2016 再開祭 | 春夜喜雨・壱

 

 

【 春夜喜雨 】

 

 

好 雨 知 時 節

当 春 乃 発 生

随 風 潜 入 夜

潤 物 細 無 声

 

野 径 雲 倶 黒

江 船 火 獨 明

暁 看 紅 湿 處

花 重 錦 管 城

 

よき雨は降る季節を知り、春と共に降り始める

風に乗り夜半まで静かに、音も無く辺りを潤す

 

小径も雲も暗い中、浮かぶ小船の灯だけが赤い

暁に未だ紅い処を眺めれば、濡れて重げな錦官城の花

 

*****

 

「・・・・・・好 雨 知 時 節 」

春降る雨を好きだと思う。

縁側の軒から静かに滴る滴を眸で追い、あなたを膝に抱く。
委ねるその背を胸に、宅の庭の木々を濡らす喜雨を眺める。

「ん?」
呟いた律詩に、膝の中からこの方が振り向く。

良い雨は降るべき時を知っている。
良い女は身の委ね時を知っている。
ただ降れば良いわけでも無く、甘えれば良いわけでも無いと。

こうして腕に閉じ込めねばすぐに勝手に走り出す、困った処は相変わらずだ。
春の夜を濡らす喜雨。
この方を何処にも行かせぬよう、静かに降るだけで好ましい。

「何か言った?ヨンア」
「・・・いえ」

俺のこの方はさしずめ、曙の高麗に咲く花か。
こうして昏い緑の庭を背に、春の雨の中、振り返る唇も紅い。

縁側に胡坐座のまま長く前へ腕を伸ばし、指先に拾う軒の雨雫。
花を雨で濡らすよう、指先の雫をその唇へ落とす。

半ば開く唇が喜雨を受け、滴る雫で濡れていく。
その雨に静かに閉じた、長い睫毛が揺れている。

杜甫も随分と罪作りな詩を詠んだ。
それとも杜甫の傍にも、これ程濡れた紅い花があったのだろうか。

 

*****

 

坤成殿の窓の外、音もなく梔子の枝葉を濡らす喜雨。

花の時期には早いが。
確かに春夜の雨の中、あの白い花の重く甘い香を感じた気がして目を上げる。

「・・・どうされました、王様」

幻のように鼻先を掠めた香よりも遥かに甘い声が問い掛ける。
「梔子の香がした」

殿内に燈す油灯を揺らすよう、王妃の忍び笑いが広がった。
「咲けば必ず、お気づきになられましょう」
「そうだな」
「その時は妾がお報せに参ります」

花が開いた、葉が散った。
そんな小さな事も分け合える夫婦になれた。
それが寡人には、何より嬉しい。
そんな些細な事を伝えて下さる、あなたの心遣いが。

「もうお寝みください。明日が」
そのように寡人の事ばかり、慮って下さる言葉が。

寡人一人で寝所に入らぬ事は誰より御存知のあなたが、静かに椅子から立つ。
それでも寡人が動くまで、そこにそのままそうしている。

そうだ。この方が好きなのは寡人の早寝。
この方を立たせたままにしておくわけにはいかぬ。
元の姫だからではなく、誰より大切な妻だから。

頷いて立ち上がる寡人に、嬉し気な眼差しが返る。
柔らかな手を牽いて、雨音よりも静かな足取りで寝台へ向かう。

 

 

 

 

喜雨をテーマにしたお話をヨンでみたいなと思っております。
(マホさま)

 

再開祭 新話、始まりました。

リクありがとうございます❤

 

6 件のコメント

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    新章始まりましたね(^^)
    ヨンとウンス。
    王様と王妃様。
    二組の夫婦の愛情溢れるお話でしょうか?❤
    さらんさんがお話再開されてから、
    さらんさんの素敵な言の葉に
    日々癒されてます(*^^*)
    ありがとうございます❤

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    うっとり… こうして
    側に 寄り添う人がいなければ
    季節のかわりも 咲く花も
    降る雨も
    気に留めることなく
    ただ生きてただけなんでしょうね
    共に生きる人が居るってすてきね♥

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    杜甫の詠んだ漢詩から始まった新しいお話、早速引き込まれました。
    「錦官城の花」を濡らす雨・・
    成都を濡らす・・
    その雨に濡れたような、紅のように華やかで艶やかなウンスを、縁側で膝に抱くヨン。喜雨を手のひらに受け、それをウンスの紅をさした唇にそっと落とす・・
    そんな情景で良いのでしょうか?
    今、成都の市の花は芙蓉だそうです。
    杜甫の漢詩では、どのような花を見て詠んだのか分かりませんが、芙蓉も、ウンスのように感じられます。でも、「ウンス」という華が、ヨンの膝の中では最高に華やかで美しく、愛しい華だということが分かります。
    王様と王妃様の微笑ましい仲を、「梔子」の花の白く可憐な様子を情景にして描かれたさらんさん。
    さらんさんの心情の深さや知識の広さに、ますます感服いたします。
    ヨンとウンス、王様と王妃様
    そして、杜甫の詩・・
    喜雨、錦官城の花に例えたような、紅色のウンスという華、王妃様のような白い華・・・・
    これからのお話が、待ち遠しいです。

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    さらんさん、おはヨンございます❤️
    雨は雨の日の良いことがありますよね♪
    漢詩が何とも風流ですね❤️
    ヨンて本当に頭がいいですね(*Ü*)ﻌﻌﻌ♥
    二組の夫婦素敵です♪
    ヨンとウンスは艶やかで何だか色を感じますね(灬º Д º灬)照…♡
    王様も王妃様と寝所へ❤️
    雨の時にしかできないこともありますよね❤️

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    遂に来ました!!リクエストした喜雨。
    どんなお話になるのかドキドキしております。
    杜甫のよんだ漢詩「春夜喜雨」を抜粋するとは流石さらん様です!!
    好 雨 知 時 節 この文がとても好きです!!
    ヨンとウンスのその情景がリアルに想像できます♪
    甘々ですね~!!
    縁側の2人で過ごす時間が好きです~♪
    縁側カップル♡
    王様、王妃様の素敵な話も読めそうですね!!
    2組の甘々夫婦(//∇//)
    これからのお話が楽しみです!

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    ヨンが雅な漢詩を詠ってしまう夜。素敵ですねぇ♪
    春を迎えた喜びの雨
    心と国を育む慶びの雨
    艶やかな唇を潤す悦びの雨
    静かに心に沁み込むような雨の夜なんですね
    さらんさま
    楽しみが続く夜をありがとうございます!

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