帰る前にハナさんのお弁当を一緒に食べましょうって誘ったけど、 叔母様は申し訳なさそうに首を振った。
「役目を抜けてきました故」
「じゃあ、お昼は?食事抜きは健康に悪いですよ、叔母様」
「適当に見繕います。ヨンア」
小声でそう言ってあなたを見ると
「医仙と共に、なるべく早く戻れ」
叔母様はそう言って頷いた。
「収穫はあったが気が抜けた。敬姫様もお若いが、何の何の」
苦笑いした叔母様は、少し離れた桜の下にお弁当を広げたキョンヒ様達の姿を眺めた。
「・・・ああ」
「迂達赤隊長」
呼ばれたチュンソク隊長が小さく走り寄って、叔母上に頭を下げる。
「敬姫様と侍女殿を、確りと御邸までお送りせよ」
「はい」
チュンソク隊長とあなたに頷くと、叔母様は足早に皇居の方への丘の道を下り始める。
「大護軍」
叔母様をお見送りした私とあなたが近付いていくとキョンヒ様はいつものお顔で、草の上に敷いたブランケットの上、おいしそうなお弁当から目を上げてあなたを呼んだ。
「は」
「あのチェ尚宮は、そなたの御血縁か」
「は」
「そうかあ」
キョンヒ様は納得されたように何度もこくこく頷いた。
そうしていらっしゃると、まだあどけないくらいにお若いのに。
さっきの威厳は幻かと思うほど、影も形も無いのに。
「チェ尚宮も、何か武技に秀でておるのか」
「皇宮の女人武者、武閣氏の隊長を」
「ああ、王妃媽媽を御守りしていらっしゃるのか」
「は」
「なるほど」
キョンヒ様は楽しそうに笑う。
「虎と、鷲と。皇宮は守られておるのぉ」
「・・・は」
「鷲だ、あのチェ尚宮は。鷲のようだ」
「鷲ですか」
「うん、そなたは虎だ」
「・・・は」
喜んでいいのか、悲しんでいいのか、複雑そうな顔で頷くあなた。
虎、鷲。動物園みたいだけど余りにぴったりのキョンヒ様の声に思わず吹き出した私を、黒い瞳がちらりと見る。
そんな目つきをするから、虎って言われるのよ。私がにっこり笑って見せると、あなたの吐く息が聞こえる。
こんな風に集まって、みんなでお弁当を囲んで。春だもの。これからもキョンヒ様の御婚儀だって待ってる。
王様も媽媽も本当なら来て頂きたいけど、でもキョンヒ様との間に今でもまだいろんな事があるんだって、今日はっきり分かった。
もしかしたらこの遠足も、そのために企画されたのかしら。皇宮を離れて叔母様とキョンヒ様が会えるように。
きっとキョンヒ様が出来る限り皇宮から離れていなきゃいけないから。
王様も媽媽もキョンヒ様の事が大好きなのに、そしてキョンヒ様もお二人を気に掛けてるのに。
親戚でも簡単に会えない、近況を知らせ合うにも気を使う。
悲しいけど、だからこそ王様には媽媽が、キョンヒ様にはチュンソク隊長が、きっととっても大切なんだと思う。
どんなに近い家族や親戚でもお互いに地位を狙い合って、傷つけあうような世界だから。
たとえ血縁がなくても誰より自分を分かって支えてくれる相手が、本当に大切なんだろうなって。
「キョンヒ様」
「うん」
楽しそうにお弁当を覗き込むキョンヒ様に声をかける。
「幸せになって下さいね」
「ウンス、どうした、急に」
「もうすぐ御婚儀だと思ったら、何だか」
「・・・うん」
キョンヒ様は何故かやっぱり少し浮かない顔で、小さな肩をしょんぼり落とした。
黒くてつややかで豊かな長い髪が、そのお顔の色を少し青く見せているような気がする。
そしてそんなキョンヒ様を心配そうに、でも何も言わずにハナさんがじっと見つめてる。
私は思わず横のこの人を見上げる。
この人も明らかに変だって思ったんだろう。私を見て、そのままチュンソク隊長へ視線を移す。
チュンソク隊長は困り果てたみたいにキョンヒ様を見つめた後、私とこの人に小さく頷き返した。

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チェ尚宮はすっきりした感ですが
キョンヒ様はね…
王様、王妃様のことよりも
ハナとのことの方が…
離れがたいわよね 離れるなんて考えても見なかった
それこそ チェ尚宮に頼ってみる?
なにか いい知恵があるやも…
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さらんさん、おはヨンございます❤️
チェ尚宮さんはキョンヒ様から直接話を伺って納得したようですね~
王位継承権は剥奪とはいえ姫様って事は一生ついて回る事ですし…
それでも相手がチュンソク隊長なら謀反の心配はないし安泰ですね。
鷲に虎w
さすが血縁強いもの同士w
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虎と鷲ですか!キョンヒ様
上手いことおっしゃいます(笑)
血縁どうしの地位争い・・・
いつの世も変わりませんね。
悲しい事です(-.-)
キョンヒ様とハナさん
心配しなくても大丈夫ですよ♪
さらんさんが?何とかしてくださいますから~(笑)
ね!さらんさん❤
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さらんさん♥
慕っている親族にも関わらず
自由に会うことも、口をきくことも
できず…、それどころか
意にそぐわずに 争い事に巻き込まれる
恐れもあるなんて。
相当の地位にある人は大変なものですね。
ああ…、名も無い一般ピーポーが一番
気が楽というものです('ω')ノ。
婚儀前だというのに、
キョンヒ様の浮かない顔の理由は
何かあるのでしょうか。
ドキドキ…。
さらんさん、明日で今年度も終わり
明後日からは新年度。
さらんさんもきっと、バタバタと
お忙しくされていらっしゃるでしょうね。
くれぐれもご自愛を…(´・ω・`)。