2016 再開祭 | 逐電・意

 

 

勢いで飛び出した庭を、腹立ちまぎれに門へと歩く。
夏が近いせいなのか、まだ空は明るいまま。
どこに出かけるにしたって、怖くて不便って時間じゃない。

こんな風にケンカしちゃダメだって分かってるのに、あの人の心が分からない。
こんなに長く一緒にいるのに。
イ・ソンゲの事まで知ってるのに、気付いてくれてるのにそれでもまだ迂達赤を、軍人を続けるつもりだなんて。

第一、今は迂達赤だけじゃないじゃない。
どこを飛び回ってるのか分からないくらい忙しいし。
毎日水を浴びてから帰って来てるのに、お風呂場に砂が落ちてるくらいだし。

きっと髪の中や着てる服の隙間に、落としきれないくらいの砂埃がたまってるんだと思う。
どれだけみんなを鍛えまくってるのよって、お風呂場の床を見るたびに心配になる。

私が自分より大切なあなたの体は、この世に1つしかない。
受けるみんなは1日何時間かの訓練だけだろうけど、それを掛け持ちしてるあなたは1人だけなのに。
「・・・バカ」

聞こえてないだろうけど、言いたくもなる。
「私の事も考えてよ」

明るい庭を門に向かいながら、短気な自分にも頑固なあの人にも腹が立つ。
毎日クタクタになるまで頑張ってる旦那さんをただ見てるしかない。
情けない思いでこうやって見てるしかない、私の身にもなってよ。

もう一度今すぐ戻って、ごめんね、でも心配なのって言いたくなる。
私を愛してるなら心も守ってって言ったでしょ、だからもっと頼ってよって言いたくなる。

でも今は一緒にいたら、もっとこじれるわ。売り言葉に買い言葉。
私も黙ってられないし、あの人は多分商売とかのキーワードにガマン出来なかったんだろうし。
だから心を売るだの何だの、おかしな方に話が捩じれたんだと思う。

だけどイヤだもの。自分の稼いだ金額も知らないような、気にしないような人なのに。
そんな人に好きなだけ使えって言われて喜んで使う程、私だって図々しくはなれない。
昔の私みたいに楽して他人に頼ろうって思えたら、喜んで飛びついちゃうだろうけど。

あなたを見てると、さすがにそれは恥ずかしいって気になる。
私があなたを少しでも楽させたいって思うのが、そんなに変?

そして、あの人の言う通り。
あの人は最後に、政治の方向性の違いでイ・ソンゲと対立する。
親元派のあの人と親明派のイ・ソンゲが対立して、最終的に威化島回軍のクーデターが起きるはず。

そもそも合わなかったんだなあって、国史の勉強をしながら思った。
ひたすら滅私で国を守ろうとしたチェ・ヨン。
ひたすら自分の権力を追い求めたイ・ソンゲ。
おまけにどっちも高麗王室の血縁と無関係じゃ、クーデターでの軍事衝突も仕方ないかもねって。

そう考えたの。
だって自分には全く無関係な、何百年も前に起きた歴史。
医学部受験には関係ない一般科目で、さらっと勉強しただけだったから。
チェ・ヨンが親元派って勉強した。
だからあの人が元の象徴みたいなキチョルと敵対してたのも、反元派の王様を守るのも、違和感があったんだもの。

私が絡まなかったら、 あの人はキチョルと戦ったりしなかったかもしれない。
そうすればキチョルは最初の予定通り、王様に粛清されてたかも。
そしてキチョルが徳興君を担ぎ出さなきゃ、歴史の流れ通りになってたはず。

ってことは、私一人の存在で歴史は変わるかもってことでしょ?

あの人が軍人でなければ。
少なくてもその時、国の軍事力の半分を握る力を持ってなければ。
たとえこの国が次に朝鮮になっても、助かるのかもしれない。
軍事クーデターじゃなく、穏やかな政権移行で国が変わるって事もあるかも知れない。
それは無理でも、あなたが処刑されずに済むかも知れないのに。

そう考えるのがそんな悪い事?
少しでも可能性のある方向を探すのはそんなに悪
「い!」

急にすごい痛さに襲われて、頭を押さえてようやく涙目を開ける。

・・・何で、目の前に木があるの?

庭のはしっこに植えた南天の木の根元に座り込んで、そこから木を見上げて気が付く。
ぶつかったんだ。門に向かって歩いてたはずが、考え事してコースを逸れたんだって。
「ウンスさま!」

地面に尻もちをついたままの私に、タウンさんが慌てて駆けて来る。
「お怪我は!」
座り込んだ私を立ち上がらせると汚れた上衣をパタパタはたいて、顔を覗き込む心配そうな視線。
「大丈夫。考えごとして、ぼーっと」
「申し訳ありません」

急に深く頭を下げられて、私の方が驚いた。
「お声を掛けようかと迷ったのですが、確かに難しいお顔をしていらしたので、控えました」
「そうですよー、だからタウンさんが謝る事じゃないの!」
「ですが」
「ねえ、タウンさん」

さっきの衝撃でまだ頭を押さえて、難しい顔をしてたのが功を奏したのか。
タウンさんは私の声に真剣に頷き返す。
「・・・はい、ウンスさま」
「今の時代、女性は悩むとどこに行く?少し冷静になりたいなー、落ち着きたいなーって思ったら。
タウンさんならどこに行く?」
「私は・・・そうした繊細な心持ちには、縁遠いので」

それでも私を見て可哀想だと思ってくれたのか、首を傾げたタウンさんが教えてくれた。
「心の平穏というなら、寺へ行く者が多いかと」
「お寺!」

なるほどね。
パワースポットでもあるし、高麗時代の国教は仏教だし、理に適ってるのかも。
クリスチャンが教会に告解に行って、悩みを聞いてもらうようなものかも。だけど・・・
「普通のお寺って、お坊さんとか男性よね?」
「女人でしたら、尼寺に行くことも多いかと」

その素晴らしいヒントに、私は強く頷いた。
「ねえ、タウンさん。ここから一番近い尼寺って、どこ?」
「尼僧とお話をご希望でしたら、私が寺までお連れします」
「ううん、タウンさんは晩御飯を作ってくれる?私1人だけでちょっと行って来たいの」
「ウンスさま」

タウンさんの目が厳しくなる。だけど、あの人が晩御飯を抜いたらもっと困る。
インスタント食品どころか、ラーメンもない時代だもの。
おいしいご飯をしっかり食べて欲しい。

私はタウンさんに手を合わせて、首を傾げてねだってみせる。
「開京の町中ならだいぶ慣れて来たわ。買い物も不自由してないし、迷子になったりもしないと思う。
ちょっと行くだけだから、教えて?」
「・・・本当に、すぐにお帰りになられますね」

頼み込む私に、タウンさんが仕方ないって顔で渋々頷いた。

 

 

 

 

3 件のコメント

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    尼寺行きの経緯…なるほど
    でも 男の人が聞いたら
    びっくりよね 逃げたのか?って 思っちゃうわよね
    特に ヨンは ビックリでしょう。
    も~ 二人とも
    ゆっくりお話ししなくちゃね。 ぷぷぷ

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    どこまでも相手のことしか考えられないから
    ぶつかるのか・・・
    ヨンの気持ち、ウンスの想い
    何も考えず突っ走るようにしか見えないウンスさん
    でもヨンの先の先まで考えずにはいられない・・。
    考えるからこそ突っ走るんですね~
    ウンスの苦しい程の想いをここまで細やかに
    顕わに見せてくれる、さらん様の見事な筆力に脱帽です!!
    そして出ました!!大好きなヒドヒョン!
    2人の仲直りに一役買うのかな??
    次が待ちきれないファンには嬉しい怒涛の連日UPですが
    その後、右手の快復は順調でしょうか?
    慣れない左手でウィンパチ君と格闘しているさらん様に
    感謝です・・が、左手~無理して腱鞘炎にならないよう
    呉々もお大事にされてくださいね。

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    さらんさん、おはヨンございます♪
    やっぱり事の顛末を知っているが為に色々考えてしまいますよね…
    考え事で木に激突しちゃうほど…ね。
    お寺にって勧めはタウンさんだったのですね!
    確かに静かに考えるならどこに行こうって思っちゃうもんなー!
    タウンさん自分が余計な事を言ったせいでって気にしてるかも!
    早く仲直りできると良いけど~o(*;ェ;o')

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