2016 再開祭 | 婆娑羅・22

 

 

昨日までのこいつは、ウンスさんを大切にしてるように見えなかった。
俺なら大切な人にそんなに冷たくしない。
本当に大切ならいつも側にいてあげたい。何でも聞いてあげたいし、望みを叶えてあげたい。

だからこいつなんかにウンスさんは勿体ないと思った。
大切にしてるどころか、飯だって呼ばれても無視するような男だ。
ウンスさんを1人っきりで、一日中放っとくような武術バカ。
例え最高の将軍になったとしても、大切な女を淋しがらせるなんて男としては最低だ。

昨日までは確かにそう思ってた。やっと探し続けた、心の中の声の正体が判ったんだ。
出逢いは先着順じゃない。どっちと先に逢ったかは問題じゃない。
チェ・ヨンが大切にしてないのに、ウンスさんが一緒にいる必要なんてない。

昨日までは確かにそう思わせる素っ気ない態度だったのに、今日の奴は全然違う。
今こいつはウンスさん以外の誰も見てない。気にかけてない。
まるで2人きり、自分の家にでもいるみたいにリラックスした顔をしてる。
昨日までみたいに、明らかに周囲の人間を気にしている素振りが全くない。
何があったか知らないけどまるで別人だ。

「一人で飯を喰いたくないと」
「うん、それは確かに言ったけど」
「終わるまで此処に居ります」
「そういう事じゃなくて、ヨンアも一緒に食べて欲しいんだってば!」
「喰います」

チェ・ヨンは片手で頬杖を突いたまま、テーブルのウンスさんの食器から野菜を一箸つまんだ。
「あなたが喰えば」
「喰えば、って、一緒にいてくれさえすれば、1人で」

目の前に差し出された箸に、ウンスさんが顔を真っ赤にした。
「では止めます」
素直に手を降ろしたチェ・ヨンの箸先をウンスさんの目が追い駆けて
「あ、食べる。食べる・・・けど・・・」

ウンスさんはそこで声をひそめて、もう一度食堂を不安そうに見回す。
やっぱり今日のこいつの態度は、彼女から見てもおかしいんだろう。その顔は明らかに戸惑ってる。
「いいの?平気なの?本当に?」
「はい」
「恥ずかしくない?ほら、体面がとか、名目がとか、いつもの」
「暫し忘れました」

そこで今まで笑ってたチェ・ヨンの目が急に心配そうに曇る。
白い雪の窓が背景だから、その色の変わりぶりがすぐに判る。
「厭ですか」

ウンスさんはその声にぶんぶん首を振ると
「ううん、照れちゃうだけ。人前でこんな事、今まで一度も」
その声に安心したように笑って頷いたチェ・ヨンの箸が戻って来る。
もう一度寄せられた箸のパンチャンを、恥ずかしそうに口元を手で隠しながら、ウンスさんが口に入れる。

確かに回りの目からは隠せても、正面にいる俺からは全部見えてる。
「うん、おいしい」
「何より」

チェ・ヨンは空になった箸先で、次の一箸をつまむ。
ウンスさんがそのパンチャンにちょっと困った顔をする。
その顔を見ると、チェ・ヨンはつまんだパンチャンをそのまま自分の口に放り込んで、
「タウンの飯が懐かしい」
誰かの名前を呼び、ウンスさんも同意するように奴に大きく頷いた。

「帰ったらもっとご飯習うわ。これから2人で出掛けたら、旅先では私が作る」
「共に拵えましょう」
「ヨンアは良いの。私の料理は雑だし、調理過程見たらあなたに驚かれちゃいそうだし」
「それも楽しい」
「そうなの?」
「はい」
「そうなんだ」

それだけで心から嬉しそうに、ウンスさんがくすくす笑う。
実際どっかに行ったわけでも一緒に料理したわけでもないのに、言われただけで本当に楽しそうに
笑い声の響く中、俺の隣でどうしていいか判らない顔で、チュンソクって人が耳まで真赤にしてる。
「カイ」
「何?」
「先に行く。急いで喰え」

絞り出すような声で言うと、チュンソクさんはおもむろに無言で飯をかきこみ始める。
その勢いで米粒が飛び散らないのが不思議なくらいのスピードで。
「チュンソク」

そこに掛かるチェ・ヨンの声に、俯いたまま飯を食うチュンソクさんの箸は止まった。
それでも気まずそうな表情を浮かべた顔は上げないで。
「は」

体を硬くして呟くチュンソクさんに、チェ・ヨンの楽しそうな声が続く。
頬杖の手を外して、その指がチュンソクさんの食器を軽く叩く。
「ゆっくり喰え」
「・・・ゆっく、り、ですか」
「おう」
「しかし大護軍、自分は」
「平時に早飯をするな」
「はあ・・・」

怪訝そうなチュンソクさんを確かめると、チェ・ヨンはもう一度ウンスさんに向き合った。
「イムジャ」
「なぁに?」

その手に箸を握らせながら、チェ・ヨンは相変わらず余裕のある笑顔で言った。
「共に飯を。これで信じますか」
「うん。信じる。昼ご飯も一緒?」
「はい」
「ちゃんと忘れないで食べてくれる?」
「はい」
「じゃあ食べよう!」

目の前の朝食を元気良く食べ始めるウンスさんに目を細め、奴も箸を運び始めた。
「ねえ、チェ・ヨンさん」

我慢しきれず声を掛けると、奴の目がこっちを向いた。
さっきまでと同一人物には到底見えない鋭い目。
「もしかして俺、ケンカ売られてる?」
「喧嘩」
「だってそうだろ?」

そうとしか考えられない。
いきなり態度が豹変するし、目の前でこれでもかって見せつけるようにくっついてるし。
その質問に奴は息だか笑いだか判らない空気を吐くと、次は俺じゃなくウンスさんを見た。
俺をひと睨みした時と全く違う優しい目で。

「そんな暇は無い」

 

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。
お楽しみ頂けたときは、押して頂けたら嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

2 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    ちょっと 照れちゃうけど
    人目もはばからずー
    ラブラブ全開で ウンスも(๑´>᎑<)~♡
    うれしそう。
    たまらないのは…
    二人が幸せならば うれしいのだけど
    みていいものか… (•́ε•̀;ก)
    カイくんに 喧嘩売ってない。
    ウンスは俺のもの! 喧嘩以前の話。

  • SECRET: 0
    PASS:
    驚き!カイ君が驚く何倍も私達読者はヨンを見てきたから…わぁー映像で見たいなあ~さらんさんのお話ドラマにならないかな??切望!!!

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です