夜の庭に面した縁側に涼しい風が吹き抜ける。
訪問者の所為で碌に食欲もなく、珍しくウンスまでもが少食だった。
夕餉を済ませるや否やチェ・ヨンは攫うようにしてウンスを抱き締め、縁側に腰を据えると膝に乗せ、石のように動かなくなった。
黒い眸が暗い庭の先、厩舎の方を睨んでいる。
まるで其処に今収まっているのが仔馬ではなく、判院事本人であるかのような目付きで。
膝の中のウンスはどう声を掛けていいか分からないまま、ヨンの胸に背を預け夜風に髪を揺らしている。
柔らかい髪に顔を擽られ、ヨンは逃げるように頬をウンスの肩へつけると、鼻先で髪を分けその項へそっと触れた。
懐かしい花の香を感じられる距離で、波立つ心と乱れた息を整える。
腹が立って仕方ない。馬を預かった事に関しては自分の判断だったとしても。
高官の娘だからと好き勝手に宅に出入りされるのも、何より一度ならず二度までもウンスを馬鹿にされたのが。
儀賓大監の弟だから何だ。判院事だからどうだと言うのか。
ましてあの小娘自身は儀賓大監の弟でも、判院事でもない。
親の威を笠に着て威張り散らすだけの、世間知らずで鼻持ちならぬ餓鬼でしかない。
このままでは万一次に会った時には取り返しのつかない罵詈雑言を浴びせそうで、チェ・ヨンは奥歯を噛みしめた。
考えたくない。皇宮の仕来りも体面も名分も、面倒な事は何もかも。
ただ自分とウンスを放って置いて欲しいだけだ。
迂達赤の長として、そして王に仕える武士として為すべき事は為す。
それ以上の事は望まれたくない。望まれようと叶えるつもりもない。
「・・・まあ、甘やかされてるのね、きっと」
ウンスの声に、項に鼻先を埋めていたチェ・ヨンの黒い眸が開く。
開いた視線の先、見えるのは唇で辿れるほど近い、抜けるように白い首筋。
そしてそれを焦らすように半ば隠す、紅く柔らかな絹糸の長い髪。
いっそ思い切り噛んで紅紫の花を散らせたらどれ程良いかと思いつつ、傷つける事が怖くて静かに視線を逸らす。
婚儀を待っているからか。それとも婚儀を挙げても怖いままなのか。
一体何をこんなにも畏れているのか正体が判らない事にヨンは苛つ。
きっと気鬱が溜まっているのだ、チュホンだけでなく自分自身も。
そんなヨンの心中など知らず、ウンスは一人でブツブツと愚痴った。
「結婚年齢も低いだろうし、まして良家のお嬢様なら10代そこそこで結婚するのかもしれないから、そういう言葉も知ってるのかもしれないけど。
だからって6歳の女の子にふしだらとまで言われると、私も困っちゃうわ、さすがに」
ふしだらと呼ばれるなら相応しいのは自分だと、ヨンは嗤い出したい気持ちになる。
鼻先で柔らかな髪に分け入り、唇さえ触れぬまま息だけで撫でる。
夜毎腕の中に閉じ込めて、それでも一切の手出しが出来ずにいる。
この黒い慾がふしだらと言われるなら判る。そうだと笑い頷ける。
その吐息の意味の全く理解できないウンスこそ、清らかなものだ。
縁側でチェ・ヨンの膝に収まり、その肚の中など知らないウンスは大きな溜息を吐いた。
「私も常識知らずだけど、あの子もすごいわ。いきなり初めてよその家を断りもなく訪問するなんてありなの?」
「許されていたのでしょう」
「そうよね。あの玉子・・・じゃなくてお父さんなら、許すでしょうね。
偉い人らしいから、周りも文句なんて言えなかっただろうし」
「はい」
「でもそれにしたっていい加減礼儀を覚えていい頃だわ。特にそんな良家のお嬢さんなら、親が笑われちゃう」
玉子と判院事の繋がりは判らないが、全くその通りだと頷くと、ウンスは背後から自分を抱き締めるヨンを振り向いた。
「あの子はあなたの事が、とっても好きなのね」
相変わらず、肯定も否定も出来ない問い掛け方が上手な方だ。
それもようやく息をつき、その花の香に癒されているこの時に。
「まあ、あんな小さい子に文句を言っても仕方ないけど」
瞳が何処か拗ねている気がして、思わずじっと覗き込む。
まさかだろう。自分の許婚があの我儘な常識知らずの餓鬼に妬いていると言うのか。
「そう考えると理屈が通るのよ、いきなり私をけなしたこととか。まあ、初恋なんて叶わないものって相場が決まってるけどねっ!」
「・・・イムジャ」
ねっ!と言葉尻を上げて膨れたウンスは、チェ・ヨンの問い掛けには一切答える様子はない。
その膝上を独占するように体を丸めると、隙間なくヨンの胸に背を凭れ、ウンスは暗い庭を、そして次に空を睨んだ。

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お早う御座います。我儘娘を、どう扱うのかが、問題だわね。難しい ??
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初秋の庭にしっとりとした2人がいます。
絵にしたい、チマってみたい拾陸の回です。
朝から大雨ですが、さらんさんのおかげで、気持ちはキラキラ~*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
今日も仕事頑張ってきます!
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ウンスさん
ヽ( )`ε´( )ノ
怒ってますとも、焼いてますとも
それも仕方ない
ただ 相手がまだお子様だからね…
大人にならなきゃね~
でも 大丈夫 ヨンはウンスのことしか見てないもん
(///∇//)