「門を開けろ」
篝火の一つもない寺は、既に深閑と静まり返っている。
暮れの尼寺、山門前を塞ぐ僧衣の比丘尼に向かって頭を下げる。
「頼む、通してくれ」
「大護軍さま」
老いた比丘尼は緩やかな仕草で、西日の名残る花色の薄暮空を指す。
「大護軍さまは、得度はされておりませんな」
「それは」
「日が落ちておりますな」
「判っている」
「ならば戒律も御存じの筈です」
「・・・ああ」
これ程立派な名分を持ち出されては黙るしかない。
目前の山門向こう、宵の帳に沈みかけた僧坊。窓から漏れる薄明り。
その何処かに、確かにあの分からず屋が隠れているのに。
目前の門、ほんの三寸にも満たぬ敷居がこれ程高い。
「比丘尼」
「ご心配なさいますな」
懇願の声の響きなど何処吹く風といった風情で、比丘尼は穏やかに言った。
「奥方様はしっかりと当寺でお預かり致します。ご自身で帰りたいという御気持ちになられるまで」
これ以上の長居をしても埒は明かん。
諦めと、まだ肚底に残る憤怒の息を長く吐き、無言で踵を返す。
無言のまま山道への階を降りる背に、あの困った方の残した最後の声を聞きながら。
いつまでも私が言うなりになると思ったら、大間違いなんだから!
ああそうだ。確かに大間違いだった。
此処での暮らしに慣れて頂きたいと、余計な知恵を付け過ぎた。
馬の乗り方。小刀の扱い方。それなら未だしも縁切り寺まで。
闇に沈み始めた石段で足を止め、背後の寺を振り返る。
まさかな。
*****
「医仙さま」
古いお寺なのに、きしむ廊下を歩いてくる足音も聞こえなかった。
庭はもう真っ暗で、部屋の灯のせいで外の人影も見えない。
突然借りてる部屋の扉の向こうから呼ばれて、びっくりして顔を上げる。
「はっ、はい!」
「少々、宜しいですか」
急いで扉を開けると、すぐ目の前に穏やかな顔で御前様が立っていた。
この尼寺の一番偉い方。
他の尼さんたちが御前様って呼んでるから、 私も呼ぶべきなのよね?
何しろ仏教なんて、全然分からないんだもの。
仏教徒じゃない私もそう呼んじゃって良いのかしら?
あの人がいてくれないと、分からない事がまだまだいっぱい・・・
そう思いかけて首を振る。違う。ダメよウンス。
それが原因で、あの人があんな事言い出したに決まってるんだから。
どうせ思ってる。俺がいなきゃ、やっぱり1人じゃ無理だろ。
そんな風に思われるなんて、私にだってプライドってものがある。
絶対言うなりになんてならない。我慢なんてしないわ。
どんなに顔を見たくたって、心細くたって、今回は絶対私からは折れたりしない。
愛嬌であの人を笑わせるなんてしない。あんな怖い顔されたって。
最後に言われたあの声が、耳の中でこだまする。
此度は俺の言う事だけを聞いて下されば良いのです。
おれって何も言うなって事でしょ?黙って従えって事でしょ?
私が別の意見を持ってても、そんなの知らないって意味よね。
今さら頭を下げに来たって遅いんだから。私だって怒ってる。
「大護軍さまが、先程まで門前に」
それなのに、扉の前の御前様の声を聞いた途端に心が揺れる。
御前様の後ろの空は、もうすっかり暗くなり始めてる。
あの人ならどんな夜遅くになったって、絶対に大丈夫。
そんなこと分かってる。だけど暗い山道を1人で降りたのかしら。
せっかく迎えに来てくれたのに、その道を1人で戻ったのかしら。
あの人は淋しくなんかないかもしれない。実は清々してるかもしれない。
だけど逢いたい。さっき離れたばっかりなのに。あんな事言われたばっかりなのに。
ケンカしても絶対一緒に眠る、自分で約束までしたのに。
怒ったまんまで、別々に寝ちゃダメ。そう決めてたのに。
寝る前にその日あった嫌なこと全部リセットして、あの人の胸にすり寄って眠ったら、次の朝には全部うまく行く。
分かってる。そんなこと知ってる。でも・・・
「門を破る勢いでいらっしゃいました。
申し訳ありませんが、日暮れの後には当寺は何人であれ男子禁制ですので、お引き取り頂きましたが」
御前様は優しい皺のたくさん寄った目で、私をまっすぐに見る。
「お帰りにならなくて、本当に良いのですか」
「・・・・・・はい」
拳を握って、唇を噛んで、半分意地になって私は大きく頷いた。
だってまだ許せないんだもの。
愛してるから、誰より大切だから、許せないんだもの。
こんなの如何でしょうか?
ウンスの家出珍道中⁈
はたしてヨンは無事にウンスを見つけられるのか?
(kacotanさま)
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あら~ 勢いで
プチ家出?
1人で帰った ヨンを 心配するところを見ると
売り言葉に買い言葉で
ちょっと 後悔?
でもな~ 意地っ張りだからな~
ヨンも… 大変ね~
A=´、`=)ゞ はやく仲直りしてね~
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あぁ~~ウンスさん!
縁切り寺に
逃避しちゃったんですね(^^;
喧嘩の種は?
最後はウンスに甘~~い、ヨンが折れるんでしょうね~~(^-^)
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さらんさん、私のリクエストありがとうございます。
なんだかとっても波乱な様子。
ワクワクします。
でも、怪我は大丈夫ですか?
以前のコメもしましたが、お話は逃げないので、休養して下さい。
ご無理なさらないように。
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此れは…(>_<)。
意地って、張ってしまうとなかなか放れない。(–;)いいのですか?なんて言われたら…いいんです。(;>_<;)て、いっちゃうよねぇ~。
凄く、不味いんですけど。仲直り、時間かかるパターンですけど…(>_<)。
二人、耐えられるんでしょうか?
くれぐれも、ヨン君
ウンスの事を、誰かに聞かれて『ほおっておけ』言わないでね…見も蓋も無くなる。σ(・_・)
追伸…。
お暑くなりました。お手て無理してませんか?
お大事にしてて下さい。
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あら~飛び出してきちゃったのね
痩せ我慢して いつまで持つかしら?
もう会いたいし 心配だし…
ヨンも気が気でないわね
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さらんさん、おはヨンございます❤️
あらら、尼寺しかも縁切り寺!?
結婚の時に取り決めた一緒に眠る約束まで反故にするくらいの衝突があったのですね。
お二人さん…大丈夫かなぁ~
不穏…ヨンばりに「まさか….な」