「テマナ」
迂達赤の大門から大股に踏み込む俺めがけ、小さな影が駆けて来る。
その影を待つ隙に握る鬼剣を鞘から抜き、確かめて音高く納め直す。
駆け寄ったテマンが俺の前で頭を下げた。
「はい、隊長!」
「ついて来い」
「はい!」
「但し」
そのまま大門を出で典医寺へ向かう途。半歩後に従いたテマンが
「はい」
大きな返事をして、そこからこの斜め横顔を仰ぐ。
「必要な時以外は、三歩離れていろ」
「え」
「良いな」
「は、はい!」
狐に抓まれたような顔でテマンは頷き、其処から忠実に三歩離れた。
*****
「医仙」
静かな声で呼びながら、あなたが典医寺に部屋に入って来た。
「早すぎるわよ!」
パーテーションの裏、着替え途中の下着姿で思わず叫ぶ。
早く来るって言われたからこれでも走って帰って来たのに。
着替えてろって言われたから、大急ぎで着替え始めたのに。
「・・・待・・・す」
「えー?」
低い声がよく聞こえなくて、パーテーションの影から顔だけ出す。
「よく聞こえない。なあに?」
「何でもありません!」
私が顔を覗かせた途端に大きすぎる声で言って、あの人はくるりと大きな背中を向けた。
「ちょっと待ってて、すぐ着替えちゃうから」
頭を引っ込めて大急ぎで着替えながら言ったけど、答は返らない。
「ねえ、聞こえてる?」
「・・・はい!」
上衣の胸のヒモを結びながら聞くと、パーテーション越しにまるでやけっぱちみたいな、短い大声が返って来た。
何よ、小声だったり、いきなり大声だったり。
部屋へ入れば首許も露に、衝立の影から顔を覗かせる。
其処から目を背ければ、次は高く甘い声が追って来る。
駄目だ。この方に隠密行動は無理だ。
気配を消すという言葉の意味を、全く判っておられぬ。
衝立の裏から、調子外れの鼻唄がこの耳へ届く。
媽媽の謫居の庵で聴き、思わず笑んだあの歌声。
機嫌が直ったのは確かだろう。それならば良い。
帰さねばならぬなら、せめてそれまで。
手放さねばならぬなら、最後の時まで。
逢いたかったと泣かれるよりは、やっと逢えたと笑って欲しい。
苦しい程に逢いたかったのは、俺も同じなのだから。
「お待たせー」
そう言って衝立の裏から現れる姿へ振り返り、肚を決めて頷く。
「参ります」
「え?話をしに来ただけじゃないの?」
引いた椅子に腰掛けようとしたこの方が目を丸くする。
首を振るとこの方の半歩前に立ち、部屋の扉へ向かう。
武閣氏。チャン侍医。誰に見咎められようと、正面突破で破る。
*****
「護軍」
典医寺の部屋を一歩踏み出た途端、扉外を守る武閣氏が頭を下げた。
「お出掛けですか」
「ああ」
「御伴します」
「要らん」
「チェ尚宮様からの命です。何処であろうとお守りせよと」
「チェ尚宮に伝えろ。医仙は迂達赤隊長と共に出掛ける」
「護軍!」
足を止めず進む俺達に添い、しつこく食い下がる武閣氏に首を振る。
敵なら斬って道を開くが、武閣氏ではそうもいかん。
それでもこの方を外に出したい。せめて数刻だけ。
俺が横で護ってやれる、ほんの僅かな間でも。
「文句があれば後で聞く」
「・・・隊長」
騒ぎを聞きつけたか、診察部屋からチャン侍医が出て来る。
そして並ぶ俺とこの方を見て、奴の眼が笑んだ。
そのしたり顔が気に喰わん。何もかも見透かすような涼しい笑みが。
天界から連れてきて以来誰より医仙を支え、話を聞き、傍にいてその信頼を得て来た。
この方があの時この男に凭れ、腕の中で泣いた姿が何よりの証だ。
だからこそ感謝もしている。そして寄せ付けたくないとも思う。
同僚として、医術の師として、朋としてなら構わん。
但し男としてなら。欠片でもそんな気持ちが混ざっているなら。
お前の朋とし七年過ごしたからこそ、互いを知るからこそ何処かで身構える俺がいる。
俺とは違う、この男の大きさを知るからこそ。
迂達赤ならば蹴り飛ばせるが、侍医ではそうもいかん。
この方を見守る医官としてか、男としてなのか。
その笑みの裏、その肚裡には何がある。
そう考える事自体が馬鹿げているのに。
「何だ」
「お出掛けですか」
「ああ」
「・・・御二人きりですか」
奴は懐手に、ゆったりと首を回し周囲を確かめる。
「テマンがいる」
「はい」
離れて守るテマンの気配はこいつも嗅ぎ取っているのだろう。
安堵したように目許で笑むと、侍医は武閣氏に向き合った。
「迂達赤隊長がいれば問題はないでしょう。従者が多過ぎれば却って人目を引く。
医仙は気分転換が必要です。私から許可したと、チェ尚宮殿にお伝えを」
「チャン御医まで、そんな・・・」
困り果てたように首を振る武閣氏に済まなそうに笑いかけ、侍医は早く行けと言わんばかりに視線で俺を促す。
その場を侍医に任せ、足早に典医寺の庭を過ぎる。
部屋を一歩出るでもこの騒ぎ。この方との逢瀬は楽ではない。

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さらんさん、こんばんは❤️
護軍!あの時辺りの話ですね♪
ウンスの婚儀阻止後って感じかな~!
キチョルに見つかったら大変だものね
まさかお出かけ出来ると思ってないからウンスは驚きを隠せないようだし、いつも出歩くなってうるさいヨンが自ら逢瀬の段取り❤️
テマンにも釘刺したしね(*’ヮ’*)
チャン侍医に悋気を起こしながらも助け舟を出して貰い無事に出発かしらね♪
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ヨンさん~~
天真爛漫なウンスに、気配を消すことを期待するだけ疲れますよ(笑)
「この方との逢瀬は、楽じゃない」
仕方ないですよね、なんと言っても天界の美しい天女ですから~(^^;
ヨンも気苦労が絶えませんね(^o^;)
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武閣氏さんもお気の毒で
でもさ 二人っきりで
おでーとなのよ
許してあげて~
会いたかった~って 会いにくるかわいい人を
独り占めしなくっちゃ♥
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逢いたくて 離れたくなくて
互いに思いあっているのに
なかなか一緒には 居れないのよね
限られた時間なら
正面突破してでも その手を握り
二人だけの逢瀬を 楽しんで
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さらんさま、今夜もありがとうございます♪
逢瀬。また楽しみに読ませていただきます♪
ヨンとウンスさん、会えそうでなかなか会えない頃ですね
そして今編は・2人はデートできる・のですね!
年上だった頃の医仙さま、お姉さまの軽いノリも好きなんです。じつはあの、キチョルへの。。。
10年早ぁいっ!...デスョ?に、私、落ちました
それで・ウンスさん・と呼んでしまいます(笑)