2016再開祭 | 茉莉花・壱

 

 

【 茉莉花 】

 

 

「おお、迂達赤!」

背から掛かる大声に、康安殿を扉を出たチェ・ヨンとその脇のチュンソクの足が止まった。
麒麟鎧の男二人は、廊下で互いに顔を見合わせる。

お前か。チェ・ヨンの眸が尋ねているようで、思い当たる節のないチュンソクは戸惑いながら首を振る。
互いに迂達赤には変わりない、何方を呼んだのかをせめて教えろと思いながら。

枢密院判院事チョ・サムンは如何にも人の好さげな笑顔を浮かべて、そんな二人の許へ歩み寄って来る。
まるで宝物でも隠すように膨れ官服の帯を押し上げている、大きく丸い腹を揺らして。
廊下の僅か数十歩を急いだだけで、その息が苦し気に上がる。
肩で息をするよう喘ぐ姿に慰めの声を掛ける訳にもいかない男二人は、視線を下げ長く短い距離を待つ。

元来痩躯の上長い鍛錬を熟しているせいで、待つ男二人は鎧から覗く腕も首も鍛え上げた筋肉しか見えない。
対してその壮年の太鼓腹を揺らして近寄る男の官服から覗く手首には、赤子のような柔らかい括れまである。
三人が並ぶと皇宮の中とはいえ、その取り合わせは余りに不釣り合いで奇妙な光景だった

しかしチェ・ヨンにもチュンソクにも、この太った男を適当に往なせない理由があった。
チェ・ヨンにとっては、王に次ぐ高官であるチョ判院事に無礼を働けぬという対外儀礼。
しかしチュンソクには、チェ・ヨンよりもずっと差し迫る理由が。

「久しぶりだのう迂達赤、敬姫はお元気か」
息の落ち着いた判院事が呼び掛けた迂達赤とはチュンソクの事かと、チェ・ヨンは安堵の息を吐く。
自分が声を掛けられる理由など、何一つ思い浮かばなかったのだから。
そして逆にチュンソクは己でないようにと祈った期待を裏切られ、肩を落とすようにして呟いた。

「・・・ご健勝であられます」
「そうか、そうか、何よりだ」
判院事は嬉しそうに頷いた。その拍子に羽二重だった顎の肉が揺れ、柔らかい三重になる。
一体どんな豪奢な暮らしをすれば、男がそれ程柔らかそうな肉を顎に蓄えられるのか。
硬い顎の線の者しか見慣れぬ二人は、その揺れる肉を不思議な思いで凝視する。
無礼にならぬよう、見つからぬようには思うものの、つい目が吸い寄せられる。

その視線をどう受け取ったか、判院事は不安げに眉を寄せる。
「気を落とすでないぞ。儂からも王様にお願いしてみよう」
「・・・は?」

チュンソクの短い声に訳知り顔で頷くと
「王様とて敬姫の地位を剥奪し、御心が痛んでおられる。唯一の姉上の姫、一人しかおられぬ姪姫だ。
案ずるな、何れ誤解が解ければ御心も解れよう。兄上からは奏上出来ぬ故、儂からお願いしてみる。
敬姫に咎があったわけではない。偽の迂達赤副隊長やらが見つかれば汚名は雪げる。
もう暫し辛抱するのだぞ、迂達赤」

・・・誤解をされているのは他の誰でもなく、目の前のこの調子外れな判院事その方ではなかろうか。
第一その偽の迂達赤副隊長はチュンソク自身なのだ。
万が一それが見つかれば、尚の事騒ぎが大きくなる。

そう思いつつ二人の鎧武者は、回廊の床に下げた視線を素早く交わす。

何を抜かしてるんだ、この狸爺は。

明らかにそう尋ねるチェ・ヨンの視線に、チュンソクは困ったように眉を下げて見せる。
自分にもさっぱり判らないと。

 

 

 

 

~小さな恋の物語~
時は婚姻前のこと。
ひょんなことからヨンに恋心を抱いてしまったおませで小さなお姫様(6歳くらいかな)
「おおきくなったらチェヨンのお嫁さまになるのぉ」と。
ヨンとウンスの屋敷にも上がり込む始末。
ヨンよりも身分が高い姫様なのでむげにもできず。。
子供といっても侮るなかれ、女性としての闘士満々。
さすがのウンスもタジタジ。
ヨンが姫様にやさしくしているのを見るのは面白くない。
さて、ヨンとウンスどうする?(kacotanさま)

 

 

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