春花摘 | 山桜・2

 

 

「桜の花を摘みたいの」
楽しそうに庭を眺め、この方は嬉し気に言った。
「山桜は先の世界の桜より花の季節も長いけど、若葉も一緒に出るから忙しいのよ。花も葉も両方ほしいんだもの」
「何に効きますか」
「花は塩漬けにして桜茶。深酒の酔いざましや二日酔いに効くわ。葉も塩漬けにしておくと香りがいいの。
一年かかるけど食べることも出来るし、乾燥させてお風呂に入れてもいい。樹皮も使えるのよ。捻挫とかじんましんとか」

指を折ったこの方は、悪戯な瞳で俺の眸を覗き込む。
「桜の花が二日酔いに効くって楽しいじゃない?」
「楽しいですか」
「うん。最初に見つけた人はどうやって気付いたのかな、って思って。
お花見で深酒して、ああ桜のせいだ悔しい、喰ってやれ!って食べたら効いたとかね?
それとも酔っぱらった勢いで、そのまま枝に咲いてた桜をむしゃむしゃ食べたら、あれ?今日はあんまり悪酔いしないな?って思ったのかな」

庭の櫻へ視線を遣って、この方はそんな風に道化て見せる。
如何にも良く喰うこの方らしい思い付きだ。
「塩漬けにするのでしょう」
「うーん、どうかな。塩漬けにしなくても薬効はあると思うわ。
塩漬けにしたのはほら、桜って季節ものだから、後になって考えついた保存法なんじゃないかしら。使う時はわざわざ塩抜きするくらいだし。
葉っぱは塩漬けにしないと固くて使えそうもないし、香りもしないから、塩漬けで成分が変化するんだと思うけど」
「成程」

ふざけて見せながらも、おっしゃる事は理屈が通っている。こうして学んで行かれるのか。
攫ってお連れした初めの頃は、あれもこれもないと文句ばかりだった方が。

光に溢れた天界とは全く違うこの地で魘され苦しんでいらした方が、今はこうして櫻花の許、俺の横で笑って下さる。
いつの間にか誰も彼もを味方につけ、皆に囲まれて笑っている。
どれ程苦しかろうと、困難な途だろうと笑う。
笑っていれば全てが上手く行くのだと言い聞かせるように。

「試しましょう」
せめてあなたが無理せぬように。花の許、心の底から楽しく笑えるように。
「試す?何を?」
「櫻花を喰ってみます」
「はい?」
「己で喰ってみれば効き目が判る」

あなたは鳶色の瞳を丸くした後、堪え切れぬように噴き出した。
「やめてよ、真剣な顔で冗談言わないで!」
「本気です」
「だって、ヨンア」

細い指先で笑い過ぎて潤んだ目尻を拭い、あなたは真剣な顔で言う。
「酔わないじゃない、全然。最初からそれじゃ体を張る意味ないわ」
肝心な時に役に立たぬ焼酎徒は、どうやら櫻花には縁遠いらしい。
「ではトクマンにでも喰わせます。酒に弱い奴ですから」
「バカ言わないで!同意のない人体実験は絶対ダメよ!」

本気で慌てたように首を振るあなたを、笑いながら抱き竦める。
そして腕に閉じ込めて、あやすように揺らす。
「花の美しいうちに同意させます」
「それって、お花見に行くって事?」
「そうしましょう」

嬉しそうに腕の中、この眸を見上げるあなたを抱き締めたまま。
そうしよう。花見でも花を喰うでも、したい事は何でも。
腕の中で笑うこの世で一番美しい花が、俺の横いつまでも枯れぬよう。

 

 

 

 

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7 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは!
    お酒の強いヨンじゃいくら飲んでも酔わないし二日酔いの効能は調べられませんねw
    でも、棚からぼた餅でお花見に行ける事になってウンス嬉しそうですね♪
    春には春にしかできない事を。
    桜の季節はあっという間に過ぎ行きます。
    また二人の思い出が増えますね( ´艸`)

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    ウンスが楽しく過ごせるように
    どんなことでもやっちゃうヨン(笑)
    本当に優しくて良い男!
    人体実験トクマン君。
    ヨンに言われたら断れないですよね!お気の毒です~(^^;

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    やさしいのね旦那様…
    それも ウンスの笑顔を見たいから
    可能な限りの願いを叶えてくれそうね
    トクマンには気の毒ですが…
    人体実験がてら
    お花見&花摘み~ 
    よかったね~ ( ´艸`)

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    さらんさま
    甘いです・・・
    甘くて幸せです・・・❤
    さらんさん、ありがとうございます。
    何もかも忘れる時間を、少しでも多く二人にあげてください。
    もっと甘くても胸焼けはおこしませんので・・・
    Welcomeです❤

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    さらんさん♥
    外では堅物でも、ウンスを笑わせるためなら
    粋な冗談も言えるヨン♥
    ああ…またもや、大勢のお姉様やお嬢様方が
    彼のギャップに撃たれてしまいましたよ。
    それにしても、桜が深酒に効くとは!
    ウンス以上に食いしん坊の私は
    桜餅やアンパンくらいしか
    思い浮かびません…とほほ。
    桜餅といえば、道明寺系と長命寺系、
    さらんさんはどちらがお好きですか?
    ああ…ごくり…。
    今回のお話を拝読してたら
    おやつが食べたくなりました
    o(^^o)(o^^)o

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    さらん様
    ああ、なんて甘~い二人♪
    もう、情景が目に浮かんで、頬が緩みっぱなしです。
    近所で今、満開の雪柳を見てうっとりしている私ですが、今度は櫻を見てにやにやしてしまいそうです。(もう、本格的に怪しいオバサン/笑)
    こんな幸せな毎日が続くことを祈って・・・。

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    さらんさん
    皆様のコメと同じで
    ヨンとウンスのあまーいお話に
    たしかに頬が緩みます!(///∇///)
    だが!
    逆につらーい局面も
    これにていっそう辛くなるか?
    進行度合いにワクワクドキドキ
    いいわ~
    素敵なお話ありがとうございます。

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