【 連翹 】
「美しいだろう!」
咲き誇る見事な連翹の、目を奪う鮮やかな黄花の前。
キョンヒ様は明るい声でおっしゃり、得意げな大きな笑みが此方を振り向く。
「本当にすごいですねー!」
医仙が声にお首を巡らせ、見事な連翹をゆっくりと見渡す。
「うん、我が家の庭の春は大好きだ」
そう言うと、少し低く落ちた声が続く。
「ウンスと大護軍の御宅のような、役に立つ木はないけれど」
「それはいいんです。うちは実益を兼ねてるだけです」
励ますように笑われる医仙に、俯いた顔が上がる。
「桜や桃は薬木なんです。ご存じでしたか?」
その声にキョンヒ様が盛りの桃花を仰ぎ見る。
「ほら、役に立つ木がもう植わってるじゃないですか!」
医仙の声で、その顔に明るい春の笑みが戻る。
「婚儀が済んだらいろいろ植えたいの。私も実益を兼ねたいんだ。その時はウンスが教えてくれるか」
「もちろんです。食べられる植物にはくわしいですよ。今ならツクシ、ワラビ、ゼンマイ、タケノコ、タラの芽とか。お好きですか?」
「うん!そういう草を取って来て、庭に植えたりも出来るかな。そうしたら庭で増えるようになるのかな」
「ええ、うまく根付けば家庭菜園です!おいしいおかずがすぐ出来ます。
見た目は悪いけど、倒れた木をそのままにしておくときのこが生えたり。雷で倒れた木だと、なおさら生えやすいみたいです。
あ、でも毒きのこもあるので、自己判断して食べたりはダメですけど」
「難しいな・・・」
「何ごとも慣れです、一緒に頑張りましょう」
「うん、頑張る!!」
まるで陽春の下、二羽の春告鳥のように鳴き交わす御二人。
数歩下がりその様子を拝見する俺の横、大護軍が短く息を吐く。
「お止めしますか」
「お前が苦労したくば構わん」
「は?」
「あれを取れこれを摘めと」
「大護軍は、苦労されているのですか」
「煩い」
医仙とご一緒ならきっと苦労も楽しいのだろう。大護軍は短く言い放つとその目許を優しく緩める。
そんな目をされる時、視線の先には必ず医仙がいらっしゃる。こうして結局は遠回しな惚気を聞いてしまったようなものだ。
堪え切れずに低く笑うと、大護軍の耳が赤くなった。
*****
「あ、おいしい!」
春を思わせるような明るい色の溢れる、殿内のお部屋の中。
茶の載った卓を挟み向かい合って座る医仙が、皿の上の餅を口に運んで小さく叫ぶ。
「そうだろう、摘んだばかりの蓬が入っている」
「すごいじゃないですか。ヨモギでトッをお作りになるなんて」
「・・・私が作ったわけではないんだけれど」
「それでもいいんですよ。こうやってきちんと季節の食材に目配りをしてくれる方が、お側にいるって事です」
励ますように大きく笑う医仙の笑みにつられるように、桃色の口元に柔らかい笑みが浮かぶ。
「ヨモギは本当に優秀な薬草です。新芽はこうしてトッに入れるし、育った葉は乾燥させて、裏側の綿毛はお灸のモグサに使うんです。
葉自体には止血効果がありますよ。 芽や株は煎じて飲むと健胃効果があって、腹痛や下痢にいいんです。
貧血や冷え性にもよく効きます。お風呂に入れてもいいし、湯気を当ててもいいんです。
風邪がひどくなった時は、ヨモギを煮る時の湯気を吸っても楽になりますよ」
医仙のお話に、キョンヒ様は目を輝かせて聞き入っている。
「そうなのか!」
「はい」
「ウンスは本当に何でも知っていて賢いな。そんな草があるのか」
「ありますよー、今度ご紹介しますね。あ、時間があったら一緒に草摘みに行きましょうか!」
「連れて行ってくれるのか」
「もちろんですよ」
医仙の提案に嬉し気に幾度も頷くと、俺の横の丸い目が上がる。
黒目がちのその目で俺をじっと見つめ、柔らかい手がねだるようにこの袖口を握りしめて揺らす。
「チュンソクも共に行こう、ね、ね」
俺の向かい合わせの大護軍が、言わぬ事ではないとばかりに片頬で笑い、短く太い息を吐く。
「イムジャ」
「なぁに?」
「俺達はともかく、敬姫様は」
「余計な事は言うな、大護軍!」
大護軍の声を慌てて遮るよう、キョンヒ様が白い両手を振り回す。
「そなたが止めたら、チュンソクが困るから!」
「キョンヒ様!!」
大護軍へと勢い良く膝立ちになったキョンヒ様が腰を浮かせた拍子に、振った腕が卓の上の急須を払う。
瞬間に手を伸ばし庇った柔らかな腕。
代わりに急須の中の熱い湯は、湯気を立てつつこの手へ盛大に降り注いだ。

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ヨンは チュンソクの手前
照れて めんどくさそうに言ってるけど
絶対 ウンスの前ではそんなそぶりも見せないで
しあわせ実感するくせに~ このこのこの~
あらら キョンヒさま
あまり 外に出ることもなかったでしょうから
ウンスの話しは 刺激的でしょうね
ムキになっちゃダメダメ
危ないわ~