2016再開祭 | 茉莉花・拾捌

 

 

膝の中で意味の判らないことを言われ、しかしその怒りは自分に向けられたわけでもなさそうだ。
ヨンが黒い眉を寄せ、ウンスの様子をじっと見た。
ウンスは視線には気付いても、その黒い瞳に素直に笑い返す事が出来ない。

あんな子供の言葉が原因でイラつくなんて、馬鹿みたいだという自覚はある。
いっそ既成事実があって、それが理由でふしだらと言われる方がまだましだ。
人間は肌で触れあうと脳下垂体からオキシトシンが分泌される。
“抱擁ホルモン”とも呼ばれるそれは、社会的行動力を高めたり、カップルの絆を強める大切なもの。
そしてストレス軽減についても医学的なエビデンスがある。

でも今の自分に大切なのはそんな机上の空論などではなくて、もっとシンプルな行動だ。
「ヨンア」

突然の叫び声、決意したような瞳で膝の中から見上げられ、何事かとチェ・ヨンが頷く。
「はい」
「私の事、愛してる?」

天界の、一言で想いの丈の全てが伝わる大切な言の葉を知って以来。
今まで愛していると言われた事はある。
そして愛していると伝えた事もある。
しかし今までに疑問符付きで愛しているかと尋ねられた事はなかったと、ヨンは思い至る。

疑われる理由など何一つない。当然だろう。さもなくば自分達は今、互いに此処にいない。
諦める理由、挫ける理由、手を離し背を向ける理由なら今までにでも数え切れぬ程あった。
それでも居間から届く淡い蝋燭の灯の中、これ程の至近で鳶色の瞳に見詰められれば、ただ頷くだけが難しい。

「愛してる?」
ウンスが答を探すよう黒い眸を覗き込み、もう一度尋ねる。
「はい」

訊かれたなら逃げる理由も誤魔化す事もない。
ここで初めて尋ねる以上、ウンスには尋ねるだけの理由があるのだろう。
ただ頷かれたいだけの時もある。返る答えは判っていても確かめたい時もあるのだろうとヨンは思った。

信じていないのかと問い返すことは易い。
しかし問いに問いで返す事はしたくない。
判っているから、チェ・ヨンは問いに正直に頷いた。
自信に満ちた短い返答に、ようやくウンスの瞳が笑う。

「あのね、スト・・・憂鬱な気分に対応するのに大切なのは4つの行動」
「四つ」
「そう。まず出来るならストレスの根本原因を解決すること。今回ならあの子馬を返す。
でもまだ厩舎がないのよね?それにキョンヒさまのご家族にも、頭を下げられちゃってるし」

厩舎が建てば全て解決する。あの仔馬を一刻も早く返し、二度と接触の機会を持たない事。
それが最も有効だとチェ・ヨンは深く頷いた。

「それが無理なら考え方を変えるの。こんなつまらない事、長い2人の時間の中では小さいことだわ。
気にする必要なんてない。そんな価値もない」
「考え方を」
「そう。私が証人よ。あなたの名前はずーっと先まで残り続けるけど、あの偉そうな玉子男の事なんて誰も知らないもの」
「イムジャ」

丁度良い機会だと、チェ・ヨンが口を挟む。
「何故、判院事を玉子と」
その問いにウンスは楽しそうに声を弾ませた。
「あのね、私の世界にあのおじさんとそっくりの玉子男がいるの」
「玉子、男」

玉子で男。
ウンスの言葉の意味が判らず、チェ・ヨンは鸚鵡返しに呟いた。

 

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

1 個のコメント

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です