「本当にそうかな。私、今は思うもの。
もし二度と逢えなくてもあなたが元気で、無事で、どこかで生きててくれれば幸せ。
いつだって呼ぶわ。そこにいる?って。
たとえその時逢えなくても、目の前にいなくても、あなたが答えてくれるのを知ってる。
ここにおります。そう言ってくれるでしょ?」
「だからと言って」
だから何だ、離れる理由にはならんと怒鳴りたくもなる。
なのにこの方はその心も知らず、勝手な理屈を捏ね回す。
「いっつもそうだったじゃない。姿が見えないのに、呼ぶと必ず答えてくれた。
だから私は自由に走れる。答えてくれるから、あなたを信じて何だって出来る。
あとは何にもいらないの」
笑い損ねた瞳から白い頬に滴が落ちる。
それでも瞳は笑んだまま、あなたは俺に真直ぐ言った。
「私はあなたを愛してる。あなたも私を愛してる。知ってる。
もしはぐれたって、必ずまた逢えるって誓いあったもの。
次も、次も、また次も逢います、縁を結びますって仏さまに。
だから他の事はどうでもいいの。
あなたが笑って、おいしいご飯を食べて、みんなで楽しく生きて行ければいいの。
その横にいられれば最高に幸せ。でもいられなくてもちょっと幸せ。
あとは媽媽と王様が、あんなに愛し合ってるお2人がずーっと寄り添って生きていければ、それでいいの」
そんな風に考えるのか。
「あなたは」
「ん?」
「本当に、心底面倒な方だ」
「えーーーっ、またそれなの?!」
不満げに頬を膨らませたこの方の手を取り、頷くと丘を上がる。
懸命について駆けて来る、小さなあなた。
「じゃあ、面倒ついでに言わせて」
「はい」
「考えたの。この世界には天門の伝説があるのに、私たちの世界では誰もくぐった人を知らない理由。
毎回繋がるわけじゃないとしても、門が開いたなんて聞いた事ない。それはもしかしたら」
「何ですか」
「あの世界は自分の事を考える人ばっかりで、門が開いてるのが見えてないんじゃないかな。
もしかしたら目の前で開いてるのにそれすら気が付かないくらい、心も目も曇ってるんじゃないかな。
だから最初から見つける資格、入る資格もないんじゃないかなって」
「・・・さあ、それは」
「だっておかしいじゃない。そうじゃなきゃ」
「くぐれれば良いわけではない、理由もないのに」
「そりゃそうだけど、くぐれば大儲けが・・・」
うんざりして思わず足を止めると、この方は真剣な顔で頷いた。
「現代・・・ああ、ううん、あの世界の人ならまずそう考えるわね。
過去に戻れば、その先の流れを知ってるわけでしょ。
歴史ももちろん、株の成功銘柄、経済の流れ、戦争、世界的大事件。
戻った時代によっては、自分の知ってる知識だけで成功するわ」
「・・・下らん」
「そうね。だから気が付かないのよ、きっと」
「どうでも良い事です」
その声にこの方が目を細める。
「うん」
「共に行き共に戻る。あなたを護り王命を果たせれば、他の事など」
「ヨンア」
「はい」
「チェ・ヨン将軍。無欲、剛直にして忠臣、なおかつ清廉」
「は?」
「黄金宝石は石の如く扱う」
「・・・はい」
おっしゃる通りだと頷くと、この方は堪え切れぬよう噴き出した。
「違う違う、お説教じゃないわ。私じゃなくて、先の世でみんながそう言ってるの、あなたのことを」
「誰も、俺を知らんのですね」
呆れて息を吐く。何も知らん。
正しく知られておるのは、父上の下さった見金如石の言葉だけらしい。
「だってその通りじゃない」
「期待を裏切って悪いが、俺はもっと強欲です」
「そうなの?」
「はい」
「でも今までひとつだって、何か欲しがったことないじゃない。
見た事一度もないわ、あなたが何か欲しいって言ってるとこ。
ご飯のメニュ・・・献立すら、口出さないひとが」
「見えるものだけが総てではない」
「そうだけど・・・じゃあ、何が欲しいの?私、頑張って貯金するわ。買ってあげたいから教えてよ」
「金で買えるものが全てでもない」
「じゃあ、買えないもの?」
「ええ」
「あ、わかった」
この方は悪戯に笑みながら俺の前に廻り込むと嬉し気に眸を覗き、その小さな鼻を細い指先で指した。
「私だ。当たり?」
その視線に空咳払いで、僅かに眸を背ける。
「・・・半分は」
「もうあなたのお嫁さんよ?一生一緒に決まってるじゃない」
「ええ」
「でも」
こうして足を止める間も惜しい。
小さな手を掴み直し、草原の道を天門へと歩き始める。
この方は未だに答を考えているのか。
先程までより明らかに遅くなった足取りで、ちょこちょこと横を添うて来る。
「半分って、じゃあ残りは?」
「さあ」
「それじゃ分かんないじゃない!私にあげられるもの?」
「どうでしょう」
残り半分は誰よりこの方を護れる力。
他の何にも、誰にも邪魔を赦さぬ力。
庇える背。見通す眸。抱き締める腕。駆ける足。正直な口。
真直ぐなあなたに恥じる事なく張れる胸。同じだけ真直ぐな心。
無欲で清廉が聞いて呆れる。こんな我欲だらけの俺が。
おまけに気短で悋気持ちで執念深いのは、己が誰より知っている。
「天界の方々は、何でも御存知と思っていました」
「まさかあ。そんな事ないわよ、人間完璧はないもの」
「・・・ええ」
雲突く箱と動く絵を持ち馬の無い馬車の行き交う天界も、大したことはない。
これほど我欲にまみれた俺を清廉潔白と伝えるような世。
鬼剣一振さえこの手に握れば、後はどうにかなるだろう。
握った鬼剣を小さく振り、鞘に触れる音を確かめる。
肩の力を抜き小さな手を引き、足早に門への道を上がる。
片手で握る鬼剣、もう片方で握る小さな手。
それさえあれば何処であれ、負ける気がせん。

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半分は何でしょうね
(๑´ლ`๑)フフ♡
愛の結晶かな?
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良かった!
冗談が言えるようになった、ヨンとウンス(^-^)
今の二人なら必ずウンスの欲しいものが手に入りますよね❤
天界でーとを楽しんで?来てくださいね(笑)
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「無欲、剛直にして忠臣、なおかつ清廉」で 「黄金宝石は石の如く扱う」チェ・ヨン将軍。
ウンスの夫はそういう男。
お金で買えない「ウンス」を、誰よりも愛し、欲し、護る。そんな「崔瑩」を、心より愛し、ウンスなりに彼を守ろうと努力する。
こんな二人だから、天穴をくぐれる。
あと少しでたどり着きますよ。二人の想いが重なる天穴に。
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鬼剣とウンスの手を 両手に握りしめ
いよいよ天穴をくぐるのね
ちょっとドキドキ(>人<;)
天界デート 行ってらっしゃい!
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さらんさん、おはヨンございます❤️
確かに…この世界で生きていると物に溢れているし欲の塊なのかも。
だから天門が開いてることさえ見えないのか。
それは言えているのかも知れないですね(๑•̀ㅂ•́)و✧
崔 瑩将軍が清廉潔白だの金石見如って言われれてても人間味があって当然ですよね。
それこそウンスに出会うまでの方がかけ離れていたかも。
残り半分は力が欲しいのか~やっぱりウンスを護るために欲しいのね!
清廉潔白剛直なる忠臣、無欲と言われていても欲を見せるのはウンスのみ人間味があっていいんですよ❤️
面倒なウンスでもそれを分かってて来世も来来世もずーっと繋がる縁を結んだもの( ´艸`)
鬼剣握り締めていざ、天門へ~
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ヨン、ウンス、行ってらっしゃい!
ヨン、ウンスをしっかり抱き締めてあげてね。天穴の中は、すごい勢いなのだろうなぁ・・。
そして、必ず二人で戻ってきてね!
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初めてコメさせていただきます
最近読者になったばかりですが、すっかりファンになりました。 ウンスがヨンと再開したお話等々、消えたお話をどうにか読ませていただく方法はないのでしょうか? とても大変なことが起きてしまったようですが、とても単純に最初からこのお話を読みたいです❗