2016 再開祭 | 佳節・拾参

 

 

ヤンニョムに漬けた鶏、家から持って来た野菜。これでBBQにしようと思ってたのに。
そこに加えてもらった豪華すぎる媽媽からの差し入れのお菓子、お重の中の色とりどりのパンチャン。
私たちじゃなかなか手に入らないカルビチムやアワビ、ジョンやチャプチェまで盛りだくさん。

河原から見上げる空は、まだまだ昼の明るさ。
さすが夏至の翌日の昼は長い。21世紀でもこの時期は、夜7時過ぎまで明るかった。

長い雨が上がったと同時に今までの晴れ間を取り返すみたいに、空はまぶしい色に光り始めた。

この橋は何度か通り過ぎた記憶はあるけど、名前までは知らなかった。
この人が会場に指定したのは手裏房のマンボ姐さんの酒屋のすぐ近く、善竹橋の河原だった。

チホ君とシウル君が荷車で運んでくれた荷物をどんどん河原に置く。
この人は荷車の板をつなぐ掛金を外して、あっという間に5枚の大小の板にする。
そのまま近くの大きな石の間にそれを渡すと、即席のテーブルが5つ出来上がった。

そのテーブルの上に、河原の大量の荷物を次々置いてくこの人に向けて
「大護軍!!」
「チェ・ヨン」
「遅くなりました」
「今行きます、待っててください!」
「あああ、そういう準備は俺達がしますから!」

橋の上からの賑やかな声と同時に、河原へ駆け下りて来る大勢の人影。
迂達赤のみんなやアン・ジェ隊長の後ろに、見たことない顔もたくさん。
空は晴れたしみんなは来たし、おいしそうなお料理の差し入れはあるし。

気分も盛り上がって来た。
さあ、パーティの始まりよ!

 

*****

 

「手裏房の酒楼で、盃を借りて来い」
「俺が行きます!」

この人の声にぱっと素早く駆け出すテマン。

「手が空いている奴は先ず魚を釣れ」
「では俺達で」

手近な木の枝を拾い上げるチュンソク隊長。

「箸が足りんな」
「借りてきます!」
一声残しテマンの後を走り出すトクマン君。

「料理は纏めて卓へ置け」
「俺達でやろう」

差し入れに驚いた顔で頷くアン・ジェ隊長。

「竈を組む」
「では自分たちが!」

頷く顔は知らないから、多分禁軍さんなんだと思う。

あなたの声に、指さす場所に、迂達赤のみんなや禁軍さんたちがてきぱき動く。
私が名乗りを上げる隙もなく。

これって確かにすごく楽だけど・・・でも動いてるのは、みんなお客様でしょ?
ホステスの私が、もてなす側なのに座りっぱなしっていうのもどうかと思う。
「ねえ、ヨンア」

河原のゴロゴロした石の上を歩いて、あちこちに目を配るあなたの横までやっとたどり着く。
上衣の袖を引っ張ると、あなたの黒い瞳が驚いたように私を見た。
「はい」
「私も、何かしないと」
「・・・イムジャ」

何故か困った顔をしてあなたは私の手をぎゅっと握ると、ゆっくり河原を歩き出す。
そんな私たちを河原のみんなが、びっくりした顔で見てるのが分かる。

そんな視線なんて気にもしないように、さっきまで私が座っていた大きな石の所まで戻る。
そしてあなたは私の両肩に優しく手を掛けて、有無を言わせずにその石の上へ座らせる。

その顔を見上げる私に、低い声が呟いた。
「此処に。動かれては落ち着きません」
私の横にいつの間にか寄り添ってたタウンさんが頷く。

結局どう見ても、あなたの誕生日パーティじゃなくなってる。
これじゃただのBBQだわ。
それも主賓のあなたがパーティを切り盛りしてるって・・・変じゃない?

困った顔でタウンさんを見上げると、タウンさんは静かに笑い返して小声で言う。
「ウンスさま」
「うん?」
「お作り頂く筈だった、甘いものですが」

ここまで運んだ手作り豆乳。卵にお砂糖、フルーツにそば粉。
荷物の中身を思い出して頷く私に、優しいタウンさんの声がヒントをくれる。
「今日は王妃媽媽から下賜された甘味があります。
もしお厭でなければ改めて、大護軍だけにお作りになったらいかがでしょう」
「・・・それで良いと思う?」
「はい」

河原に集まって石でかまどを作ったり、魚を釣ってるみんなを見渡しながら、タウンさんが訳知り顔で言う。
「皆も口にするのでは、大護軍がお怒りになりそうです。せっかくのウンスさまの手作りですから、独り占めされたいでしょう」
「みんなに食べさせたら喜んでくれそうだけど。何よりみんなが優先じゃない?今日だって」
「大護軍には大護軍のお考えがございます。間違いはありません」

私の意見に首を振る表情が、ほんの少し厳しくなった。
「ウンスさま。大切な女人の手作りの料理を他の男に食べられて、心底喜ぶ男などおりません。飯屋の主以外には」
「じゃあ・・・果物だけ出しちゃおうかな。また庭でたくさん取れるし」
「そうなさいませ。帰りの荷は少しでも軽い方が」
「そうよね」
「はい」

緩んだタウンさんの目に頷き返して、河原でみんなに囲まれて釣り糸を垂らすあの人の背中を見る。
「ほんとによく釣れてるみたい」
「ええ。長雨の後の晴れですから」

夕方なのに昼間よりずっと明るくなった空を見上げて、タウンさんは眩しそうに目を細める。
あの人と並んでみんなが垂らしてる釣り竿代わりの枝は、しばらくすると必ずどれかが大きく曲がる。
次に子供みたいな歓声や笑い声や冷やかし声が、あちこちで上がる。

「ねえ、タウンさん」
「はい」
「こうして見てると何か子供みたいじゃない?あの人たち」

私の声に笑いながら、タウンさんは同意するみたいに大きく頷いた。
「殿方は幾つになってもどこか子供ですよ、ウンスさま。だからこそ可愛らしいのでしょう」

 

 

 

 

2 件のコメント

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    何でも完璧に進めてくれる
    頼もしい旦那様ヨン❤
    ウンス幸せね~(*^^*)
    そして
    いつも素敵な助言をしてくれる
    タウンオンニ❤
    ウンスも心強いですね(^^)

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