2016 再開祭 | 春夜喜雨・廿弐

 

 

握りあった互いの掌を挟み、あなたと向き合う。

擦れ違った理由を考えて下さった事。
この想いの深さを慮って下さった事。
幾度でも、最後にこうして向き合って下さる事。

あなたがいてくれる嬉しさが、掌越しに伝われば良い。
「ヨンア」
「はい」

握り直した小さな掌、あなたの温かさが伝わる。
同じ程俺の想いが伝われば、そう願った俺に向け
「思うんだけど」

春の川音の中、庵の中で向かい合う鳶色の瞳が三日月に緩む。
今宵の雨上りの空には見当たらん、隠れた月より美しく。
そしてあなたは、静かに紅い唇を開く。

「私の方が、愛してる気がする」
「・・・は?」

何を言っている。どう考えようと困らせるのはいつだって其方で。
俺はいつでも振り回され、その心を追い、あなたに向かって走る。
それなのにこの方は何を思い込んだのか、一人で深く頷いている。

「私の方があなたを愛してると思うの。だって絶対あきらめたりしない。離れたりしないもの。
いつもあなたじゃない?肝心なこと、最後まで言ってくれないのは。
何度も考えたけど、やっぱり私の気持ちの方が大きいと思うのよね」
「それは」

何方がより多く、より大きく。
比べるものなのだろうか。そもそも比べられるのか。
けれど得意そうに此方を見るあなたが、余りに愛おしくて。
傷つける事も、無体をする事も、冷たく邪険に振り払う事も、考えるだけで胸が痛くて。

俺は深く息を吐くと、首を振って確りと言った。
「俺の方が」
「はい?」
「俺の方が、愛しております」

その断言に、この方の得意気な表情が改まる。
小さな頭を振って、真剣な瞳がこの眸を睨む。
「絶対違う。私の方が愛してる」
「俺は他の女人の手になど触れません」
「謝ったじゃない。第一、迂達赤には女の人がいないでしょ?」
「武閣氏が居ります。しかし触れるなど有り得ん」
「だって、合同訓練とかの時は?あなたが教えてるんでしょ?」
「俺は武閣氏に一切鍛錬は付けません。叔母上も了承済みです」
「ちょっと待って!いつの間に叔母様とそんな話になってたの?」
「あなたが留守にしてからです」
「どうして!」
「鍛錬とは言え、他の女人に触れたくないので」
「そんなとこでこっそり操を立ててるなんて知らなかったわよ。今それを言い出すなんて、ずるいじゃない!」
「知らぬ事が多い」
「だって言ってくれないからよ。だから秘密が多いって言ってるの」
「訊かれておりません」
「言えばいいじゃない!他の女の人に触らないように、訓練するのも断ってるんだぞって。
威張ればいいでしょ?そしたらもっと早く気付いたわよ。もっと早く考えを改めたわよ!
だけど、今のは後出しじゃんけんみたいなものでしょ!」

悔し気に頬を染め、この方が言い募る。
離れてしまった小さな手で拳を握り、この胸を叩こうと上げた細い両手首を纏めてそっと掴んで、拗ねたように背けた膨れ面に笑う。

もう諍いには飽いた。あなたを怒らせるのも止めだ。
雨は上がり、久々の村の中、新しい武器防具も出来ている。
明日はあなたの道具の相談をする。あの鍛冶なら信用できる。
あなたが男に触れた理由も、俺が女人に触れぬ理由も伝わった。
伝わったのならそれで良い。

何方が大きいの小さいの、そんな事は測れるものではない。
ただ俺はいつでも伝えるだけだ。全て伝わるようにとだけ願い。

「愛している」
祈りながらそう言うと、この方は俺の眸に頷いた。
「ねえ、ヨンア」
「はい」
「大切な人に、大事な時に、そう言える男性は最高にステキよ。あなたも、チュンソク隊長も」

突然出て来たチュンソクの名に、思わず眉根が寄る。
「・・・チュンソク」
「うん。ムソンさんに怒鳴ってたじゃない?許婚だって。あの声を聞いて気が付いたの。
あの時あなたは怒鳴らなかったけど、キム先生に触った私の手を離した時、言いたかったのかなって。
俺の妻だって言いたかったんじゃないかなって」

成程。奴の怒号もこういう処で思わぬ功を奏すわけか。
それでも目の前でこの方が褒めれば、面白くない事に変わりは無い。
「あれは違うでしょう。敬姫様に直接言わねば」
「あなただって、言わなかったくせに」
「俺は今お伝えした」
「遅いわよ!あの時すぐ言ってくれれば良かったのに」

全く口の減らない方だ。ああ言えばこう言う。
紅い唇を尖らせるあなたに首を振り、小さい掌を握り直す。

諍いは止めだ。さもなくば本当にその口を塞ぐ事になる。
垣越しの隣の庵にチュンソクが寝んでいると言うのに。

明日の朝陽の中、互いに気まずい顔で眸を逸らしあうのは御免だ。

 

 

 

 

5 件のコメント

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    もう~可愛い痴話喧嘩❤
    好きにしてください(笑)
    さらんさん~
    こんな二人の会話が大好きです❤
    ニヤニヤが止まりませんよ(*^^*)

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    どちらも譲らず
    「愛してる」 そう言える仲が
    羨ましいわね~ ( ´艸`)
    どっちが… なんて 言いだしたら キリないんだけどね
    そ、ちゃんと 口に出して言ってくれるだけ
    いいわ~ いいわよ~
    ぽっぽもカッコいいし~
    ヨンもね ステキ♥
    あーでもない こーでもない
    文句言う ウンスでも
    やっぱり 憎み切れないし
    ますます かわいく思っちゃうんでしょうね
    ヨンは… 
    こんな女人 ほかに居ませんよ (〃∇〃)
    チュンソク…寝れないかも 

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    ちょっとちょっと~何なのお二人さん!!
    どちらの方が愛してるとか可愛い言い合いしちゃって…
    最高に甘々じゃないの~❤
    ヨンでる此方が照れるじゃない(/ω\)
    ウンスまだ言い止めないからヨンさんの一撃❤で口封じしちゃって下さいませ~♪

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    さらんさん、こんばんは❤️
    なかなか素直な男でもないし、自分の気持ちを伝えるのも下手ですが….
    言葉に表さない分、知らぬところでヨンは操立ててたと( ´艸`)
    鍛錬であろうと、ウンスが他の男に触れるのを嫌と思うように、自分がされて嫌な事はしないって事かな。
    愛してると伝えて、その気持ちはどっちが大きいかなんて可愛い言い争い❤️
    今度は俺の妻だ!って止めに入って欲しいなぁ~♪
    でもチュンソクの名前がウンスの口から出るのはやっぱり気に入らないのよね。
    キスぐらいいいじゃない。だって此処には二人きりだもの。
    兵舎同棲時代のように無粋にチュンソクが押し入ってくる事もないわ( ॢꈍ૩ꈍ) ॢ

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