【 婆娑羅 】
置かれてる状況が全く読めない。
時代劇のセットじゃないよな?
まあ江南のど真ん中から一瞬で時代劇のセットに連れて来られるだけでも、びっくりするけど。
取りあえず町中で見かける撮影風景みたいな、カメラやスタッフの姿は見えない。
カット!みたいな大声が掛かる事もないし、突然入り込んだ邪魔者に怒鳴って来る声も聞こえない。
小高い丘の上。 右手には、ただの・・・ど田舎の光景?
ど田舎ならまだいい、でもビル1つどころか家1件見えない。
もちろん広がってるはずの江南の光景はない。確かに奉恩寺にいたのに。
目の前には木造の頑丈そうな建物。そして茫然とこっちを見詰める男、男、男・・・あ、お姉さん。
変な感じだ。男たちはみんな鎧姿。その中でそのお姉さんだけが、やけに現実味を帯びて見える。
何だろう。服のせいか?いや、お姉さんだって俺から見れば充分時代がかってるけど。
俺よりは年は上だろう。でも文句なく美人だ。
吹き付ける風の中で、長い髪を乱して。長い上着の裾をバタバタ揺らして。
だけど周りの鎧姿の男達の異様さに比べれば、まだ親近感がわく。
髪型が普通のロングヘアのせいなのか、それとも少なくとも武器になりそうなものを持ってないせいなのか。
夕焼けでもないのに、辺りは薄ぼんやりと赤い。
霧?いや、空気自体が赤い?
とにかく現状を把握しようと、まずはお姉さんに向かって一歩踏み出した。
同時にそのお姉さんが俺に向かって、同じように一歩踏み出したのが見えたから
「あ、あの」
声を掛けた瞬間。
お姉さんの真横にピッタリくっついてた背の高い男が、守るみたいに片腕を伸ばしてお姉さんを遮る。
止まった事を確かめてから俺に向けて大股で近寄りながら、痛いくらい鋭い視線がまっすぐ飛んで来る。
男が俺に歩き始めると同時に、その男以外の鎧の男達が一斉に動く。
お姉さんを半円に囲んで、俺から遠ざけるみたいに奥へ守った。
凄いな、コスプレだけじゃなく、動きまで一糸乱れぬ完璧な連携。
本当に身体能力の高い軍人みたいだ。優秀な役者、選んだんだな。
「誰だ」
低く冷たい声で聞かれて、俺は腹の中で言い返した。
俺こそお前ら全員に聞きたい。お前らは誰なんだよ。
撮影の邪魔になったんならさっさと出てくから、出口を教えろ。
夢じゃない、と思う。無意識に指先で探る胸ポケットの中、スマホの薄くて硬い感触がある。
背中には背負ったままのディパックの重さをしっかりと感じてる。
そして何故か落とさずに腕に抱えたままだったリップスティック。
後でスーツケースに入れなきゃと思ってたのに。
俺が江南で、家から逃げ出したままの持ち物。
ディパックの中は機内に持ち込むつもりだった簡単な着替えや洗面道具。
財布やパスポート、充電器やラップトップくらいしか入ってない。
ボードは先に送ってた。向こうで誰かが受け取ってくれてるのか?
妙に冷静にそんな事を考える。
俺は乗らなきゃきゃいけないんだ。
20:20 UA7977
逃がしたらもう二度と、自由に何処にも行けなくなる。
家族の会合や会社のパーティでしか顔を合わせた事がないようなろくに知らない相手と、当然みたいに結婚させられるハメになる。
その彼女も俺も、他に運命の相手がいるはずなのに。
今はまだ、出会ってないだけかもしれない。出逢っても気付いてないだけかもしれない。
夕焼けを見たり、初雪を見たり、雨の日に窓の外を見たり。
クラブ帰りに日の出を見たり、初めてなのに懐かしい歌を聞いたり。
そんなときに思う。心の中に確かに感じる優しい気配に。
君が側にいてくれればいい。髪に触れるだけでいいんだ。
ただ黙って手を握りあって、目の前の景色を見たいんだ。
2人で片耳ずつイヤフォンをして、同じ曲を聞きたいんだ。
確かに気配がある。時には本当にいるようにも感じてる。
明け方ベッドで目を開ける時、静かに横にいるみたいに。
朝の砂漠の蜃気楼。真夏のアスファルトの逃げ水。
感じてるのに掴めなくて、腹が立って追い駆ける。
なのに追い駆けるたびに遠くなる。
君の髪も指も、その目も笑顔も香りも知ってるのに、顔が見えない。
「誰だ」
もう一度掛けられた不機嫌な声に、思わず飛んでた意識が戻る。
「・・・カイ」
名乗った声にも男は目を細めて、こっちの顔を睨んだままだ。
「何処から来た」
「どこからって・・・江南?奉恩寺?それともうちの住所の事?」
その時鎧の集団に包囲されてたお姉さんが、男達をかき分けて男のところへ走り寄った。
男はもう一度その行く手を守るように、大きく彼女の前に一歩出た。
男の黒い目。お姉さんの茶色の目。どっちも揃ってこっちを見てる。
俺?いや、俺の後ろのやけにボロボロの石の祠か?
その視線を追い駆けて、俺も肩越しに振り返る。
強く吹く風。赤っぽい景色。そして光る石の祠。
染めたばかりの金髪が、風に乱れて目に刺さる。
瞬きで追い払いながらもう一度、目の前の2人に向かい合う。
「俺も名乗ったんだから、そっちも名乗ってよ。失礼だろ?」
至極真っ当な俺の主張に頷くと、男は吐き捨てるように短く呟いた。
「チェ・ヨン」
現代からソンジン並のライバル来たる。
悋気ヨンでお願いします。
周りの人たちにもベタ惚れぶりを見せつけて
下さい(*’艸`*) (このえさま)
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おやおや
迷子さん 当然ウンスは
世話焼いちゃうんでしょうね
それで ヨン 悋気… プリプリ
( ̄▽+ ̄*) 楽しみね~
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おはようございます。
いつも母・姉妹とで拝見しております!
出だしからガッツリ心鷲掴み~(*≧∀≦*)
イメージは何方なのかしら~。
楽しみです~♡
これが、読みたくて、探してました。ありがとう御座いました?
幸せです