2016 再開祭 | 佳節・拾肆

 

 

河原に薄い灰色の煙が流れ始めて、釣り糸を垂れていたあの人が振り返ると立ち上がる。
そして禁軍さんが作ったかまどの側に寄って、火加減を見るように中を覗き込む。

禁軍さんたちはあの人に何か言われて、嬉しそうに笑ってる。
大きな手が即席テーブルを指さすと周りのみんなが頷いて、鶏をどんどんそこの葉で包んで、かまどに投げ込み始める。

あまりのワイルドさに私が石の上から思わず腰を浮かせると、視界の隅で気付いたんだろう。
あの人が大丈夫だよって言うみたいに、手を上げて私を落ち着かせる。

「朴葉ですね」
そんなあの人達の手元を見ながら、タウンさんが教えてくれる。
「ほおば?」
「新葉の時期ですし、火に強く香りもつくので、蒸し焼きにするには良い葉です。肉が乾かず、長く持ちます」
「じゃあ、多分殺菌作用もあるのね」
「さっきん、ですか」
「腹痛を防いだり、中りにくくなるとか」
「ああ、はい。おっしゃる通りです。夏の初め、特に梅雨の今は最適な料理です」
「なるほどねー」
「ああして竈に投げ入れ灰で埋めれば、半刻程で中まで火が通ります。
あと四半刻ほど釣りをしてその魚も焼けば、丁度良い頃合いで夕餉が始められると思いますよ」

西空をようやく薄い赤に染め始めた太陽を見ながら
「大護軍にお任せすればご安心です、ウンスさま」
そんな風に断言されてしまうけど。

それじゃダメなの。あの人の為のパーティなのに、あの人が働いてたら意味がないのよ。
私やみんなに用意を任せて、ただどっしり座ってくれれば良いのに。
ここに来てから私を座らせたまま、自分1人でみんなとあれこれやってるし。
今だって私が立ってかまどの脇のあなたへ歩いて行こうとしただけで、何だか怖い目でじっと睨むし。

「天女。あんた何やってんだい、そんなとこで」
そんな大声に私が急いで見上げると、橋の上のマンボ姐さんがこっちを見おろす呆れた目と視線がぶつかる。
「姐さーん」

手を振る私に頷くと、姐さんはすたすたと河原へ降りて来た。
「あの女、まだ来てないのかい」
私じゃなく横のタウンさんに向かって聞く姐さんの声に、困った顔でタウンさんが頷き返す。
普段なら叔母様へのぞんざいな口利きは、絶対許さない。
けど相手がマンボ姐さんじゃ、どう対応していいか分からないみたいに。

「隊長はお役目がお忙しいかと」
「まあ甥っ子の祝いだからね、そのうち来るだろうさ」
立ち話をする私たち女性軍を尻目に、師叔とヒドさんと一緒に戻って来たテマンとトクマン君は、まっすぐあなたの所へ向かう。

「遅くなりました。これ借りてきました」
テマンが手に抱えてた大きな包みを目の高さまで上げて、あなたににっこり笑う。
「卓へ置け」
「はい!あとやる事は」
「魚に串を打つ」
「あ、じゃあそれは俺達が。大護軍は休んで下さい、せっかくの生」
「トクマニ」

きっと生誕の宴とかなんとか、言おうとしたんだと思う。
そんなトクマン君を見て、あなたが小さく顎を振る。
「それでおめえは何やってんだ、ヨンア」

師叔が呆れたように言いながら、河原のみんなの顔ぶれを眺める。
「おめえの宴会だろうがよ。主賓が」
「師叔」
「・・・何だよ」
「今日は」

あなたは何故かみんなに目を走らせてから、わざとらしいくらい大きな声で言った。
「医仙が開く、日頃の働きへの慰労の宴だ。皇宮からも御膳の下賜があった」
「ヨンア?!」
「大護軍」

その声を聞いて何故か納得したような顔の禁軍さんたちと、驚いた顔の迂達赤と水刺房のみんな。
納得できない顔で、チュンソク隊長があなたの横へ寄る。
それをひと睨みで黙らせると、チュンソク隊長は気付いたように頭を下げて、あなたの横から半歩下った。

でも何よりびっくりしたのは私よ。
いきなり名前を呼ばれて、みんなに頭を下げられて、やってもいない事、全然目的と違う話をされて。
「そうだったんですか」
「ありがとうございます、医仙」
「嬉しいです、わざわざこんな宴まで」
「あのね、あの、違うの、そうじゃなく」
「医仙」

見当違いなお礼の声の中、どうにか本当の目的を話そうとしてるのに。
次に私を止めたのは、こっちに来たチュンソク隊長の声。
「お心遣い、感謝します」
「チュンソク隊長、知ってるくせ」
「天女、やるねえ」
マンボ姐さんが大きな声で笑って私の肩を抱きながら
「あいつに考えがあんだろうさ。ここは黙って収めときな」

周りには聞こえないように、うんと小声で私の耳元に言った。

ようやく静かになった私に安心したように、人ごみの向こうであなたが満足したのか、それともごめんって頭を下げたのか。
小さく頷くとみんなを見回して、その後さっきまで釣り糸を垂れてた川を顎でしゃくった。

「魚を焼く」

 

 

 

 

2 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    あれれれ… ウンスの思ったようには
    行かないみたい 
    違うのに~ 違うのに~
    あれれれ~ 
    表向き 変えてしまって
    やっぱり 二人っきりでお祝い希望なのかな?

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨンの機転で誰にもお咎め無く
    楽しい宴が開けますね(^^)
    ウンスも自分の思いと違った
    お祝いの会になっちゃいましたが、
    ヨンに感謝しないとね❤
    次の誕生日は二人だけで
    ひっそりとお祝いしてください(笑)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です