2016 再開祭 | 婆娑羅・6

 

 

晴れた雪景の朝の庭。凍りつく冷たい風。色のない眩しい陽射し。
見慣れた筈の北方の冬景色の中、男の何から何までが癇に障る。

あの男のこの方を見る目も。その浮かべた笑みも、振り返す手も。
若いあ奴が此方を挑発している事など重々承知の上で、それでも。

男が天門で弾かれあなたが今ではないと言った時、訝しく思った。
それでもこの方が男の話にあれ程喜んだ。
少なくとも男の知識は必要だった。

モンケ。モンゴル。百年前。
この方の其処での一年が、この方の帰りを待ち望んだ俺の四年。
こうして改めて話を聞けば、それが如何に奇妙な話なのか判る。
今日生まれた赤子が一歳になるか四歳になるかは天地ほど違う。
それ程の差が生ずる理由など、俺には到底考えもつかん。

あの天門は華侘の弟子が出入りするだけと思っていた。
しかし少なくともあの男に医の心得は全くなさそうだ。
それでもこの方にとって多くの情報が集まったのは喜ぶべきだろう。
だから必要だというなら、今だけは堪えてやる。

王様がチュンソクに下された王命。委細を確かめ報告せよ。
あの男がどうやら此度、その一端を握っている事は確実だ。
天門がいつ開くのか、開くたび何が起きるのか判れば、確かに王様の大きな力となる。

この方は喜び、国は強く、民は暮らし易く、王様の礎は強固に。
悪い取引ではない、俺さえこの虫唾の走る男に目を瞑れば良い。
どれ程挑発されようと、唯遣り過ごして見ぬ振りをすれば良い。
俺のものだ。判っている。男の手を取って狂喜したのも俺の為。

王妃媽媽をお救いし、王様をお助けし、李 成桂との因縁の結末を変える。
総て俺の為だけに。この方が考え望み願うのはただそれだけなのだろう。
「ヨンア」

朝の庭に出て来た男と挨拶を終え、その姿が兵舎へと戻るのを確かめてあなたが呼んだ。
「はい」
「カイくん、どうなるの?」
「戻れるまで此処に」
「毎日くぐって試すの?門が開いてる限り?」
「奴に任せます」

襟首を掴んで投げ込む訳にはいかんだろう。
だがくぐりたいのなら止める気は無い。
俺の言葉にあなたは心配そうに俺を見上げた。
「私達は?」
「必要な情報を得次第、開京へ」
「カイくんを置いたまま?」
「はい」

天門から帰る者を開京へ連れて行く意味は無い。往復の刻の無駄だ。
頷く俺に抗うように、あなたは首を横に振る。
「1人でここに置いてくの?そんなのダメ」
「常駐の兵が居ります」
「でも、言葉も気持ちも通じないわ。あの頃の私みたいに。カイくんは先の世界から来たのよ。
それも私より先の世界。私よりも若い。私はあなたやチャン先生がみんながいたけど、それでもキツかった」
「では此処に残ると」
「帰るまでよ?ずっと残ったりしないわ」
「奴の為に」
「違うわよ!」

あなたは小さく叫ぶと、俺の指先を握り締めた。
周囲に目のある兵舎での立ち話にしては大声過ぎる。
天門の見張りの為にのみ建てた狭い兵舎。
庭の雪中を行く兵らが声に足を止め、一礼してそそくさと立ち去る。

触らぬ神に祟りなし、奴らも既に良く知っている。
この方が絡めば俺がどれ程常軌を逸すか。
知らぬのが当の本人だけというのが、尚更腹が立つ。

「知りたい事があるの。特に歴史、私が知らなかった部分も彼なら知ってると思う。それが分かれば、もっと確実にあなたを守れるかも」
「イムジャ」
まただ。こうして釘を刺さねばならん。
言う度にこの方と揉めるのに。その心も痛い程伝わるのに。

「幾度も伝えた。興味はないと」
「でももっと詳しく分かれば、何か手段が」
「あの頃とは違う。投げ遣りで言っている訳ではない。あなたを置いては死なない」
「ヨンア!」
「だから戻ろう。役目は終いだ。天門は開くと判っただけで」

王様が俺へと下された王命。この方を無事に護れ。
確かめたいと言い張ったこの方に開いた天門を見せた。
あの男が来たのは計算外だったが、来た理由など俺達には関わりない。

あの男の全てに腹が立つ。近寄らぬに越した事は無い。
無理に攫って来たのでも無い。起こした動きの責を負うのは奴自身だ。

あの男から離れたいと、何故これ程思うのか。
見知らぬ闖入者だからか。この方に対して馴れ馴れし過ぎるからか。
無論それもある。しかしそれだけか。

己自身に問い掛ける。本当にそれだけか、チェ・ヨン。
この胸裡で声がする。違う。俺は何かを懼れている。

あの男がこの方に近寄る事を、近寄って起きる何かを懼れている。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    自分のため と わかっていても
    ウンスは自分のものとわかっていても
    何かが変わるんじゃないか
    気になるし 心配よね
    関わらないのが一番!
    確かにそうよね。ε-(•́ω•̀๑)
    でも…ほっとけない ウンスさん
    トホホホホな ヨン…

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