2016 再開祭 | 婆娑羅・21

 

 

 

窓外に今宵の雪が舞い始める。
全ては凍てつく風雪の中、来る春を待ち寝静まる。

奴は起こした。俺は起こさん。それだけの事だ。
春を待つ花を敢えて手折って捧げる事は出来ない。

綺麗で可愛くて頭が良くて努力家。

そんな歯の浮くような褒め言葉を惜しげなく、窓外の雪のようにこの方に向けて降らせる男。

何処まで素直なのかと、腹立ちも呆れも通り越し、羨ましくさえある。
花を見つけて手折り、篤学の献身を褒め讃え、不味い薬湯を飲み干し。
揺籃も仔細も判らぬが、この方を想う真情だけは判る。
俺が居ろうが居るまいが退く気は無いと言ったのは本心だろう。

俺も退く気は無い。当然だ。 出逢うまでどれだけ捜したか。
判るまでどれだけ遠回りしたか。 戻るまでどれだけ待ち続けたか。
あんな思いはもう二度とさせたくない。俺もしたくはない。

解決の策は判らぬが、己の懼れの理由は判った。
目前で此処まで攻め込まれ、堪忍袋の緒は切れた。
一方的に黙ったまま劣勢に甘んじる訳にはいかん。

手を伸ばせば斬る。何故なら俺のものだから。
花を愛で称賛するのは勝手だが、触れる事も奪う事も赦さない。
花盗人は罪になる、時にはそんな事もある。
それが俺の心に咲いた一輪きりの花ならば。

「ね、ヨンア」
「はい」
褒められたあなたは誇らしそうに、俺に向けて笑みかける。
「すごいって。褒められちゃった」
「・・・はい」

金の髪の男は雪のように、惜しげもなく言葉を降らせる。
思いもよらぬ方向から考えもせぬような足技を繰り出す。
今これ以上動かんのは、牽制か様子見か。
それでも隙あらば手を伸ばし、強引にでも奪い取ろうとするだろう。

そんな男は今までに幾人も居た。奇轍。徳興君。
結局はこの方を手にする事が出来ず、自滅していった奴ら。
この男は奴らと違う。斬るのに王様の御許しもそして政も無縁。
足枷になるものなど何も無い。この方を奪おうとするなら。

昏く冷え込む窓外の雪を眺めるこの横顔に視線が当たる。
一つは不安げなあなたの。そして一つは相変わらず好戦的な男の。
そうして眺めていたいなら、好きにすれば良い。

厨の炊事は終わり、熾火だけになっている。
続きの小部屋内の空気は、雪の表よりも冷えている。
吐いた息が其々の口許で薄白い煙のように立ち上る。
これ以上の長居は無用だ。この方を冷やしたくない。
「お前が言った」
「いきなり何のことだよ」

低く張ったこの声に、なお張り詰めた声が返る。
俺も無敗と呼ばれる武人。
何処から飛んで来るか判らぬ足技をこれ以上黙って喰らう訳にはいかん。
「俺は将軍になるとな」
「歴史上はそうだって、何度も言ったろ。だから何なんだよ」

その負けん気も大したものだ。
大抵の奴はこの眸を見れば負け犬の如く尻尾を股に挟んで逃げ出す。
敵に取って不足なし。
この方を挟んで俺と一戦交えようなど、命知らずも甚だしい。

片頬で笑んだまま声を返さぬ俺に、奴は不機嫌そうに押し黙る。
結局考えるのはチュンソクの役目だ。俺の性には合わん。
出来るのは矢面に立ち、それを払って攻勢に転じる事くらいだ。

教えてやる。戦にはいろいろな戦法がある事を。
敵を殲滅させるのに武器だけが頼りになるわけではない。
馬鹿の一つ覚えのような正面突破だけが手立てではない。

いつもと変わらん。相手の肚を読みそして一手先を取る。
「お蔭で戦法が判りそうだ」

この方が係わる戦なら絶対に負ける訳にはいかん。
そうして睨んで殺せるならば、試してみるが良い。
この方よりも先には逝かん。例え天地が返ろうと。

この戦はお前が先に仕掛けた。憶えておけ、カイ。

 

*****

 

毎晩飽きもせず降る雪で、朝の食堂からの眺めはまるでスキー場。
昼に少し溶けたと思ったら、夕方からの猛烈な寒さでアイスバーンになって、トレーニング中の足元を邪魔する。
今朝も窓の外の植込みは雪に覆われて、組み立てる前の雪だるまの頭と体みたいに丸く並んでる。
ニンジンと炭が必要だよな。雪だるまには目と鼻がいる。
どうにかそんな風に気を逸らす。目の前のムカつく男から。

「ヨンア」
テーブルで向かい合ったウンスさんが小さい声で呟く。
「はい」
その隣に座るチェ・ヨンは頬杖を突いたままで笑いながら、真っすぐにウンスさんを見つめてる。
「えーっとね・・・食堂よ?」
「はい」
「みんなが見てるわよ?」
「はい」

ウンスさんの言う通りだ。食堂中の全員が鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔でこっちを見てる。
今でも軍人としてランクは高いんだろう。チェ・ヨンの席は一番目立つ窓際にあるから、隠れようもない。
ただでさえ雪と陽射しで、目が痛いくらいに明るい食堂だ。逸らそうとしたって、つい目が行く。

おまけに目の前の男に隠すつもりなんか全然ないのは明らかだ。
そんな事さえ考えてるのかどうなのか。
昨日までの素っ気ない様子とは明らかに違う顔で、奴はウンスさんから視線を外さない。

 

 

 

 

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5 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは!
    あはは~(*´罒`*)
    反撃開始ですね♪
    すでに人目も憚らず頬杖ついてウンスを見つめてるようですし、この先どんなヨンが見られるか楽しみです(๑•̀ㅂ•́)و✧

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    さらんさま♥
    毎朝晩、ウキウキと拝読させて頂きながら
    そして、毎度 コメントしたいと思いつつ
    読み逃げばかりで…m(__)m。
    ウンスがお店を開いたお話の時といい
    今回の恋敵登場!のお話といい、
    振りきれたときのヨンの心の中の声、
    本当に最高です!
    マンボの耳に入ったなら
    「ちょっと、ちょっと、お待ちよ!」と
    呆れられるかもしれませんが
    全てを戦に例えるところが
    さらんさんちのヨンの良いところで。
    読み手としては たまらない魅力なのです。
    いよいよ始まったヨンの反撃!
    ひゃあ、たまんねええ~(≧◇≦)
    でも…現代人のカイのこと、
    羨ましいんですよね。
    好きな人に 素直に「好き」と言えなかった
    はるか昔の自分と
    武人のヨンを重ね合わせ
    今夜はちょいと一杯ひっかけて寝ます。
    (ノンアルコールですが…)
    さらんさん♥
    明日からまた新たな一週間。
    お忙しいと思いますが、ご無理をされませんよう。
    大事なSOULが待ってますからね(^^)/

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    婆娑羅、イッキ読みしました。カズレーダに爆笑!カイ君の写真。若い!
    カイ君の名前を見た時、私はソフトバンクのお父さん犬を思い出して、いやいや人間だからと1人ツッコミをしました。
    ウンスちゃんは、チェヨン君一筋だけどチェヨン君にしたら、気にくわない男でしょうね。早く続きが読みたいです!

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