2016再開祭 | 茉莉花・廿弐

 

 

「チェ・ヨンさまー!」
大路を曲がり脇道に差し掛かる。そこから宅への一本道。

朝のうちにコムと示し合わせた通り、締め出されたまま宅内には入れなかったらしい。
クムジュがコムの立ち塞がる門前に従者の家人と共に立ち、歩いて行くヨンに叫びながら駆け寄った。

ウンスが共に並んでいるのも承知で、名を呼ぶ事は一切ない。
胸糞悪い礼儀知らずは相変わらずと、ヨンは太い息を吐いた。

クムジュの近寄って来る姿にウンスが露骨に眉を寄せると、
「出た、玉子娘」
ヨンにだけ聞こえる声で呟いた。

昨日の玉子男の例えを思い出すが、此処で噴き出す訳にはいかない。
チェ・ヨンは息を整えると、無表情で少女へと淡々と声を掛ける。
「何か」
足を止める事もなく宅へと向かうチェ・ヨンの横、少女はその横顔を見上げながら
「仔馬を見に来ました」
と、またしても見え透いた名分を口にする。

「宅内は修繕中故」
振り翳される名分には、此方も名分で対抗する。
その名分を手にする為にコムの知り合いを掻き集めてもらい、必要もない杭を庭木の垣にと打たせているのだ。

木槌の音をなるべく派手に立ててくれ。

朝のコムへの頼み通り、宵闇が迫る刻になっても、庭内から屋敷を囲う塀を超え大きな槌の音が鳴り響いている。
大きな音の中、ヨンは一言の許にクムジュの名分を切り捨てた。
「お入り頂けません」
「え?」

そんな事は聞いていないと声を上げそうになるウンスを、ヨンが視線で黙らせる。
ウンスの様子など気にも留めないクムジュはその変化に全く気付かず、ただヨンだけを見詰め甘えるように言い募る。
「構いません、静かにしていますから」
「某が構います」
「チェ・ヨン様の言う事、ちゃんと聞きます。いい子にします」
「判院事の大切なお嬢様を、修繕中の宅にはお通し出来ません」

短い会話を交わし、三人は成り行き上連れ立って門前まで辿り着く。
「お引取りを」
ヨンはクムジュへ、次に家人へ向け、儀礼上渋々顎だけを下げる。
コムはチェ・ヨンとウンスの姿に笑って頷き
「お帰りなさい、ヨンさん、ウンス様」

そう言うとクムジュの侵入を防ぐ為に閉ざしていた分厚い門扉を大きな手で軽々と押し開け、二人だけを通す。
「あ、チェ・ヨンさま!」
振り向きもせず先にウンスを通し、続いて門内へ入ろうとしていたヨンは、呼び声に仕方なく足を止める。
再び門を閉ざそうとしていたコムがヨンの顔を確かめて、諦めたようにもう一度門扉を開き直す。

また泣き落としか。効かないと昨日で思い知った筈だが。
馬鹿の一つ覚えのように涙を溜めたクムジュの目に、ヨンはほとほとうんざりする。

涙は女人の武器だなどと、誰が最初に言い出したのだろう。
武器になるのは普段精一杯堪えている方が、堪え切れずに零してしまった時に限る。
何かにつけて流していては、決壊した河も同じだ。手を煩わせ、鬱陶しいだけで。

しかし泣けば済むと思っている、その方法で周囲に我儘を通して来たクムジュは、震える声で言った。
「だって、だって馬が」
「明日には厩舎が建つと伺いました」
「え」

だから餓鬼の浅知恵なのだ。チェ・ヨンはそんな罵り言葉を口にしないように細心の注意を払う。
「明日御返しに上がります」
「だって、だって子馬が返って来たら、もうチェ・ヨンさまに会えない」
「は」

二度と会わずに済む、その為に返しに行くのだ。
あの屋敷の門前まで仔馬を牽き、この親子に突き返した時にはどれ程溜飲が下がる事か。
明日までが長すぎると、待ちきれない思いでチェ・ヨンは頷いた。
これ以上関わらずに済む。その後この娘が叫ぼうが泣こうが喚こうが知った事ではない。

「・・・っじゃあ、私!」
クムジュは意を決するように、門柱を隔てた向こうから門内のヨンへと叫んだ。
「私、チェ・ヨン様のお嫁さんになります!!」
「はいっ?!」

ヨンが何かを言うより早く、ヨンの横で足を止め会話の終わりを待っていたウンスが声を上げた。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    さらん様
    ヨン以上に玉子娘に苛ついていた私です。
    目の前でいちゃついてやれ~とか、なんなら毎日コムに、玉子娘の邸まで仔馬を見せに行ってもらえば?・・・とか、思ってしまいました(笑)
    ついにウンスと直接対決?!
    うまくおさまりますように(^_^;)
    楽しみにしています!

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