「ウンス殿、これは」
侍医の指が大きな鋏を指す。
「コッヘル。動・・・太くて大きい血管を挟んで持ったりするの。でも逆に、柔らかい内臓を掴んだらダメ。
先に鉤がついてるでしょ?」
「はい」
「ここで腸とか血管が傷ついて穿・・・穴が開いちゃうから。筋肉とか 硬い組織や太い動脈だけね。
この鉤で針を挟んで、持針器としても使うわ。腸を掴むのは、こっちの腸鉗子。
溝も鉤もついてない。血管を挟んで血流を遮断するなら、これ。遮断鉗子」
この方の白く細い指が、そう言いながら次々と道具を示していく。
「成程。此方は」
「先が丸いのがクーパー。とんがってるのがメイヨー。長いのがメッツェン。全部ハサミよ」
「こんなに種類があるのですか」
「うん。場所や用途によってね」
「この鉤のようなものは」
「うーん、まさに。鉤よ。術野を確保するのに・・・切ったところを開いて、中を確かめておくために使うの。
これはずっと引いてる必要があるけど、場合によっては開創器を使ったりもするわ。
今ここにはないけど。長時間の手術や、術野の確保が大変な場所は何時間も鉤引きするのも大変だから」
「この他に、もっと道具があるのですか」
この方の声に、侍医が卓上の道具をぐるりと見渡す。
「うん。手術の箇所だけあるっていっても過言じゃないわね。ここにあるのは、救急治療室で用意できた最低限の道具」
「・・・最低限。これで、ですか・・・」
茫然と呟くキム侍医の声。
それはそうだろう。
赤錆だらけでも、並んでいるだけでその見た事も無い形の道具の量には圧倒される。
あの天界でこの方の手術を目の当たりに、無言で正に神の如き手捌きを眺めていた。
部屋中に溢れる眩い光。高麗なら確実に死んでいたろう男の首の傷。
俺自身が切りつけたのだから間違いない。
それをいとも容易く縫い合わせたこの方。
手術後に道具を一纏めに布に包む時、その量に驚いたものだ。
これ程大量の道具を迷い無く操る天界の神医。
この女人なら必ずや瀕死の王妃媽媽を救える。
その確信を胸に、布包みとこの方を背に、俺達は高麗へ戻って来た。
この方はようやくキム侍医の質問攻めから逃れ、天界の書を確かめるよう目を通している。
そして諦めたように息を吐き、俺に向け小さく首を振った。
「ダメ。あなたの事、何も書いてない・・・でも、本当にこれで全部?
最後の終わり方が、すごく尻切れトンボな気がする。辻褄が合わない」
やはりかと、己の予想に息を吐く。
あの男は他にもあった天の書を処分したに違いない。捨てたか燃したか何れかで。
完全に消すなら恐らく燃したのだろう。
ただ捨てたのでは誰かの手に渡れば己の首を絞め兼ねん。灰になるまで燃した筈だ。
そして脅すつもりだった。あの方と婚儀を成し、渡したと見せ掛け、保身の為に。
残りがある、自分が隠し持っている。
手に入れたからとチェ・ヨンの許へ戻ろうとなど思うなとでも。
「あなたの事が何か書いてあればって思ったのに・・・」
落胆した声が耳に痛い。そんな事などどうでも良い。俺の事など構わない。
俺はこの方が傍にいて下さる限り、絶対に死なぬと知っている。
「侍医」
天界の書を読むこの方の卓向かい、夢中で道具に見入っていた侍医の目が一拍遅れて上がる。
「はい」
「王様と王妃媽媽、お体には問題ないか」
「現在のところ全く。お二人ともご健勝ですが」
「王命だ。この方と暫し留守にする」
俺の言葉に侍医は頷いた。
「判りました」
「この道具、同じものが作れるか確かめて来る」
「え」
何故かこの方と侍医とが声を合わせる。
妙な処で気が合うなと、思わず苛りと眉根を寄せる。
「巴巽村?行けるの?行っていいの?」
この方が嬉し気に高い声を上げる。
「はい」
俺が頷くと、同じほど興奮した声で侍医が問う。
「ウンス殿。作って来られたら、私も拝見出来ますか」
「もちろん、すぐ見せるわ。それに・・・」
この方は、俺の顔を窺うように覗き込む。
「ヨンア。あのね、考えてる事があるの。後で聞いてくれる?」
「はい」
俺が頷くと、あなたの笑みが一層深くなる。

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さらんさん、おはヨンございます♪
沢山の器具がありますよね~
それを視線で確認しなくても手渡しされて触り心地で判断してるんだろうか。
オペナースで完璧に器具も名前も理解してる人が手渡ししてるから分かるけど、ヨンは一度見た事を覚えてあの時に正確に渡したんだから大したものよね~!
アッタマいい!!
同じものが作れたら、キム侍医にも使い方を指南出来れば、ウンスのためにもなりますよね!
神の手を持つウンスでも自分自身は治療できないんだから。
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そりゃ 巴巽村に行って 鍛治さんに
直接話さなきゃ あーして、 こーしてって
使いやすいように お願いしなきゃ。
きっと 鍛治さんなら 作ってくれるでしょ
侍医も 興味津々だわねー。
(*・v・)ニヒヒ
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そりゃもうウンス 興奮よね
使い慣れた天界の医療道具
これがまた使えたら 増やすことができたら
大切なヨンの命を 救う道も広くなる
そしてウダルチ達 兵士も
戦場で大きな怪我をした時
救える手立ても 増えるというもの
そしてウンスは何を考えているのでしょう
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ヨンは‥私もですが(^^)
早くウンスの喜ぶ顔が見たいよね?
さぁ~巴巽村の女鍛冶さんが
待ってますよ❤
ウンスの考えてる事。
私の想像が当たってるかなぁ?
さらんさん❤
続きをお待ちしてます(^-^)
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過去からの手帳に何が書かれているか?
100年前から戻っても
やっぱりウンスさんにも謎なのですね
全部読みたい!
終わり方が不自然!と思うのですから...
さらんさま
いつか、そんなお話にも出会えるでしょうか
でも、まずは巴巽村!楽しみです♪