2016 再開祭 | 婆娑羅・3

 

 

「カイくん、お茶飲まない?」

窓の外をぼうっとした顔で見詰めて、窓際に力なく腰かけた横顔が首を振る。
テーブルの上に茶碗を置くと、私はそのまま椅子に腰掛ける。
あの人は離れたテーブルで、国境隊長さんやチュンソク隊長たちと難しい顔で額を突き合せてる。

天門は確かに開いていた。あの風も、そして光の渦も。
イヤって程くぐって来てるんだもの。私にだってもう分かる。
開いたのは昨日。
少なくとも祠の中から光が漏れて来た、それを確認できたのは昨日だった。

高麗では6年経ってる。最初に私が来てから6年目。
私はここで1年、モンゴルで1年、そして戻って来て2年目。
この時点で既に2年以上の時差がある。だからって60年が5年に短縮されるなんてあり得る?

「カイくん?」
私の声に反応はない。当然よね。自分の時を思い出せば分かる。
混乱してるだろうし、現実とも思えないだろう。
何が何だかパニック状態で分らないんだと思う。
「ねえ、カイくん?」
「・・・はい」

余りのしつこさに根負けしてくれたか。カイくんは横顔のまま、やっと返事をしてくれた。
「江南は、西暦何年?」
「・・・え?」
「スマホ。持ってるでしょ?ポッケから落ちそうでヒヤヒヤしたわ」

まずは現実直視が必要。いつ帰れるか判らない以上、期待を持たせるより事実を伝えなきゃ。
「懐かしいな、私のはとっくに電源切れてるし。ちょっと見せて?」

彼のジャケットの胸ポッケを指差して笑って見せる。
あなたの敵じゃないわ。私だって同じ立場だったの。
口で言うよりも、態度で見せる方が良いって思った。

その瞬間。カイくんは窓際から勢い良く立ち上がって、テーブルの私に走り寄って来た。
伸ばした両手が、近づかれて反射的に一歩下がった私の肩に掛かろうとした時。

冷たくて重い音がして、彼の両手は剣の鞘で遮られた。
カイくんが私に駆け寄る直前、私と彼の間に滑り込んだあなたの剣で。
「次は腕を落とす」

あなたはそれだけ言ってカイ君が手を降ろすまで睨んでる。
そして両腕が降りてから、改めて私の前へ一歩出た。
「この方へ寄るな。命が惜しくば」
「ちょ・・・っと待てよ、だからって話すなって事?!俺だってワケが判んないんだよ!!この人以外、話の通じそうな奴もいないだろ」

確かにこの人には、気分良くはないかもしれない。
敵か味方かも分らない人が、急に私に駆け寄れば。
まして今回は自分たちは一切関係なく、勝手に迷いこんで来たんだし。

だからってこのままにしておけないでしょ?
この世界でカイくんの気持ちが分るのは私だけだと思う。
でも事情を知らないカイくんは興奮したみたいに顔を赤くして、私と自分の間に立ったあなたに喰ってかかる。
「だいたいあんたは何なんだよ、さっきから偉そうに!俺が誰と何を話そうと、俺の勝手だろうが!!この人はあんたの物かよ?」
「そうだ」

あなたの背中にいるから顔は見えない。
だけど即答した声で、そしてチュンソク隊長や兵のみんなの顔で分かる。
あなたは多分今もの凄く、怖い顔をしてるはず。
そして次に発した声も、もの凄く低くて恐い。
「故に寄れば斬る」
「・・・何言ってんだよ、あんた正気?」
「ああ」

あなたはそれだけ言うと、鞘から剣を抜いた。
迷いない動きで、どれだけ本気かよく分かる。
口で言うより態度で気持ちが伝わる事がある。

「試すか」

それだけ言ったあなたの声。その肩向こうにようやく見えてるカイくんの顔。
あなたはただ剣を抜いて片手に下げただけ。
向けて剣を構えたりしてないのに、カイくんの表情が凍る。
あなたの無言の迫力に、部屋中のみんなが息を呑んだ沈黙の後。

「・・・判ったよ。その代わり全部教えてくれ。ここはどこか」
カイくんはそれでも強い目で、この人の背中に庇われた私を探す。
「そのお姉さんが、一体誰なのかも」

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    気の毒なカイくん…
    迷い混んだだけなのに…
    ウンスに話しかけようものなら
    こわーい顔した男が…
    しかも 大勢…
    やっぱり 救えるのは ウンスしかいないよ
    ε-(•́ω•̀๑) ヨン…ちょっと ゆるして

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    いつも楽しく読ませて頂いております。
    もう、だれかとこのドキドキを分け合いたいくらい懐かしい気持ちにさせていただいています。
    20年は昔の感情です。
    こんなに嬉しくなっている読者がおります。
    入隊など、落ち込むこともありますがゆっくりペースでよいので続けて頂けたら嬉しいです。
    朝から失礼しました。

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    この先の展開が、カイ君の未来が楽しみですね。時間の流れる早さも違っていてあたりまえなのかもしれません。さて彼は帰ることが出来るのでしょうか!(*´ー`*)

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    悋気爆発のヨン、大好物です❗
    ヨンの発する悋気オーラや仁王立ちの立ち姿が頭に浮かび………はーカッコいい❗
    さらんワールドに引き込まれます。

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