2016 再開祭 | 婆娑羅・4

 

 

カイくんの好戦的な態度に部屋にいた他のみんなの方が殺気立ったのを気にしてか、それともあなたに気を配ってか。
チュンソク隊長が部屋の扉を指差して
「出ろ」
そう言いながら部屋中の他のみんなを追い出した。

あなたは初めてカイくんから視線を逸らすと、続いて最後に部屋を出ようとしてたチュンソク隊長と国境隊長さんに
「お前らは残れ」
短く言って私の肩をそっと押して椅子に腰掛けさせると、当然の顔で横に座る。
あなたが動くと同時にチュンソク隊長が大股でカイくんに寄って、その横に黙って立った。
まるで彼を制圧するみたいに。

今部屋の中にいるのは、あなたと私。テーブルに向かい合って座るカイくん。
カイくんの横に立つチュンソク隊長。そして出入口を守る国境隊長さん。

突然静かになった部屋、窓を揺らしながら吹く風の音だけが大きく響いている。
その部屋の中で、私はカイくんに名乗った。

「私の名前は、ユ・ウンス」
「ウンス、さん」
「うん。江南で美容整形外科医をしてた」
「・・・江南で?」
「そう。4年前、この人と一緒にここに来たの」

私は横のあなたを見た。
あなたはその視線に頷くと、すぐにカイくんへ厳しい視線を戻す。
「私が来たのは2012年。だから知りたかったの。今は西暦何年?」
「・・・ウンスさん、それはあり得ないってば」

カイくんは頭を整理するみたいに、現実を突き付けるみたいに、胸のポケットからスマホを抜いてこっちに向けた。
表示されてる画面。まだ電源は切れてないから日付は見える。
そこに出ているカレンダーの表示文字に、私は息を吐いた。

January 2014

私がここに来てから、1年半しか経ってないんだと分かって。

「ねえ、まさか全員で俺を担ごうしてる?渡米を諦めさせるのに」
カイくんは深い息を吐くと、部屋の中をぐるっと見回した。
「・・・そんな事してないわよ」

不思議な事を言う子だな、って思った。普通この状態でそんな言葉出て来る?
こんな大掛かりなセット用意して、鎧を着こんで自分を担ぐなんて思うのか。
私の時は状況が状況だから、ケガ人を隠したくてこっそり医者を誘拐したのかと思ったけど・・・
「アメリカに行く予定だったの?」

渡米って言葉に引っ掛って確かめると、カイくんは床に置いてたディパックのポケットを開けて手を突っ込んだ。
そこから引張り出したのはパスポートとeチケットのプリントアウト用紙。
20:20 UA7977 INC - LAX

「今日しかない。今日の20時20分だ」
「・・・それは、ちょっと無理かも」
私の声にカイくんは渋々頷いた。
「そうだろうな。ねえ、ウンスさん」
「なに?」
「ここはどこなんですか。あなたはここに来て4年って言った。でもスマホ見たでしょう?
今年は2014年です。意味がさっぱり判らない」
「私もカイくんが納得できる説明する自信はないけど・・・」

あの時この目で見ても耳で聞いても信じられなかった。
彼だって同じ、私が説明して信じてもらう自信はない。でも。
「ここは高麗」
「こりょ」
「そう。今は恭愍王と魯国公主の時代よ」
「コンミンワン、って・・・あの恭愍王?天山大猟図の?」

そこでカイくんは大声で言った。
「ウンスさん、ちょっと笑えないよ。冗談キツ過ぎ。で、その人が」
さも嫌そうにその人、と言いながら、カイくんは私の横のあなたを顎でグイっと示した。

「あの、高麗のチェ・ヨン将軍とか言わないよね?」
「信じられないだろうけど、その通りよ。この人のお父様が、あの見金如石の言葉を残した方なの」
「勘弁してよ。それを信じろって?無理だよ。この男が、あの天下の大将軍?清廉潔白、剛直にして忠臣?」

吐き捨てる声と敵意丸出しの視線を平然と正面から受けて、あなたが薄く笑う。
「不満そうだな」
「当たり前だろ?お姉さんに話しかけたくらいでいきなり剣を抜くような男の、どこが清廉?」

その瞬間にカイくんの横に黙って立ってたチュンソク隊長が、拳を握ってテーブルを殴った。
同時に扉横にいた国境隊長さんが、ドアを蹴り飛ばしてこっちに向けまっすぐに歩いて来た。

勘弁して。何でこうすぐ睨み合いになるわけ?
チュンソク隊長はテーブルを殴っただけじゃ足りないのか、今にもカイくんの襟首に伸ばしそうな手の平を必死で握ったり開いたりして、息を整えて言った。
「お前は何も知らん。知らん奴は黙っていろ。良いか、俺が隊長なら黙ってお前をぶん殴っていた処だ。
剣を抜かれただけで済んだ。命拾いしてありがたいと思え」
今の隊長はチュンソク隊長なのに、その呼び方もすっかり戻ってる。
「大護軍」
国境隊長さんはカイくんを一切無視してあなたの横に立つと、黒い目をじっと見つめて頭を下げた。
「頼みます、大護軍。大護軍が出来んなら」

この人はその二人を順に見ると、小さく首を振った。
「二人とも座れ」
「大護軍」
「隊長」
「面倒だな。座れよ」

あなたの声は、それでも絶対なんだろう。
チュンソク隊長も国境隊長さんも、 渋々カイくんの横に腰掛ける。
「・・・医仙」

二人が座ったのを確かめると、あなたは珍しくそう呼んで、横の私へ顔を向けた。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    あら~ 
    不思議なものですね
    ウンスが 江南から消えて2年かあ~
    時間軸がどうなってるのか?
    カイくん… 気をつけないと
    ヨンより 隊長たちのほうが気が短いかも…
    さてさて アメリカ行きは
    ちょっと 置いといて
    説明しないとね~ 難しいけど(;´▽`A“

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