春花摘 | 山桜・3

 

 

「菫は」
「花と葉っぱは食べられるわ。種と根茎は毒。心臓マヒや呼吸困難」
「芹は」
「気を養って血脈を整える。気虚血虚にいい。保温と高血圧に効く」
「土筆には」
「利尿作用がある。形が可愛いわよね。でも心臓・・・えーと、心や腎が悪い人は、たくさん食べちゃダメ」

何を指しても鳶色の瞳で草花を見つめ、得意げに頷き答を返す。
春の淡い光の中、つんと澄ました小さな顔。
白い頬にさす櫻のような頬の朱。光に透ける長い亜麻色の髪。
細い指先に並ぶ薄い櫻貝色の爪まで、何処を見ても不思議に思う。
何故天はこれ程美しく、この方を拵えたのだろう。

「まるで国子監の最優等のようです」
少し前を歩くキム侍医が、振り返って微笑む。
「ふふーん」

細い腰に両手を当てすんなりした鼻を天に向け、この方は春空を仰ぐ。
「見直した?見直したでしょ!」
誇らしげな声に思わずキム侍医と目を見交わす。
見直したと言われても、最初から見下してなど居らん。
ただその威張る姿が。

キム侍医との目配せの後、この方の姿を背で隠すよう一歩出る。
侍医は判っているとでも言いたげに、苦く笑うと眼を逸らした。
そんな可愛らしく威張るのは、俺の前だけで良い。

「大護軍!!」
見えて来た櫻木の下、テマンが飛び跳ね大きく両腕を振った。

 

*****

 

「ウンス!!」
「キョンヒ様、お元気ですか?お式の準備進んでますか?」
互いに駆け寄って春鳥のような高い声で言葉を交わす御二人を、何時もの事ながらチュンソクと共に静かに見守るしかない。
「ううーん・・・」
「どうしました?」

今まで婚儀の事となればあれ程嬉し気にしていらした敬姫様の思いがけず濁すような声に、この方も驚いたよう首を傾げた。
「すまない、大丈夫だ」
敬姫様の横のチュンソクを見遣る。
心配げに敬姫様を見つめていた奴は、視線に気付くと目を上げる。
そして俺に向かって困ったように、その両眉が情けなく下がった。

「ハナさん」
「ウンス様、先日はありがとうございました」
「何だか会えるのは、遠足の時だけね」
「遠足、でございますか」
敬姫様から少し離れ、何故かトクマンの守る荷の横に佇むハナ殿は、この方に向けて頭を下げた。
「遠足は、えーと・・・皆で野外に出かけること?」
こと、と尻上がりに問われても、答えようもないのだろう。
ハナ殿は曖昧に微笑むと頷き、そしてトクマンの脇の荷を指した。
「簡単なものですが、宜しければ召し上がって頂こうと」
「わぁ、う」
「簡単なんかじゃありません!」

突然上がった大声に、ハナ殿とこの方は驚いたようにトクマンを見る。
「いつだってハナ殿が精魂込めて作って下さっただけで、もう」
「あ、あのトクマンさま」
「ここにいる皆は幸せ者です!」
「ありがとうございます。あの」
「ご自身が一生懸命してる事を、そんな風に謙遜しないで下さい。皆にお礼を言われて、褒められて喜ばれて当然だ」
「はい。判りましたから、トクマンさま」
「・・・お前、何を興奮してる」

張り上げた大声に、俺のこの方が困惑しているだろうが。
尋ねた俺にトクマンの目が真直ぐ当たる。
「大護軍だって嬉しいですよね」
「何が」
「ハナ殿の拵えた弁当、嬉しいですよね」

ね、と強い目線で問われ、何より拵えたご本人の前だ。
妻以外の手料理に興味も関心も無い、喰えれば良いとなど言える訳もない。
「・・・・・・ああ、ありがたい」
「聞きましたかハナ殿!滅多にこんな風に言わないんです、俺の大護軍は口が重いんですから!それを」
滔々と捲し立てるトクマン、呆気に取られた様に頷くハナ殿。
花の許での遣り取りに、細い指がこの袖を引く。
「ハナさん、トクマン君、あとでねー」

この方は何方にともなく小さく言うと、空いた片手の指先を顔の横で心ばかりに振り、何故か忍び足で其処から逃げ出した。

 

*****

 

並んで歩き出したこの方の目が、不安げに春の野を泳ぐ。
「もしかして、あれ?」
「あれとは」
「犬も食わない夫婦ゲンカ?チュンソク隊長とキョンヒ様」
「夫婦では」
「なーんかキョンヒ様とハナさんも。どうしたのかなぁ」
「・・・イムジャ」

そうしてまた余計な事に首を突っ込むおつもりか。
「犬も喰わぬのですから、そのままに」
それでも後ろ髪を引かれるよう幾度も振り返りつつ、この方が横をついて来る。
その途端、足許に伸びた春草に爪先を取られ、小さな体が前のめりにがくりと揺れた。
既に予想し差し出したこの腕にしがみ付き、ようやくその瞳が俺へと戻る。
「・・・まずご自身の足元を」
「はーい、ごめんなさい」

はーい、ではない。ただでさえ歩き方の下手の方なのだ。
可愛らしく舌を出す前にご自身の安全を考えて頂きたい。
あなたさえ無事で楽しければ他はどうでも良いと思っている、あなたの夫をまず一番に考えるべきだ。
そうでなくば俺達こそその犬も喰わぬ何とやらを始める事になる。

 

 

 

 

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5 件のコメント

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    さらんさん、おはヨンございます❤️
    あははー相変わらずのヤキモチ妬き( ´艸`)
    弁当にしても周りを囲む人達でも実際妻以外の事なんてどうでもいい男ですもんねw
    結婚しても悋気の塊で、腹の中では何故自分が一番ではないのかとゴネるヨン、可愛いわぁ~
    当の本人は何も変わらずウンスを一番に考えて、ウンスしか見えてないご様子。
    朝からごちそうさまでした♪

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    さらん様
    ウンスはこの世で一番美しい花で、そのウンスの為なら桜も食べる勢いで、可愛い姿は誰にも見せたくなくて、ウンスの手料理以外はまったく興味がなくて・・・って。
    いや、もう充分にわかってはいますが、どんだけウンスが好きなの~(//∇//)
    山桜は1話からあまあま全開

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    ヨンさん甘々過ぎじゃねぇーかよー!
    何故天はこれ程美しく、この方を拵えたのだろう。
    だってよー!
    妻の手料理以外興味ないってよー!
    最高じゃねぇーかよー!
    さらん様、どうもご馳走様です♡♡

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    さらんさん❤
    もう~朝から顔がにやけてしまってました(^3^)/
    心の中ででも、ここまで妻を褒め称えるヨン。
    あぁ~~ウンスが羨ましい!
    「そんな可愛らしく威張るのは、俺の前だけで良い]だって~
    もう何をしてもウンスが一番なんですよね(笑)

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