2016 再開祭 | 婆娑羅・5

 

 

「教えて欲しい。ここの三年は別の世では一年。あなたがあの頃にいたのは」
「モンゴル時代。今から100年くらい前よ」

医仙。
あなたがみんなの前でそう呼ぶからには、これは公式の会談ってわけよね?
目の前のカイくんに聞かせたいのか、それともチュンソク隊長たちに聞かせたいのか。
どっちにしろみんなの前でこの話を振るのは、つまり話せってこと。

「・・・モンゴル?」
最初に喰いついて来たのは、意外な事にカイくんだった。

「そう、モンゴル」
「今更訊くのバカみたいだけど・・・あのチンギス・ハーンの?」
「そう、まさにね。私が行ったのは、ええっと・・・モンケ?の時代」

そう、あの時劉先生は言った。モンケ。
そしてソンジンは劉先生を、そのモンケの暴政から守ってた。

あの時言ったわね?強い想いが縁を結ぶ。扉の向こうで思い出せ。
ヨンア。あなたを見るたびに、その眉に触れるたびに思い出す。
あなたとは出逢う運命だった。どこにいても、何度も、何度でも。

私はあなたを信じてる。あなたの魂を信じてる。
どこにいても必ず守ってくれる。どんなに姿を変えても必ず見つける。
私のソウルメイト。私のチャギヤ。

「全然計算が合わないでしょう、モンケの統治時代は13世紀中盤、1250年代からだ。ここが恭愍王の時代なら・・・ああ、だから100年前」
私の心を知らないカイくんは1人でぶつぶつ、驚くような事を呟いた。

「・・・ちょっと待って。カイくん今、なんて言った?」
「全然計算が合わないでしょう・・・?」
「そうじゃなくて、何?何で年代とか、そんなこと知ってるの?」
カイくんはそれには答えずに床のディパックをもう一度開けると、ノートとペンを取り出した。
そして下唇を噛みながら、向かいの私を上目遣いで見る。
その物言いたげな視線に横のあなたの眉がぴくりと動く。

「ウンスさんの言葉を信じるなら。今は、恭愍王の時代何年?」
「私がここに来た年からだから、7年目?」
「じゃあ今は1558年。で、モンケの時代はいつだった?」
「はっきりは・・・って、カイくんなんでそんなに詳しいのよ!」
「俺、歴史学者になりたかったの。親に大反対されて、邪魔されたけど」

カイくんは力なく笑いながら、ノートに年表らしきものをスラスラと書いて行く。
・・・驚きよ、まさに天啓ってこれなんじゃないの?
歴史を全く知らない医者に、帰れなくなった歴史学者の卵。
「か、カイくん!」

がちゃん!!

思わず伸ばした手が、さっき置いてたテーブルの上の茶碗を揺らす。
袖にお茶がこぼれたけど、冷めてたおかげで熱傷にはならなそうで良かった。
私はノートの上のカイくんの手を、ペンごと握り締めて振り回す。
「すごい。すごい、これも運命かも!!」
「・・・ウンス、さん?」
「カイくんがいてくれれば、力と知識を貸してもらえれば、今まで分らなかった事が分かるのかも!そうすれば、もしかしたら」

もしかしたら助けられるかも。ああそうよ!!助けられるかも。
媽媽と王様の悲しい運命も、そして誰より大切な私のあなたも。
「ね、ヨ」

その誰より大切な人を振り返った瞬間。

「・・・ンア?」
その大切なあなたは呆然とした顔で、椅子から立ち上がっていた。
はっきりと怒りに染まった顔色で。
カイくんの横を見ると、そこには真青な顔で固まったままのチュンソク隊長と、国境隊長さんの何とも言えない表情があった。

「ウンスさんの役に立てるなら、嬉しいよ。でも、ちょっと離して?今は年表を書きたいから」
微妙な空気の中でカイくんは余裕しゃくしゃくの声で言うと、彼の手を握り締めた私の手を空いた方の手で上から握り締めた。
「ラブラインの続きは、後でね」

その意味も分らないだろうに、妙に勘のいいあなたの表情が一瞬で変わる。
「あ、チェ・ヨンさん」
カイくんはからかうみたいな声で、次にあなたに向かって言った。
「斬るなよ?先に手を握ったのは俺じゃなく “あなたの” ウンスさんだから。見てたろ?その目で」

そしてようやく私の手を離して明らかにあなたを挑発するように、ふふんと得意げに笑った。

 

*****

 

「ウンスさん、おはよう」
呼んだ声に寒い1月の朝陽の中で、ウンスさんが振り返る。
「おはようカイくん。眠れた?」

眠れるわけなんてない。今でも全く意味は判らない。その真偽も。
だけど少なくとも昨日帰れずに引き返した兵舎の中で交わした話は、とても興味深かった。
恭愍王。魯国大長公主。それだけなら韓国人は誰でも知ってる。
でもモンケ、その呼称は歴史に造詣が深くなければ出て来ない。

ウンスさんはその名を呼んだ。
送られた廟号は憲宗、諡号は桓肅皇帝。普通ならどちらかで呼ぶ。

なのに彼女は、恭愍王の統治年代を知らない。
そして少なくとも、昨日聞いた限り話の辻褄はあってた。当時の歴史的背景と齟齬はない。
自国の王の統治年代を知らないドクターがモンゴル帝国の歴史だけ妙に詳しいなんて、そんなのアリか?

ウンスさんにはああ言ったけど、俺だって全ての世界の歴史が頭に入ってるわけじゃない。
国史を学ぶ基礎は、過去自国をどの国が統治してたか。
つまりは今までどの国に支配されていたかって事だ。
そうだ、俺の国には自由なんてなかった。いつだって宗主国に支配されてきた。体の良い奴隷みたいに。
そして国の中では、俺たち自身が身分階級で差別を続けて来た。

知ってる歴史で良かった。カッコついた。
ウンスさんにじゃなくあの男。ウンスさんを自分のものだと言い切った、イラつくあのチェ・ヨンに。

崔 瑩。国史のこの字も知らない幼稚園児も有名な童謡は知ってる。
その中で歌われるチェ・ヨンについても。
ウンスさんの言う通りだ。父の崔 元直が如當見金如石の金言を残した。
そして李氏朝鮮以降は、土着の巫俗信仰の人物神になっている。
まあ、そんな眉唾の巫俗信仰はともかくとして。

権力者に逆らったり権力闘争に敗れれば、実績に関係なく奸臣扱いされるのが韓国の悪しき風習。
崔 瑩将軍だけはそれがない。諡号の武慇を李 成桂自身が送った程。
そして正規の列伝にだけ掲載されてるんだから、その人心掌握術と信頼度、軍人としての能力の高さが判るレアケース。
そのどれが不足しても、そんな扱いはされなかったろう。

朝の兵舎の庭、手を振るウンスさんの横の奴を見て強く息を吐く。
不愛想な顔、許されるなら殺してやりたいという目で俺を睨んでるあの男が、崔 瑩将軍?
冗談じゃねえよ。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    カイくん! すてき♥
    思わぬ援軍だ!
    いつもの フレンドリーウンス
    嬉しさのあまり やっちゃった!
    ハグじゃなくて よかったねぇ
    (๑⊙ლ⊙)ぷ
    ヨン…面白くないなぁ
    チュンソクたち ヒヤヒヤねぇ

  • はじめまして。昨年末にシンイを観てはまりました。二次小説も初めて知りました、すっかり二次小説を拝見することが楽しくなりました。検索していてこちらにたどり着きました。これから、さらんさんの作品をどんどん読ませていただきますね。
    カイ君、ナイスです。ヨンにライバルが現れるお話し、大好きです。

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