「チュンソクと私の婚儀の件は、既に耳に入っていた筈」
キョンヒ様は明るい声で、叔母様をまっすぐに見ておっしゃった。
「それは」
叔母様は珍しく口ごもりながら目を伏せる。
「皇宮に伝達が行くのがそれ程遅い訳がない。それでは臣下として王様と王妃媽媽に対して失礼だ」
「敬姫様」
「故に、正直に。私に何が出来る」
「・・・・・・失礼しました」
叔母様は呆れたのか、あきらめたのか。 はあ、と大きく溜息をつくと首を振って言った。
「既に王様の為、皇位を退いて下さった敬姫様の御心をこれ以上煩わせてはと思いましたが」
「そういう飾り事は良いから」
「徳興君様の一件は御存知ですか」
「大叔父か」
「はい」
キョンヒ様のお顔がふと固くなる。
そうよね。自分の大叔父のあの男が、叔父様である王様の御命と、その地位を狙ったんだから。
「王様への謀反の件は母上から聞いている。どんな経緯であれ、謀反を企てた大逆人に敬称はいらぬ」
「はい」
「で、大叔父がどうした」
「現在皇宮におります」
「では王様が直々に親鞠なさるのか」
「はい、敬姫様」
叔母上が頷くと、キョンヒ様の目がこっちに向かった。
「大護軍」
「は」
「王様を御守りしてくれるな」
「は」
あなたが顎を下げると、キョンヒ様の目がチュンソク隊長を見上げる。
「チュンソク」
「はい、キョンヒ様」
「絶対に無茶はしないで」
「・・・はい」
「約束してくれるか」
「はい」
ようやく安心したみたいに笑うと、キョンヒ様は叔母様に向き直る。
「御存知の通り王様には迂達赤がいる。親鞠の心配はなかろう」
「はい、敬姫様」
「残る憂いは私の婚儀と出産か、チェ尚宮」
「・・・畏れながら、おっしゃる通りにございます」
「最初からそう言えばよいのに」
キョンヒ様は大きく笑うと、うんうんと頷いた。
「私はチュンソク以外の男性に嫁ぐなら、尼寺へ行く。これからどれほど条件の良い男性が来ても変わらない」
「キョンヒ様」
慌てたみたいに小さく声を上げたチュンソク隊長に得意げに笑って、キョンヒ様はもう一度叔母様に向けて、安心させるように頷いた。
「生まれた子に出自を問う事は無い。一貴族の娘と、迂達赤隊長の子なのだから。手元に置いて、大切に慈しんで育てる。
女の子なら手芸や料理を覚えて、チュンソクに似た男性と縁づけば嬉しいな。
男の子なら武学を修めて、王様のお役に立つ臣下に育ってほしい。
ハナやウンスのような美しい女人を見つけてほしい。それだけだ。他に望む事はない」
「敬姫様」
「ただし王様が御困りなら、いつでもお力になりたい。それだけはただの臣下の貴族の娘でも許されるであろう、チェ尚宮」
「はい、敬姫様」
「私は大丈夫だ、いつもチュンソクが傍にいてくれるから。チュンソクさえいてくれれば、怖いものなど何もないから」
キョンヒ様のそのお声に、呆気に取られた叔母様の顔が上がる。
難しい顔で腕を組んでたあなたはうつむいて、小さく首を振る。
「王様の御立場を万一にも危うくするような婚儀を受ける気も、生まれた子を利用する気も、親元派に近寄る隙を与える事も、断じて有り得ない。
どれだけ離れても、私は王様が大好きだ。大好きな叔父上と叔母上だから、早く御世継ぎに恵まれて欲しい。
それだけを敬はいつも心から願っているとお伝えしておくれ。私はチュンソクとうんと幸せになるから、ご安心下さいと」
「確かに承りました、敬姫様」
叔母様はそのキョンヒ様の言葉に深く頷いた。
「あ、チェ尚宮」
そのままキョンヒ様の前を去ろうとした叔母様を、キョンヒ様がもう一度呼び止めた。
「はい、敬姫様」
振り返ってもう一度キョンヒ様の前で畏まった叔母様に、何故か困ったお顔でキョンヒ様が小さく聞かれた。
「一つだけ、願いがあるのだが」
「何なりと」
「あのな」
キョンヒ様がひそめた声に、叔母様のお顔が曇る。
「チュンソクを、もう少しだけお役目から早く帰してくれると嬉しい、な」
それを聞いた瞬間の、叔母様のあきれ顔。
チュンソク隊長の耳が赤くなって、あなたはごまかしようのない大きな溜息を吐いた。
「・・・迂達赤大護軍、聞いたか」
「は」
「どうにかせよ」
「お」
叔母上、と言おうとしたんだろう。あと一歩で踏みとどまった声をぐっと飲むノド仏が、大きく動く。
そしてあなたはもう一度、溜息をごまかすみたいに唸った。
「・・・善処、致します」

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キョンヒ様なりに
ちゃ~んと先々考えてみえました
それを聞いて チェ尚宮も安心したかしら?
って言うか 一本取られたか?
( ´艸`) チュンソク大好きなのね
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キョンヒ様
幼いけど、しっかりとご自分の考えを持っていて素敵な女性ですね(^^)
叔母様も安心されたでしょう。
「チュンソクを早く帰して」って
言われてもねぇ…
ヨンもウンスの元に早く帰りたいし‥
大変だぁ~(笑)
さらんさん❤
今日もありがとうございます❤
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さらん 様
いつも素敵なお話をありがとうございます。
私の大好きなキョンヒ様のお話…
いつの間にか芯の強い素敵な女性へと…
もちろん1番は、ヨンとウンスですが
今回もまた美しい季節と共にさらん様の
世界に魅了されてます。
あの我儘で目の離せないキョンヒ様を
こんなにも素敵に成長させてくださり…
これからも楽しみにしてます!
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さらんさん♥
ストイックなくせに、ウンスには甘々のヨン。
食いしん坊で自由奔放に見えて、治療時は
キリリと凛々しいウンス。
そしてキョンヒ様まで、この二人同様
ギャップがたまりませんね♥
しかも、これ程にキレ者だったとは…。
こんなに純真で頭の良い彼女に
どこかで遍照が関わっているのでしょうか。
だとしたら、相当 不気味です…∑(゚Д゚)