2016再開祭 | 加密列・弐

 

 

火が点いているのはこの尻か、それとも腹の傷か。
何方ともかも知れん。それこそ最悪な事態になる。

出来る限り迂達赤の前には出ない。妙に気配に敏い奴らだ。
いや、己がそう鍛錬してしまった。声でなく肚裡を読めと。

せめてそれが活かされる事を願う。俺が去ってもチュンソクが居る。
奴には誰より厳しく当たって来た。俺が去ったら寧ろ喜んで欲しい。
やる気のない頭が去り、ようやく自由に采配が揮える時が来たと。

迂達赤私室で運気調息は出来ない。いつ誰が飛び込んで来るか判らん場所でなど。
出来れば生きて皇宮を辞したい。最後の約束としてあの煩い紅い髪の天人を天門から返して。

夏空の下、皇宮の外回廊を歩く。

歩く度に冷や汗が背筋を伝って落ちる。一滴、また一滴。
吹き抜ける涼やかな夏風の中、吐く息が火のように熱い。

何気ない顔を装って平時の如く。

目指す場所は回廊の北隅、忘れ去られた一角の倉庫部屋。
新王の許しを得て役を辞す前にくたばる訳にはいかない。

約束したんだ。あの天の医官を帰す。我が名を懸けても。
立ち塞がる者がいれば次こそ排除する。鬼剣を振っても。

もう自由にさせてくれ。放って置け。何も考えたくない。
正直腹の傷が疼いて、何かを考えるどころではない。

回廊を歩くにも、その横壁に情けなく凭れ掛かりたくなるのを堪えるので精一杯だ。
凭れ掛かったが最後、背を上げてもう一度歩き出すのは無理かも知れないから。

こんな時に限って、あの紅い髪が視界の隅を横切るのは何故だ。
侍医の庇護の許、典医寺に居る筈の天の医官が何故こんな処をうろついている。

放って置きたい。
一度侍医が引き受けた以上、皇宮で天の医官を守るのは侍医の役目だ。俺は関係ない。
関係ないし、第一守りたくとも体が言う事を聞かない。
せめて調息で息を整え、体の中の毒を抑えなければ歩く事すら儘ならない。

背中の冷や汗、切れる熱い息。
離れていく視界の隅の紅い髪。
「・・・畜生!」

一言吐き捨てると丹田に力を籠め、視界の紅い髪を追って歩き出す。

 

*****

 

ひとまずあのチョニシってところの門を出る時、誰かに止められるんじゃないかと内心びくついた。
でも出来る限り自信満々に見えるように、顔を上げて歩いて行った。
もしも誰かに咎められたら適当な言い訳でも、と心構えをしてたけど、誰一人そんな事をする人はいなかった。
ただ門を出て行く私を、不思議そうな顔で見送ってただけ。

そのままさりげなーく門を出て、門の外の一本道をまっすぐ歩いて来たけど・・・。

ここはどこ?

足を止めて、目の前にどこまでも続くガーデンエリアを見渡す。
どこまで続いてるのか、その端っこが見えない。

何なのかしら。このリアルな感じ。
遠くに見える四阿、そこに伸びる石造りの道、夏の陽射しに輝く池、咲いてるスイレンの花。
その景色の中をサイコのような鎧姿や、時代劇でしか見たことのない尚宮姿の人たちが歩いて行く。
私の方をちらっと見て首を傾げたり、ひそひそ話をしたりしながら。
でも声を掛けてくるわけでもないし、何か聞いてくるわけでもない。

自分の恰好を確かめるために、池に目を落としてみる。
あの田舎で手に入れた、時代劇っぽい紅くて長い上着。
その下は・・・ああそうよ。江南でサイコにさらわれた時、学会出席のために着てた一張羅の新品・・・
ううん。江南と、あのお姫様とかいう女性と、そしてサイコと。
その3つの手術と、訳の分からない男に殴られた時の自分の血と、汗と泥で薄汚れた、元は白かったスーツ。

この服装が変なのは分かる。私だって、出来れば着替えたいわ。
せめて下着だけでも。ちゃんと顔を洗ってシャワーを浴びて、すっきりしてから。

そう思いながらガーデンエリアをもう一度歩き出す。
ソウルの有名観光地、そして時代劇の雰囲気を求めて世界各国からの観光客も押し寄せる景福宮。
その景福宮に似てるのは分かる。外観も内観も。

だけど少なくとも覚えてるその観光地は、ほとんどのところに立ち入り禁止の板や札がかかってた。
韓服を着たエキストラはいたけど、みんな基本は突っ立って、あとは記念撮影に収まってただけ。
歩いてる韓服組もいたけど、それは韓服で行くと入場料が無料だからで。
みんなスマホやデジカメを構えて、写真や動画の撮影に忙しかった。
第一どっか不自然に着られてる感じで、こんなリアルにナチュラルな感じではなかった。
目の前を通って行く人たちは、まるでここで生きて生まれて生活してるみたい。
良くも悪くも、全く不自然さがないのよ。景色に溶け込んでて。

道に迷ったときの基本は、まず大きな目印を見つける事。

今来た道を振り返って確かめる。うん、あのおかしな形の門がチョニシだと思う。
その形を忘れないように目に焼き付けて、次は目の前の光景を見る。

ひとまず一番目立つのは、奥の奥に見える景福宮と似た色と形の大きな建物。
ここに連れて来られた最初、全員でくぐった門から見えた建物・・・あんな色だったかしら?

そこすら覚えてないけど、ひとまずの目的地はあそこね。
まずは目的地を見つけて、私はきれいな庭を歩き出した。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    気ままにふらふら~の
    (絶対方向音痴っぽいんだけど…)
    女人を追いかけるのは 一苦労でしょうね
    しかも フラフラ…
    やせ我慢は禁物よ~
    (誰も静かに寝かせてくれないんだけどね)

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