村長さんの庵を出て、門番さんに連れられて歩く村の中。
雨上りの春の夜の温かい風が吹いてきて、気持ち良さに目を細める。
「イムジャ」
ところどころにチラチラ揺れる焚き火が頼りの暗い道で、あなたがそっと声を掛ける。
「眠いのですか」
「ううん、気持ち良いだけ」
「ならば良い」
暗い道で転ばないようになのか。
横を歩く私に歩調を合わせるから、前を歩いてく男性2人とどんどん距離が離れていく。
2人の背中が夜の中ではっきり見えなくなってから、あなたはやっと私の手を握って、小さく息を吐く。
「庵に戻れば、すぐに湯浴みを」
「うん。そうする。あなたも泥だらけよ」
「はい」
「今晩はゆっくりしようね」
「はい」
雨が上がっても、まだ雲は切れない。
あなたは立ち止まると月も星も見えない真っ黒な空を見上げて
「墨夜です。よく眠れるでしょう」
そう言って、私に瞳を戻す。
「転ばぬように」
もう一度しっかり握りしめてくれる手に引かれて、暗い道を歩く。
ごめんねもありがとうも、まだ聞いてないし言ってない。それが少しだけ引っかかるけど。
でも真っ暗な道でも、あなたがいれば怖くない。それだけが今の私の本心だから。
たどり着いた道のつき当たり、門番さんが隣合った2軒の庵を指さして
「大護軍たちはこっちで、迂達赤隊長はそっちだな。すぐに晩飯を運んでくるから待ってろ」
くるりと背中を向けて、真っ暗な道を戻っていく。
チュンソク隊長はその背を見送ると
「では大護軍、医仙、ゆっくりお休み下さい」
そう言って頭を下げた。
あなたは頷きながら、チュンソク隊長に声をかける。
「お前もな」
「は」
「村は安全だ」
あなたの声にチュンソク隊長は、裏手の暗い林を透かすみたいにゆっくり見回して笑って頷いた。
「確かに、入り込めそうな隙がありません。裏手は渓流ですか」
「ああ」
「出入口はあの門だけですね」
「そうだ」
「大護軍が医仙と御二人で出掛ける理由が判りました」
「まあな」
「今まで日を跨いでの逗留がなく、見当がつきませんでした。これで安心です」
チュンソク隊長はもう一度頭を下げて、自分の庵の垣根のむこうに消えていった。
*****
「イムジャ」
この小さな庵も懐かしい。
あなたとエンゲージリングを作るために、あの時一緒に過ごした2人きりの部屋の中。
お風呂上がりの窓際で、髪を乾かす私の横。
あなたの声に顔を上げると、夜より黒い瞳が降って来る。
窓の外からはあの時と同じ川の音。
「機嫌は直りましたか」
座り込んだまま、問いかける瞳をじっと見る。
私の視線に驚くみたいに、黒い瞳が少しだけ細くなる。
「まだですか」
「直ってるわよ。考えたんだもの」
「・・・はい」
「ねえ、ヨンア。ちょっと座って」
横の床をポンポン叩くと、あなたが頷いてそこに座り込む。
やっと目の高さが同じになって、私はあなたに向き直る。
「今日ね、ずっと考えた。私、あなたがいやな事したかなあって」
「はい」
「キム先生と、手を合わせたことしか思いつかない」
「・・・はい」
やっぱりね。
思わずこぼれそうな溜息をぐっとこらえて、もう一度あなたをまっすぐに見る。
「あれはね、手の大きさと利き腕を計ったの」
「大きさ」
「うん。今回、鍛冶さんに道具を作ってもらうでしょ?」
部屋の隅に包み直して置いてある、開京から持って来た手術道具の入った包み。
私が指さすと、あなたはそれを追いかけて小さく頷いた。
「私の世界で意外と多いのが、左利きの人なのよ。普段字を書くのは右利きだけど、実際は左利きって人が結構いるの」
「はい」
「キム先生はふだん、鍼を打つ時や手術では両手とも使ってるの。字を書くのは右手なんだけど」
「はい」
「それが気になってたの。急に手を出せって言われると、人間はだいたい咄嗟に利き腕を出すのよ」
そんな私の説明に、あなたが小さく頷いた。

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ウンス 必死に考えてたのね~
旦那様の 不機嫌のモト
さすが 奥様~ 当たりです。
そして…
ウンスの説明に ヨンも納得できたかな?
でも ほかの男の手など…
どうぞ 今から 独り占めしてくださいな~
( ´艸`) 可愛いわね~♥
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お二人やっと仲直りo(〃^▽^〃)oよかった!!
転ばぬよう手を繋ぎ歩く漆黒の墨夜・・・
もうもう!想像の域を超え脳内にヨンとウンスが住みついてるんですが(笑)
お~い!ヨンさ~ん!機嫌悪かったの貴方ですよ(o^-')bウンスちゃんも気付いたようですねヨンさん怒りの訳に。
しかし・・奥が深い!!手を合わせた理由が何と(゚Ω゚;)キム先生の利き手を知るためだったんですか・・なるほど
一体この知識と想像力、語彙と表現力あれやこれや
さらん様の活発な脳内細胞見てみたい(こわっ!)笑
これから登場する大好きな女鍛冶さん&領主様!!
大作の予感ひしひし&わくわくしながら毎日の更新楽しみにしてま~す(^ε^)♪
PS 脳内メーカーで遊びながら「やっぱり無敵帝王はチェ・ヨン」の記事にホッと一安心でしたヾ(@°▽°@)ノ
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さらんさん、おはヨンございます❤️
雨上がりの空の下ゆっくり歩幅を合わせてくれるヨン、ヨンの機嫌も直ったようですね♪
そしてウンスもずーっと考えてたんだね。
手術道具を作るため、それ以上の理由なんてない
ちゃんとした訳があったのはヨンも理解したでしょう。
それでも嫌なものは嫌だと思うからね(*’ヮ’*)
独占欲強いもんね( ´艸`)
これから、屋敷とは違った二人の夜が始まりますね♪
想いを伝え合うのも良し、触れ合うのも良し、いつものように膝に抱え空を見上げるのも良し
ゆっくり過ごしてね~!
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ウンス、考えてたんですね(^^)
せっかく巴巽村に来るのに
気まずいままでは嫌だものね。
お互いに良~く話し合って
チュンソクさんを安心させて
見送ってあげてくださいね(^^)