2016 再開祭 | 気魂合競・拾肆

 

 

今回の角力大会の本当の目的が新人兵士の発掘ってことも、秘密って言われてハイって言った以上、詳しい内容は伝えられない。
あの人はきっと本当に私が賞品になったと思って、一生懸命戦ってくれるに違いない。
最後にバレたら、その分もっと怒るとは思うけど。

あの人に秘密なくらいだから、もちろんチュンソク隊長やテマンやトクマン君、コムさんにバレるのもまずい。
だからキョンヒさまにもハナさんにも、トギにもタウンさんにも言えないし。
隠密行動は嘘をついてるみたいでつらいけど、でも嘘を真にする手だって考えてないわけじゃないのよ。

ここでみんなに偶然会えたのは、千載一遇のチャンスかも。
「チュンソク隊長」
私の声にチュンソク隊長は小さく頭を下げた。
「はい、医仙」
「あのね、試合で誰かがもしケガをしたら、迂達赤の誰かじゃなくてもここに連れてきてほしいの。お願いしてもいい?」

私の頼みに不思議そうな顔をすると、チュンソク隊長は私の後ろにいた叔母様と私とを見比べる。
「それは願ってもない事ですが・・・しかしまだ開始したばかりで、怪我を負った者もおりません。それに医仙は此度」
「迂達赤隊長」

最後まで聞かずに叔母様がチュンソク隊長に頷くとおっしゃった。
「医仙の言う通りにせよ」

私はニッコリ笑って、叔母様にぺコリと頭を下げる。その私に苦々しいお顔で笑い返すと
「敬姫様も侍女殿もおいでだ。あの人出では心配だろう。万一の事があってはならぬ。
姫様と侍女殿は隊長の取組み以外の時間はこちらでお休み頂け」
「宜しいのですか」

チュンソク隊長は安心した顔で先にいた私たちを順に確かめ、私がみんなを代表して
「もちろんキョンヒさまとハナさんがよければ。構いませんか?」
お2人に確かめると、キョンヒさまとハナさんも遠慮がちに、でも嬉しそうに頷いて下さった。
「では、まずご紹介を。キョンヒさまは何度かお会いしてるかもしれないですね。
こちらが皇宮の尚宮長で、王妃媽媽のお付きの武閣氏の隊長、チェ尚宮様です」

私の声に叔母様はキョンヒさまたちに深く頭を下げた。
「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、敬姫様」
「構いません。それに私はもう姫ではありませぬゆえ」

叔母様の声にキョンヒさまがにこやかに頭を下げ返す。
「それから、こちらはタウンさん。私たちと一緒に住んでくれてます。結婚式にもいてくれました。
元はチェ尚宮様の武閣氏でも大活躍した、すごく強い剣の名手です」
「ウンスさま」

タウンさんは私のほめ言葉に顔を赤くして、慌てて首を振る。
そしてキョンヒさまはそんなタウンさんに笑いかけると
「覚えている。御夫君がとても大きな方だった。違いますか」
「おっしゃる通りです」

キョンヒさまの記憶力に驚いたようにタウンさんが目をみはる。
そんなやり取りに、チュンソク隊長が言葉を添えた。
「今日の角力大会に、コム殿・・・こちらのタウン殿の御夫君も出場しています」
「え」

今までにこやかだったキョンヒさまがお声を切ると、チュンソク隊長を見上げた。
「じゃあ・・・もしかして、この後チュンソクとも」
「互いに順当に勝ち上がれば」

その横でハナさんは、同じように自分と並ぶトクマン君を見た。
トクマン君はハナさんの視線に頷くと
「自分も、隊長も、コムさんも、もちろん他の出場者も。勝てばいずれどこかでぶつかることになります」
「では、勝ち続ければ・・・」
「最後は大護軍と当たることになるでしょう」

キョンヒさまとハナさんはどうしていいか分からない様子で、顔を見合わせる。
「虎の大護軍と・・・」
キョンヒさまはそうおっしゃると、チュンソク隊長の上着の袖口をきゅっとつかんだ。

「お願いだから、怪我だけはするな」
「心配ありません」
チュンソク隊長は困ったみたいに眉毛を下げて笑うと、不安そうなキョンヒさまに請け合った。

誰もあなたが怪我をするって思ってないところ、負けるってこれっぽっちも思ってないところは、さすがというか何というか。
でもあなただって生身なんだから、何かのタイミングで調子が悪いことだってあり得るのよ。
誰より責任感の強いあなたが、それを隠すのが心配。
みんなや私に心配かけないように、一人でそんな大きすぎる信頼を背負って頑張りすぎるのが。

信じてるから無理しないでね、ヨンア。

試合が始まってからまだ顔を見てないあなたを探すように、酒楼の門の方を見た私の目に、そこから勢いよく飛び込んだ影が映る。
でも背格好が違う。あれは

「テマナ?」

私の声にその影は、まっすぐこっちへ駆けて来た。

 

*****

 

「ヒド」

明るい光から少しでも離れるよう、大路から一本奥の酒幕の軒下に据えた縁台に腰を下ろしていた。
その声にふと目を開ける。同時に大きな影が縁台に置いた小卓の向かいに腰を下ろして息を吐いた。

こんな時にも隠れる俺に呆れたのか、それとも探し疲れたのか。
何方とも受け取れるその太い息の後、黒い眸だけが此方へ向く。
「シウルは負けた」

前置き無しのヨンの声に、次は俺が息を吐く番だった。
「誰に」
「コム」
「それ以外は残ったか」
「順当に」
「お主は」

その問いに首を振り、奴は不満そうに下唇を歪める。
「もう少し後だ」
「まだ初戦も終わらんのか」
「俺のせいじゃない。人が多過ぎる」
「心配はせんぞ」
「ああ」
「大会と銘打つからには、もう少しましな遣い手に当たると思ったが」

俺の愚痴に奴もその黒い眸で周囲を見渡し
「まだ判らん。全取組を見たわけではない」
期待半分、不安半分といった声で呟いた。

「手甲を外せと言いおった」
「審判がか」
「ああ。愚かにも程がある」

続く愚痴に片頬で小さく笑むと、奴の黒い眸が手甲へ移る。
「気を遣ったな」
「当然だ。あの人だかりの目前で相手を切り刻んでみろ、大騒ぎになる。下手すれば女人も取り戻せん。
そんな事になったら冗談では済まんだろう。真昼間に出張って来て、無駄足は御免だからな」
「・・・そうか」

俺の愚痴の何がそんなに嬉しいのか、弟は晴れ晴れとした笑みを浮かべる。
「そうか」
「お主も気をつけろよ。雷功とて同じだ。特にお主の内功は民にも知れ渡っておろう」
「判った」

やけに素直に頷く弟の笑顔の意味が判らずに首を捻り、縁台から立ち上がる姿を座ったまま見上げると
「決勝戦は」

奴は拳の親指を立てると最初に己の胸を指し、続いてその指を俺へ向ける。

俺が無言で喉で笑うと、奴は晴れ晴れとした表情のままで静かに酒幕を出て行った。

 

 

 

 

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