「大護軍!」
叫んで鍛錬場へ駆け込むテマンに、鍛錬中の泥塗れの奴らが驚いた目を投げる。
注視の中を脇目も振らず俺へと真直ぐ駆けて来ると姿勢を正し、はっきりした声が言った。
「いました!み、見つかりました。市の南で」
「・・・南の何処だ」
棍先で足許の土を突くと、駆け寄って来たトクマンが慌てて棍をこの手から受ける。
足早に歩き出した俺の脇、テマンが従いて声を続ける。
「ヒドヒョンが追い駆けてます。市の手裏房から知らせが」
「ヒド」
「お、俺がつい。大護軍に許してもらってないのに」
淀むテマンの声に、その頭へ手を遣りぐしゃりと搔き回す。
お前が素直に頼んでくれねば、今より更に拗れる処だった。
乱暴な手付きにようやく安心したように、テマンが顔を上げる。
「無事だって、酒楼で待ってろって、皆に。ただ」
「チュンソク!」
テマンの報せを聞きつつ放った声に、鍛錬場の逆からチュンソクが駆け付ける。
「は」
「出る」
「は!」
その声にチュンソクを始め、鍛錬場の奴らが一斉に頭を下げる。
そのまま走るように鍛錬場を出る俺の脇、従いたテマンが
「ただ、その市の手裏房が、ヒドヒョンの伝言を」
「何だ」
「追って来いって、大護軍に伝えろって言ってます」
「追って来い・・・」
ヒドの伝言。追って来い。あの方が見つかったのは。
「市の南だな」
「はい。茶屋で、饅頭を食ってたって」
俺から逃げておきながら城下でのんびり饅頭か。
その報告に半ば腹を立て、半ば安堵で息が漏れる。
「判った」
頷く俺に、テマンはようやく顔を綻ばせた。
*****
市の大通りを南へ下りつつ、周囲にヒドの手掛かりを探す。
茶屋も一件二件ではない。
追って来いと言うなら、何か合図は残している。
真上まで上がった陽が、夏のように白く光る。
その光に眼を眇めもう一度周囲を見渡した時、川沿いの枝垂れ柳の印に気付く。
赤月隊の頃に使ったそれは進む方向を指す木の枝の先に、他の葉を結んだ標。
近寄ってその葉の折り口を見れば、まだ滴で光る程に新しい。
この暑さの中、これ程新しく毟られた葉。
懐に木炭すら無い時に用いた合図。これが間違えでなければ。
その枝の指す方向へ道を取り、俺は足早に歩き始めた。
川沿いに伸びる道脇の柳の枝には、等間隔に葉が結ばれている。
そして追い駆けた葉の合図が終わる。手折られたばかりの柳枝の切り口。
周囲を見渡せば市を西へ折れる道の曲がり角、板塀の隙間に柳枝が挿してある。
その道を折れれば、初めて壁に見つける線疵。
枝か石か、尖った何かで壁に疵をつけ、其処へ砂でも擦り込む。
晴れた日にのみ使う標。そしてその独特の鉤印。
あの頃赤月隊でのみ使った形だ。 間違いない。
その跡を追い走り始める。
程無く響く屋根からの鋭い指笛に、白く光る空を見上げる。
屋根を並走していたテマンが大きく手を振り、しきりに斜め左を指している。
見つかったか。此処まで走らせやがって。
その指の方角へ進路を取り、近道の脇道へ入る。
屋根の上の影は付かず離れず、脇を守って従いて来る。
しかしこの道は、まさか。
走り切った道の先、夏空の下に佇む墨染衣に足を止める。
涼し気に立つ影のような男は視線で振り向き、俺を認め低く笑う。
「追い付いたか」
その声に頷いて寄ると、ヒドは顎で正面の山道に向かう入口を示す。
「早かったな。いや、女人の足が遅いのか」
「まさか、此処を上がったのか」
目前の山道を眸で追うと、ヒドは呆れたように頷いた。
「今しがた登って行った。追え。充分間に合う」
「・・・判った」
屋並も其処で途切れた。
テマンも屋根を降り、俺に沿って走り始める。
「て、大護軍、この道」
昨日も今朝も、既に通い慣れている山道を走りつつ、テマンがさすがに呆れたように呟く。
「この先、尼寺じゃ」
「ああ」
まさか戻るまいと思っていた寺に戻ろうとするなど、肚の読めぬあの方らしい。
けれど此度は門はくぐらせん。
低くて高い男子禁制の敷居を超えられたら最後。
叔母上かマンボか、トギかタウンに加勢を頼む事になる。
下らん私事で人は動かせん。
必ずこの手で掴まえる。門を超えるその前に。
尼寺の山門へ伸びる青葉に覆われた初夏の隧道。
木洩れ日の先にあの姿だけを追い求め、真直ぐに駆け上がる。

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さらんさん、こんにちは!
ヒドヒョンの目標に助けられ無事に追いついた様ですね~
ウンスまた尼寺に舞い戻ったのね。
門を潜る前が勝負だ。
逃さず慎重に退路を絶って下さい~
ドキドキ~!
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ま、まさか
おなかがすいて 饅頭食べて、
美味しい~ みんなにも…?
(๑´ლ`๑)フフ♡
広域鬼ごっこに なりかけてますが…
ある意味 ウンス行き場が 無いのよね
はやく 仲直りしなきゃね
みんなに迷惑かけたって
ヨンは 怒りたいカモだけど
ウンス 好きなんだもんね。
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ウンスさん~
尼寺に戻って来たんですね?
何だかんだ言っても、
本心はヨンに迎えに来て欲しいんですよね(^^)
ヨン~早く掴まえてあげてね❤
でも、お互い意地っ張りだから
どうなることやら(^_^;)
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赤月隊の仲間へ知らせる印は、さすが隠密集団だっただけのことがありますね。
ヒドヒョンが見つけてくれて良かったー。
それにしてもウンスは、普通の常識では計り知れない行動をとりますね(^-^)
出奔中でも、お饅頭を食べて、まず腹ごしらえ?
取り敢えず、また、尼寺に戻ろう?
ヨンや、周りの人たちに心配をかけながらですが、ウンスの家出…、憎めませんね!
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流石ウンス姉さん、饅頭食べた後にちゃっかり寺に戻るとは(笑)
肚が読めん!のも分かるわ~
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金に執着しすぎ、
今回は気分が悪くなる