春花摘 | 山桜・5

 

 

「チェ尚宮と申します」

叔母様はキョンヒ様にゆっくりと深く頭を下げた。
「チェ尚宮殿」
「殿はお止めください、敬姫様」
「では、チェ尚宮。宮外でこうして私と会って大丈夫か」
「・・・ご心配されませぬよう。王様も王妃媽媽も、敬姫様の事を大層御心に懸けておいでです」
「そうか。王様はご健勝であらせられるか」
「はい」
「王妃媽媽の御体調はいかがか」
「医仙が直々に拝診を続けております」
「どうかくれぐれもよろしくお伝えしてほしい」
「畏まりました。敬姫様」

いつも子供みたいに気持ちに素直で可愛らしいキョンヒ様。
見慣れていたキョンヒ様が、今は別人みたい。
姿勢も、その横顔も、漂う雰囲気も違う。
こうしてみるとやっぱり王女様なのね。 真直ぐ伸ばした背中、前できちんとそろえた小さな両手。
黒い長い髪もピンク色の頬も、いつものキョンヒ様のはずなのに。

春風さえ遠慮して、キョンヒ様を揺らさずに吹いてくみたい。
辺りを払う威厳、って使い古された言葉を思い出す。
私よりも、当然叔母様よりもずっとお若い方なのに、やっぱり王族はこういうものなのか。持って生まれた血や育ちなのかな。

ジキルとハイドくらいに、見た目はそっくりなのに突然中身が変わったようなキョンヒ様。
呆気に取られる私の前、叔母様とキョンヒ様だけが当然みたいにお話を進める。
そして驚いたのはあなたもチュンソク隊長も、キョンヒ様の変わりっぷりに全く動揺してないところよ。
私だけが1人で驚いてる。話の展開について行けない。

「して、本日は」
「敬姫様にはご皇位を退かれた後、ご挨拶がまだでしたので」
そうだったの、と私が頷いた時。
何故かキョンヒ様は、不思議なお顔で首を振った。

「チェ尚宮」
「はい、敬姫様」
「宮仕えのあなたが、そんな理由で既に皇位を退いた私の許にわざわざいらっしゃるだろうか」
いきなり目の前の、見た目は可愛らしくて柔らかい、ふわふわしたお人形みたいなキョンヒ様に言われ、さすがの叔母様も息を飲む。

「王様に何か御心痛があるのか。王位に関わるような」
そこで初めてチュンソク隊長の顔色が変わる。
それなのにヨンアと叔母様はまるでキョンヒ様の言葉を予想済み、くらいの顔で。
「敬姫様」
「私で何か、お役に立てることは」

少し離れた大きな桜の木で、身軽にその幹に登るテマン。
その下でテマンを不安そうに見守るトギ。
テマンの落とす桜を、器用に籠に受けて行くトクマン君。
その横でこっちを見つめているハナさん。
そしてそのみんなの横、監督みたいに立ってるキム先生。

その声が届かない程度に離れたこっちには、キョンヒ様。
心配そうにキョンヒ様と叔母様を見比べるチュンソク隊長。
そして私の横で両腕を組んで、難しい顔をしてるあなた。

「敬姫様」
「うん」
「此処にいる迂達赤隊長と、御婚約が整われたとは真ですか」
「え」

突然変わった鉾先に、さすがのキョンヒ様も赤くなる。
どう答えていいのか困ったようにチュンソク隊長を見上げる。
チュンソク隊長もまさかそんな話になるとは思わなかったんだろう、慌てて叔母様に向き合うと
「チェ、チェ尚宮殿」

そう声を上げて、叔母様のひと睨みで口を閉じる。
キョンヒ様は叔母様の様子を見て、ご自身が言わなきゃと思ったか。小さく息を吸って、しっかりと頷いた。
「真だ。チュンソクをそのように睨むのは止めてもらう」
「大変失礼致しました」

叔母様はすんなり言って、もう一度頭を下げた。
「しかし皇位を退いた私の婚儀が、皇宮尚宮であるあなたに一体何の係わりが」
「退かれたとはいえ王様の御姉上、銀主公主様と儀賓大監のお嬢様であられる事には違いございません。
王様の姪姫様として、皇宮より御祝のお届けを」
「嘘は良い、チェ尚宮」

何だろう、敬姫様のこの威厳。ご自身よりずっと年上の叔母様に堂々と渡り合うようなこのゆとり。
「そんな物、既に方々から山ほど届いておる」
キョンヒ様の一言に、私はあなたを振り返る。
そんなに広まってるの?やっぱりお姫様だから、そういうもの?
私が一生懸命目で尋ねてるのに、ヨンアは私の髪をなでるように自分を見てる私の頭を大きな手でそっと抑えて、そのままこの頭をキョンヒ様と叔母様へと向け直す。

私に聞けっていうよりも、自分が聞いてるから邪魔せず大人しくって言われてるみたいで。
私は横のあなたを気にしながら、もう一度目の前、変に緊張ムードのキョンヒ様と叔母様へ向き直った。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    すっかり お姫様モードのキョンヒさま
    何が何だか わかんないウンス
    ウンスも ぽか~んって感じですが
    チェ尚宮チェック…?
    スキャンされてる感じかしら?
    このための登場だもの
    ヨンもしっかり聞いておきたいのよね

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    さらんさん、おはヨンございます♪
    あら!?チェ尚宮さまもご一緒だったんですね!
    王宮の外でこのような顔ぶれが揃う事にびっくり!
    遍照の事でチェ尚宮さま直々に問いたい事でもあったのかしらね。
    ウンスは2人の気迫に負けているみたいだけど、今度の大事な事に絡みそうだし、ちゃんとお話聞いてくださいね♪

  • SECRET: 0
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    あ―❗
    私、大きな勘違いをしてました。
    今日の主役って叔母様だったんですね。お話をきちんと読んでいなかったかなぁ?
    お恥ずかしいです~(^^;
    叔母様何を企んでおられるのか?
    続きが待ち遠しいです❤

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