庵の中、小卓の上の油灯が窓からの風に揺れている。
その光の中で静かに話す声には、此方を頷かせる説得力がある。
それで判った。確かにあの時侍医は咄嗟に、左掌を差し出した。
この方はそれを確かめた後、あの掌にご自身の掌を押し当てた。
確かに警戒していない時手を出せと言われれば、利き手を出す。
それは理に適っている。
「それで手の平を当てたのは、大きさを測るため。あの時あなたに言ったでしょ?考えてることがあるって」
「はい」
あなたは真直ぐに俺を見て、一言ずつ慎重に声を重ねる。
「もしも鍛冶さんに許してもらえるなら、今回は道具を多めに作って下さいってお願いしたいの。
私だけじゃなく、キム先生の分も。もし出来れば、他の先生たちにも行き渡るくらい。
そうすれば戦場で消毒してる間に急患が来ても、清潔な道具を使えるから。
煮沸した器具をあわてて冷まさなくても良いし、安全だわ。
それでみんなに使い方を覚えて欲しいの。今は全員に行き渡るほど道具がなかったから、知識や力量に差がある。
全員が基本的な外科手術の知識が共有できれば、私があなたと一緒に戦地に行ってる間も安心できるし、キム先生の負担も減る」
「はい」
「私は女だし右利きだし。だからキム先生の利き手と大きさを知りたかったの。
左利き用の鉗・・・ハサミをを作るべきなのかも」
知れば知る程、この方の考えは正しい。
完全な己の早計に、思わず眉を顰める。
悋気に振り回されたままこの方の肚裡を読めずに、ああして揉めて開京を発った経緯も。
「キム先生の手を触って詳しいことを言わなかったから、あなたが気分悪くなったのも今なら分かる。それは、ごめん」
素直に頭を下げられて、却って俺が動揺する。
「それは」
確かに大切な手だ。独占したい。他の男になど触れて欲しくは無い。
ただこうして落ち着いて聞けば聞くほど。
「ねえ、ヨンア」
「はい」
「私、あなたにすっごく愛されてるのね」
油灯の中、あなたは困ったように眉を下げて微笑んだ。
「・・・はい」
「今まで免罪符みたいに思ってたの。私は違う世界からここに来た。
あなたにも、私のお守りは手間がかかるって伝えてあるからって。
理解しあえないところがあっても、別の人間だから仕方ないって」
この方の言う通り。確かにそうだ。
どれ程愛していると伝えようと、己自身より大切に思おうと、俺達は違う人間だ。
違う親を持ち、違う世に育ち、違う朋に囲まれ違う人生を生き、あの日巡り逢った。
眸に見えぬ糸に引かれ、導かれるように。
判らないなら伝えれば良い。判りあうまで話せば良い。
そして共に最良の道を探せば良いと、そう思って来た。
「でもね?」
優しい声に眸を戻せば、この方の温かな手が俺の掌を握る。
細い指がこの指の間をくぐり、柔らかく力が籠る。
握り締めた掌を振りながら、あなたが小さく笑う。
その声は窓からの風より静かに、この耳朶を擽って過ぎる。
「思ったの。私たちがすれ違う原因とか気まずくなる理由って、だいたいいつも私が先走った時なのよね?」
「イムジャ」
「愛してるから、大切だから何とかしたいのに、それじゃダメだわ」
「駄目では」
駄目なわけでは無い。ただ余りにも俺の知る、高麗での習わしとは違う処があるだけで。
そんな事は端から判っていた。それを含めてこの方を受け止めたい。
受け止められると思ったからこそ、あの時に伝えた。
傍にいて下されば一生護る。この命の続く限り離さないと。
今更そんな些細な理由で悋気を抱くなら、それはあの時の誓いに悖る。
「急には無理。だけどちょっとずつ直す。それは約束する」
「・・・はい」
「だからヨンアも、違うよって教えて?1人で怒ったり、黙ったりしないで?悲しくなっちゃうから」
あの典医寺で俺はこの方に何と言った。 判らねば治しようもない。
それは黙ったという事だ。教えて欲しいと願うこの方に背を向けた。
判らないなら言うだけ無駄だ、無言でそう言ったも同然だ。
「判りました」
「約束?」
この方が明るい声で言い、握ったままの掌の小指だけを立てる。
「はい」
「じゃあ、約束」
細い指に己の小指を絡ませると、この方が次に親指を立てる。
天界の誓い。そうだ、こうして契約の印を交わすと言っていた。
小さな親指の腹にこの指の腹を圧しつける。
そして離れて行きそうな掌を、もう一度この指で握り直す。

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さらんさん、おはヨンございます♪
そうやって少しづつ想いを伝えて分かり合って素敵な二人ですよね。
愛する人に自分の事をわかって欲しい、想いを伝えたいと思ったら背を向けたらダメだもの。
自分のした事をちゃんと考えて、答えを見つけて気づかせてくれたウンス。
そんな人だからヨンは離せないし大切なんですよね。
今夜はもう少し触れ合って想いを確かめ合ってくださいな◡̈♥︎
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さすがだな。
ヨン… ウンスによまれてます。
ウンスも だいぶ 落ち着いて考えるように
なったなー。 少々 むくれちゃうけど
やっぱり 黙っちゃダメね
わからないこと いっぱいあるもの
(同じ時代に いきてても…)
知りたい、教えてもらいたい 気持ちは
当然かな。
仲直り(๑´ლ`๑)フフ♡
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やっと!やっと!
やはりお互い話し合わないと、ヨンは口数少いから…(>_<)
ウンスも大変だ~(>_<)
ホッとしました。
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ふぅ~・・
こんなヨンとウンスの、二人の場面が・・・好きです。
開京を出るときから、互いに相手を理解できず、すれ違う想い。
ごめんねも、ありがとうも言えず、時ばかり過ぎ、やっと判明したこと。それは、やはり、ウンスがキム侍医の手を触れヨンが悋気したこと。それが判らず、ちょっと冷たい態度のヨンに、自分が苛ついたらこと。
やはりウンスの考えは、人々を助けるためにどうすると良いか。そのためには、どんなことができるか。ということでした。キム侍医の利き腕を調べ左腕が利き腕と分かりました。その手の大きさを自分の手と合わせることで、作ってもらえるものなら、侍医の手の大きさに合った医療器具を作ってもらいたかった。
ヨンも、納得できて良かった。
自分が先走るから、ヨンを困らせていることも分かっているのよね。
「急には無理。だけどちょっとずつ直す。それは約束する」
「・・・はい」
二人の会話、いいなぁ……
小指の誓いもし、親指の契約の印も交わしたし。
ヨンに、握り直された指で、もっともっと、二人の心を通わせあってね。
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二人がすれ違う原因が、
自分に有ると、反省してるウンス。
お遊び気分とか、お灸をすえても?
とか言ってミアネです(^-^;
これからは、ヨンも心に溜めないで
ウンスに思いを伝えましょうね❤
二人に喧嘩は似合いませんから~(^^)
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さらん様
巴巽村の村長さんや鍛治さんが出てきて、「あ」と思って書いてます。「大王四神記」「シンイ」の流れで、さらん様、「ヒーラー」はもう視聴されましたか?まだならば是非!
我が愛しのJCW君のかっこよさやミニョンちゃんの可愛さ、は言うまでもなく、それ以上にこの作品に込められた故ジョンハク監督への追悼メッセージというかそういうのも含めて素敵な作品なのですが、私も「太王四神記」が大好きなので、どうしても、つなげて見てしまいました!
チェ尚宮=鍛治さんのパソンとコムル村のお弟子さん(みたいな)小さいおじさんとの絡み(少ししかありませんでしたが)も面白かったですし、何といっても村長さん=オ・グァンノク氏の活躍も、「ヒーラー」ではかっこよくて素敵でした!
今後はお話の中でスジ二やキハ、タムドクも出てくるんでしょうか?楽しみです~
せーら
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私としたことが、超重要人物が抜けてました!「太王四神記」のファチョン会の大長老様=赤月隊隊長のムンチフ氏!「太王四神記」では悪役でしたが、なんとかさらん様の力量でこのお話の中では良い役で、、プリーズ❤見たいです!
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仲直り出来て良かった良かった~!!
相手の事を想って突っ走るウンス、無口で言葉が足りないヨン。
お互いの事をどんなに思ってても、伝わらない事もあるからね(´д⊂)話す事が大事♪
2人はやっぱり仲良くないとね❤