

 

 

ゆきだるまさんもリクしてた、ハネムーンの続き❤︎海でラブラブの2人お願いします‼︎

キリ番になりますよーに☆(hako3さま)

 

(以前書いた本編の新婚旅行話

雲雨巫山 (リンククリックでお話に飛びます)

の続きのお話になります。ヨンで頂けると判りやすいかもです)

 

 

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2 件のコメント

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    ニャニヤがとまらないヨン
    まだちょっと 遠慮がち
    かわいいわね(๑⊙ლ⊙)ぷ
    幸せで 幸せで たまりませんね
    大事な宝物をやっと 手に入れたんだもん
    寝ても覚めても 傍に
    片時も離したくないわよねー
    ウンスも同じよ 絶対に
    あぁ うらやましい(〃艸〃)♡

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    ヨンとウンスのハネムーン。
    ヨンのご両親の菩提寺をお参りしました。
    でも、なんと…!
    タン・テヒが…!!
    あの女人、メヒの妹と言えど、生意気すぎて気に入らなかったデス。
    雪深い北方の兵舎で、賄いの女人としてヨンに近付いたときからずっと。
    あのときのヨンは、ウンスを待っていたとき。
    いつ戻るのか分からなくても、きっと帰って来てくれる…と信じて待っていたのに。
    あのときのタン・テヒが、ハネムーンに表れたこともショックだったけれど、メヒが、ヨンのご両親のお墓に、共に眠っていると知り、エッ~でした。
    ヨンは、メヒの眠る墓には、ウンスを眠らせないと心で誓ってくれたから良いけれど。
    ヨンは、ウンスと自分だけの二人が、睦まじく永久の眠りに入れるところにしてくれるって。
    ウンスが、テヒに対する啖呵を切るところも、
    ウンスだからこそ、心を込めて説得したのに、テヒは、分かってくれないままでした。
    だから…
    それで、ハネムーンのお話は終り?
    って思っていたから、海を見に行くお話を続けてくださってとってもうれしいです。
    今度こそ、ハネムーンらしい二人になりますように願っていますね。
    さらんさんのヨンとウンスが、ハネムーン。
    楽しみ~!

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