「あ、あの、ウンス様・・・」
この子が戸惑うのも無理はない。あたしだって驚きだよ。
何でまた関係ない天女が、一人でこんなに興奮してるのか。
「本気で好きですか?ヒドさんのルックスが良いからとか、そんな軽い気持ちじゃなくて?」
「る、っくす、とは・・・」
「ああ、外見。外見が素敵だからとか」
「そんな!」
今度悲鳴みたいな高い声を上げたのはパニャの方だった。
こうなってみると、あのぶっきら棒な尚宮婆の低い声が懐かしくなるから不思議なもんだ。
だけど天女はそんなパニャに、やけに真剣な顔で言った。
「本当にヒドさんのことが好きなら、絶対気持ちを変えないで。パニャさん、お願い。
これから誰に会っても、何を言われても。
ヒドさんは本当にいい人よ。不器用で不愛想に見えるけど、でも誰より義理に厚くて真直ぐな人だから」
「あの、あのウンス様・・・」
「ちょいと天女、先走り過ぎだよ。パニャはまだ好いてるとも」
割って入ったあたしの声に、パニャも曖昧に首を振る。
「私はずっとお会いしたくて、お礼を言いたくて・・・でもヒド様に、そんなつもりはなかったと言われてしまって」
「じゃあ、パニャさんは」
「私は本当にずっとお会いしたかったんです。お会い出来て嬉しかったです。
ヒド様に助けて頂いたから、ヒド様の為なら何でもします。だからここまで」
「パニャさんは好きなのね?!」
「ですが私は、お慕いする程に深くヒド様の事を知っている訳ではなく、て・・・」
「じゃあ、これから知って下さい!」
何だってこれほど事を急かすんだろうかね。
手を握りそうなほど近くに寄ると一緒に床に座り込んで、天女はパニャをじっと見詰めて言った。
「お願い、パニャさん。これから何があっても」
あの時を思い出すじゃないか。
ヨンと消えた天女が、開京の騒動なんぞ何も知るはずがないのに、王妃の消えた日に突然帰って来た夜。
不思議に思ったもんだ。命が危ないってのに途中まで逃げた道をわざわざ戻って来るのかって。
鳩の一羽も飛ばしてないのに、どうして離れた開京の騒ぎを知ってるのかって。
ヨンは髪を短くしてまで行方を晦まそうとしてたってのに、何の理由で帰って来たのかって。
この女人が天女だってことは、ヨンからもシウルたちからも、あの頑固な尚宮からも聞いていた。
何より町中が散々噂をしたもんだ。
天人だ、華侘の消えた天につながる門から出て来た、千年に一度華侘が送って下さる天の医官だ。
どんな病も癒して、どんな傷もたちどころに塞ぐ、天技を持つ医官だ。
情報屋としてどっかに歪みがありゃあすぐ分かる。作って流した噂なら、どっかでぼろが出るもんだ。
何度も天女と会って来たが、確かにそこらの並の女とは比べ物にならない。
何より死人みたいだったヨンをもう一度人に戻した、それだけでも天医だと思えたもんだ。
天女ってのはきっと本当だ。それを疑った事なんかありゃしない。
だけど目の前でパニャに必死に言い募る天女を見てると、背中のどっかが薄ら寒くなる。
じとじと降り続いてる表の秋の雨のせいだけじゃない。 ヨンも、頑固な尚宮も認めた。
天女はこの先に起きる事を全部知ってると言うが、これがそうなのかい。
「姐さん」
真面目な声であたしを呼ぶ顔に、さっきまでのはしゃいでた明るい様子なんぞありゃしない。
やけに真剣な目でこっちを見据えながら、天女はむしろ厳しい声で言った。
「協力して下さい。ヒドさんとパニャさんを取り持って下さい。
ヒドさんに幸せになって欲しいの。もちろんパニャさんにも。そうならなきゃダメ」
油代の節約の為に灯を絞った薄暗い離れの部屋に響く声、これが天のお告げってやつなのかね。
こんな風に言われちまった以上断るなんて、下界のあたしに出来っこないじゃないか。
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ウンスが真面目に頼み事なんて
何かある…って 思うわよね~
悪いひとじゃないのは
わかってるもの
断れないわよね やっぱり
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パニャさん、般若さん…
どうかお願いです。
ヒドさんをもっと知ってください。
ヨンには負けるけれど、すっごくいい男です。
このあと、遍照の元に行き、身の回りのお世話をするのですよね。
ダメ、ダメ、ダメー。
遍照は、ダメー。
あいつ、色男ふうで、女人に甘く、口落としが上手…らしい。
ダメ、ダメ、ダメー。
ヒドさん以外の男に、心を奪われないで。
とは言え、世にいう…てごめ?
に、無理矢理されたら、パニャさんも歴史の通りになってしまう。
王様、王妃様のためにも、
ヨンのためにも…
だって、ヨンは、そいつ遍照に、流刑にされちゃうんだよ。歴史ならね。
遍照、ヨンが大嫌いでね。
その間、王様を…
心配です。
パニャさん、般若さん、ヒドのことを心から慕って欲しい。
でも、この後、皇宮へ送り込まれてしまうの?
ん~、
それじゃ恋は実らない。
ドキドキ心配。