2016 再開祭 | 春夜喜雨・肆

 

 

書かれた文は簡素なものだ。

王様のご聖恩に預かり、此度依頼された武器防具の試作品が、全て出来上がった。
出来るならば村にご訪問頂き、その具合を確認して頂ければ幸甚だ。

己たちには今まで本格的な戦の経験が無い。
忌憚ない意見を伺い、改善すべき点を知りたい。

ご意見を頂きながら即改善する為にも、可能であれば村にてお話をさせて頂きたい。
国の守りの為、王様の末永き御代の礎の為に、役に立つ武器防具を作りたい。

其処までは良し。しかし残りの半分は。

大護軍に誓った通り、鉄打ちの秘技は守っている。
周囲の守りも、指示頂いた通り厳重に固めている。
領主始め村長、鍛冶の頭そして全鍛冶が、何より民が首を長くして大護軍の訪いを待っている。

また鍛冶頭は以前医仙から拝見した天界の治療道具に、並々ならぬ興味を抱いている。
できるならば針だけでなく、残りのその道具も作らせて頂きたい。
もし王様に準備をお許し頂ければ、その道具を用いて戦で傷つく兵や貧しい民にまで、広く優れた治療を施せるのではないか。

ついては何とぞ大護軍と、そして能うなら医仙のご訪問のお許しを切に願うと結んでいる。

武器防具の確認は良いだろう。
しかし王様への雁帛の中で、あの方はともかく俺を称える馬鹿が何処にいる。
「・・・ご無礼を」

その文を慌ただしく丸め、王様のお手許にお返しする。
「いや、構わぬ。武器防具が出来た事も嬉しい。思うていたよりもかなり早かったからな」
王様はそうおっしゃると、満足気に頷かれた。
「ましてそなたがこれ程民心を掴んでくれている。そなたの次戦の為に急いだのが、本当のところだろう」
「王様」
「大護軍」

王様はそこで初めて、少し苦し気に息を継がれる。
「寡人が全ての民の前に出て、直接声を聞ければどれ程良かろう。
その一つ一つに耳を傾け、心を砕ければどれ程良い政が出来よう。
しかしそれが許されぬ。そもそも皇宮から自由に出る事すら今の寡人では儘ならぬ」
「それは、王様の御身を守る為」

声を上げかけたチュンソクが、王様の上げた御手で黙る。
「判っている、隊長。だからこそ大護軍は、この高麗の柱なのだ。武技だけでも、軍を率いる力だけでも無い。
他の誰にも聞けぬ民の心の声を、寡人の耳となり捉えてくれる。寡人の成すべき労を、全て一身に背負ってな。
例え己に不利な事でもその言葉を正しく寡人に届けられるのは、大護軍を置いて他に無い」
「王様」
「何しろ欲の無い男ゆえな」

その声にチュンソクは嬉し気に頷く。
お前も馬鹿の一味か、そんな処に承服して。
お前は誰にお仕えしている。俺ではなく王様だろう。
王様が俺を褒めて下されば、喜ぶのではなく憂うべきだろう。
ご自身の執政が御不安なのではないかと、その胸裡を読むべきだ。
民を率いる力は他の誰でも無く王様御一人がお持ちだ、そうお伝えすべきだろうが。

判って来ているようで、やはりこいつは判っておらん。
俺の肚だけ読めても仕方が無い。
お前が読むべきは王様の御心であり、戦場で対峙する敵の肚だ。

「そして医仙は高麗の宝。あの医術で幾度寡人を、王妃を、そして大護軍始め寡人の民達を救って下さったか知れぬ」
「有り難き御言葉ですが」

上げた俺の声を遮るように、王様の御声が続く。
「大護軍に、見せたき物がある」
「・・・は」
王様が俺から御目を外し、部屋隅に控える内官長へと小さく頷かれる。
内官長は頷き返すと王様の執務机の抽斗から、何やら箱を抱えて階を戻る。
そして三人が腰を下ろす長卓の上へ据え、恭しく蓋を開けた。

中身を確かめて息を詰め、王様へ向き直る。
「・・・王様」
「見覚えがあろう、大護軍」
「は」

見覚えがあるも何も。
混乱する頭を小さく振り、今一度その箱の中を凝視する。

古びて赤錆だらけの、不可思議な鋏や箸のような道具。
厭という程知っている。
あの方を天の医官と知らしめる、紛れもないその証。

其処に並んでいたのは、あの方の持っていた物とそっくり同じ天界の医療道具の数々だった。

 

 

 

 

7 件のコメント

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    おや 
    巴巽村を訪問することに?
    天界の医療道具は 
    ウンスにとっても ヨンにとっても
    嬉しいような 何とも言えない
    複雑な気分かも~
    でもでも 
    そっくりそのままって
    技術が高いわね さすが 鍛冶さん
    これから 必要ってことね やっぱり

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    さらんさん、こんばんは❤️
    大護軍ヨンは周りから信頼が厚いですね~!
    王様やチュンソク、領主に民みんなに頼りにされててる。
    王様がお持ちの錆びれた器具はキチョルが持っていた物ですね~
    徳興君が隠したやつか…
    元はと言えばウンスが100年前に置いてきたものだけど、その事はヨンに話してあるのかな。
    ウンスなら分かってるんだろうけど…
    鍛治さんの村に二人でお出掛けかなぁ~!?

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    皆がヨンを慕ってくれるのは、
    素晴らしい事なんだけど‥
    ヨンとしては複雑ですよね(^-^;
    ヨンとウンス二人で
    また巳巽村へ行くのかな?
    たぶん、婚儀から行ってないですよね?
    ヨンと大男のやり取りが楽しみです(笑)

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    あの錆びた医療道具
    王様がお持ちだったのね
    もう巴巽村にウンスと行かねば
    皆 待ってるし 武器道具の確認をせねば
    ウンスはちょっと旅行気分で
    テンション上がりそうだけどね

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    巴巽村・・・・懐かしいですね。そこの領主様からの手紙ならば、ヨンだけでなく、ウンスを思った内容が書かれていることも納得できます。本当なら、全て、王様に忠義を尽くしているという内容でないといけないのかもしれませんが。
    「・・・いますだよ」「・・・ですだよ」という話し方まで、懐かしく思い出される鍛冶の女頭。
    ウンスの医療用針を作ってくれたり、ヨンとウンスの金剛石を磨いてくれたりした鍛冶の女頭でしたね。高麗のために役立つ武器や武具も、準備していてくれているようなので、王様も心強くお感じになったことでしょう。
    王様が取り出した古い医療器具、それと同じものが作れれば、ウンスのする治療に役立ちそうですが。

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    ラストシーンで王様と王妃様が持っていた錆びた道具ですね^^
    最初の道具は盗まれたし,二度目の道具は100年前に置いてきた・・・つまりその手術道具。
    以前,針を作ってもらった時に,あの時の錆びた道具を持ってきたら,腕の良い職人さんだから作れるかもって思ったんですよね。
    ステンレス製だと磨けば綺麗になるかもしれないから,サンプルとしては良いですよね(o^-')b
    ウンスが喜びそうです^^

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    さらん様連日のupありがとうございます(‐^▽^‐)
    思わずキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!と大喜び!!
    女鍛冶さんや領主さまはヒドヒョンと並ぶ、さらん様オリキャラもう1度逢いたいBEST3だったでーす~o(^▽^)o
    きっとウンスも大喜びの旅スタートかな?
    此方もまた皆に逢える・・とわくわくしながら更新楽しみにお待ちしてます。

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