2016 再開祭 | 佳節・参

 

 

今の季節ならベリー類よね。
キイチゴ、野イチゴ、スグリ、桑の実、コケモモ、サンザシ、茱萸。

家の庭にもたくさん生ってる。春に収穫して砂糖漬けにしたのもある。
こういうのが自給自足の最大の利点だわ。

卵はコムさんが大切に世話してくれてる裏庭のをもらって、お砂糖と小麦粉はうちの台所にあるのを使って。
あとは・・・どうにかして牛乳を手に入れる?

牛乳じゃないとダメなのかしら。豆乳の方が手に入りやすい気がする。
大豆を水に戻して、粉砕して煮て、裏ごしすればいいのよね?
乳アレルギーの人は豆乳カスタードを食べてるはずだし、豆乳なら搾ったあとにビジも出来るじゃない。
栄養豊富で一石二鳥。

プレゼントは、だいたい決めてあるし。

「ウンス殿」
雨に濡れたまま、あの人に送られて戻った典医寺の診察室の中。
髪を手拭いで拭きながら当日のメニューに四苦八苦してる私に、キム先生が声を掛ける。

「王妃媽媽に、何か」
「・・・え?」
「往診からお戻り以来、難しいお顔をされていますから」

自分の眉間を指さしながら、キム先生が顔をしかめて見せる。
その顔に首を振って笑いながら
「ううん、考え事。媽媽はお変わりなかった」

伝えるとやっと安心したように、キム先生は診察室の椅子に静かに腰掛けた。
「何よりです。雨に打たれたのはお気の毒でしたね」
「そんなのは乾くから。それより、ねえ先生」
先生の真向かいに、別の椅子をがたがた引っ張って行って座る。
顔を覗き込むと、キム先生は不思議そうに首を傾げた。

「はい」
「先生なら、特別な贈りものって何を想像する?」
「贈り物、ですか」
「うん。1年に一度しかもらえないものなら。欲しかった実用品?
それとも普段自分で買わないような豪華なもの?どっちが嬉しい?」

キム先生は座ったままでゆっくり腕を組むと
「チェ・ヨン殿には豪華なものというのは如何かと・・・全く意味がない気がしますが。
王様からのご褒美にも、どのような賄賂にも靡く事がないと聞き及んでおりますので」
「え?」

考え込んだ顔で呟くアドバイスに、思わず小さな声が出る。
「べ、別に私、あの人へのプレ・・・贈りものなんて一言も」
「ああ・・・それ以外なら、尚の事問題です」

先生はおかしそうに言って、私の顔を見つめ返す。
「それともまさか本当に、他の方への贈り物ですか」
「・・・確かにあの人へなんだけど」

私の行動パターンって、そんなに分かりやすいわけ?
「そうですね。チェ・ヨン殿はウンス殿がお選びになる物なら、例え藁一本でも大喜びしそうです」
面白そうに笑った先生にしみじみ実感する。

聞く人を間違えたわ。

 

*****

 

「大護軍」

あの方を送った帰り道。
診察室を出た足は真直ぐ兵舎に戻る事なく、降りしきる雨の中、門とは逆の薬園を奥へ進む。
背後のテマンが髪から雨雫を滴らせ、不思議そうに問う。

「迂達赤に戻らないんですか」
「トギに訊きたい事がある」
「トギ、ですか」
俺が言ったのが意外なのだろう。
名に目を丸くし、テマンは斜めから顔を見上げる。
「聞くって」
「・・・野暮用だ」
「はい」

テマンは頷くと足を速め、先に立ってトギの住まう隅の離れの扉へ急ぐ。
「トギヤ」
奴が扉から声を掛けると、驚いた様に中からトギが駆け出てその指で何かを語っている。

降りしきる雨の合間にテマンの返答の声が途切れ途切れに聞こえる。
「いや」
「・・・うん」
「今日は大護軍の用だ」

その声にトギの視線が雨を縫い、近寄る俺に向く。
「トギ」
目の前に立ち、声をひそめて静かに問う。
周囲に三つの影以外、他の誰が立つでもないものを。

「・・・訊きたい事がある」

雨音に紛れた低い声に、トギばかりかテマンまでが首を傾げた。

 

*****

 

荒梅雨の宵、雨は夜半を過ぎても烈しいままで続いている。

細い肩を腕に抱き、寝台に横たわり雨を聴く。
この方が咽喉元へ寄ると、甘えるように鼻先を擦りつける。
「決まった?」

雨音に気を取られる振りで、柔らかな髪に指先をくぐらせる。
「ねえ、決まった?」

繰り返される問い掛け声に、眸を合わせずに呟く。
「・・・互いに秘密なのでしょう」

あなたが生まれて下さった事。共に此処にいて下さる事。
だからこうして今宵の雨を、抱き合って聴く事が出来る。

温かい息、柔らかい髪、答をねだる声、答えぬ俺を見上げる瞳。
この方のおっしゃった意味がよく判る。

生まれ日とは、命を授けて下さったご両親にお礼をする日でもあると。

俺の感謝はいつでも罪と表裏だ。それでも望まずにいられない。
何よりも大切に致します。離れても御義父上が護って下さる分まで。
命ある限り共に居ります。遠くから御義母上が慈しんで下さる分まで。
お許し下さい。あの時攫った罪も、こうして手放せぬ慾も。

そして俺があなたに贈る物は、その心を表すものでありたい。
護って下さる御義父上への、慈しんで下さる御義母上への感謝と共に、あなたへ心を伝えるものでありたい。

共に過ごす祝いの日まであと十日。
梅雨時とはいえこの烈しい雨には、早い処止んでもらわねば困る。
さもなくばこの計画も、文字通り水泡に帰す。

甘えるあなたを深く抱き寄せ、夜目にも白い額へ小さな口づけを贈る。
伝われば良い。此処にいて下さるあなたが俺の生きる理由の全てだと。

この唇を嬉し気に額に受け、猫のように瞳を細めてあなたが囁く。
嬉し気に咽喉を鳴らす音まで聞こえてきそうだ。

「楽しみ。早く10日後にならないかな」
「・・・十眠れば」
まるで駄々を捏ねる幼子のような言い分に小さく笑う。
そんなに早く夜に過ぎてもらっては困る。
あなたへの感謝を表すには、十や二十の夜では足りん。

 

 

 

 

1 個のコメント

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    ささやかですが
    お祝いにって 健気に準備するウンスが
    可愛いわ~
    何を贈ろう… 喜んでくれるかな~?って
    わくわく どきどき
    楽しみね~ ( ´艸`)
    トギにヒントをもらいたかった?
    何でも喜ぶよ~ 
    お互いにさ~ ふふふ

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