威風堂々 | 38

 

 

隠せるはずなんてない。分かってる。
でも叔母様の言う通り、あなたにばれたら絶対反対するはず。
せっかくの結婚式にこれ以上のトラブルなんて嫌よ。
衣装作りに引っ張り出すだけで、あれだけ苦労したんだもの。

「ヨンア?」
下から見上げた私の目、高いところから黒い瞳が降って来る。
いつもなら大好きなその瞳も低い声も大きな手も、こういう時はまるで罠みたいに私を包囲する。

手を解こうとしてもがっちり握られて、痛くはないけどびくともしない。
目を逸らそうとしてもその黒い瞳は、絶対にそこから逃がしてくれない。
普段ならずっと聞いていたい低い声が、穏やかなのに大迫力で言うのよ。

「俺達二人の婚儀でしょう」
「・・・うん」
「そう思われるなら正直に」
「あのね」

私は息を吸って、そして一息に告げる。
「実は結婚式の事で」
「はい」
「媽媽と叔母様にお願いがあって」
これは嘘じゃないもの。ただ、全部言ってないだけ。

「俺達の婚儀の件で」
「うん」
「王妃媽媽と叔母上に」
「そうなの。媽媽と叔母様じゃないと絶対ダメなの」
「俺でもですか」
「あなたでもダメ」

それも本当。あなたでもダメ。
私が勢い良く首を振ると、あなたの黒い瞳が細くなる。
「婚儀の衣装を整え、御挨拶をしました」
「うん。すっごく嬉しかった」
「宅で婚儀をご希望なら構いません。和尚様にお願いします」
「ありがとう」
「それ以上一体」
「それはねえ、秘密なの」

もったいぶった私の声に、大きく息を吐いて首を振られちゃう。
「・・・ウンスヤ」
「どんなに呼んでもダメ」
「叔母上はともかく、王妃媽媽にお願いなど」
「何か欲しいとか、媽媽に御迷惑になるとか、そういうことじゃない・・・と、思いたいな」
「それすら判らぬのですか」
「うーーん」

あなたの声に首を傾げる。どうなんだろう。
逆に、媽媽が御迷惑でないもので構わないから。
「一体何を」
「あのねぇ」

すぐに帰るつもりで、部屋の中で始めた立ち話。長くなりそうな気配に私は椅子に腰を掛けた。
あなたは離すつもりはないと言いたげに、手を握ったまま私の横にずっと立ってる。

「ねえ、ヨンア。座って?」
そう切り出すといかにも渋い顔で、ようやく私の手を離してくれる。
そしてテーブルを回って、向かい側の椅子に腰を下ろして、そこからこっちをじっと見つめる。
その視線の中で、私は話を始める。
「サムシング・フォーっていうのがあってね」
「天界の則ですか」
「そう。フォーっていうのは4つって意味なんだけど」

テーブルに肘をついて、向かいのあなたに見えるように指を折る。

「1つ目はSomething Old、何か古いもの」
「旧いもの」
「伝統とか、祖先を表すの。叔母様にお借りしようと思って。
祖先を表すのに、あなたの叔母様にお借りするのが一番順当でしょ?」
「ええ」

あなたも反対は出来ないだろうと思う。唯一残った血縁のご家族だもの。
納得したみたいに深く頷いたその顔を見れば分かる。
「そしてSomething New、何か新しいもの」
「新しいもの」
「これから2人で始める新生活を表すの。これは私達の結婚衣装」
「はい」
「3つめはSomething Borrowed、何か借りたもの」
「借りものですか」
「うん。幸せな結婚生活にあやかる為に、もう先に幸せな結婚生活を送っている人から借りるの」
「・・・まさか」

あなたの目を驚いたみたいに丸くなる。
「そう。幸せな結婚生活をもう送ってる方って言ったら、私が知ってるのは媽媽とタウンさんしかいないもの。
でもタウンさんに何か借りるのをお願いするのは、さすがにまだ図々しいかなって」
「・・・そうですか」

あなたも何か思い当たる事があるのか、私の声に反対せずに珍しく曖昧な顔で頷いた。
「ね?だからこれはあなたでもどうしようもないのよ。媽媽と叔母様にお願いするしかないの、分かってくれた?」
「イムジャ」
「なぁに?」
「それではまだ三つでしょう。ふぉーとは四つだと」
「ああ」

私はにっこりと笑いながら、不思議そうなあなたを見つめ返す。
「最後の1つはね。Something Blueなの。何か青いもの」
「青いもの」
「これはもう決めてるの。だから」

そう、もう決めてるの。目立たないところに身に着けるのがいいとされてる、最後のSomething Blueは。
喜んでくれるかしら。それとも驚かれるかしら。
その顔を思い浮かべると見せるのが楽しみのような、怖いような、複雑な気分でドキドキするけど。

「そんなお願いもあるし、これからいろいろご相談もあるし」
「だからと言って婚儀の為に、王妃媽媽の御力添えを頂くなど」
「うん、お願いするだけしてみて、ダメならあきらめる。だけど一生一度のウエディングよ?お願いするだけだから」

あなたは私が言えば、反対しないはず。
ごめんねヨンア、今言った事は嘘じゃない。ただ全部言ってないだけなの。

でもお二人があなたの事を思ってくれるのは、私たちの幸せを祈ってくれるのは心から本当に嬉しいから。
誰よりも誓いたいの。王様と媽媽の前で。絶対に幸せになりますって。
そして媽媽と王様の幸せを、出来る限り守り続けますって。

媽媽がご懐妊やご出産で御命を落とさないように。
それが原因で王様が悲しい日々を送らないように。
国史の悲しい大恋愛の結末がどうか変わるように。

世界で誰より愛するあなたが、世界で誰より大切に守る王様だから。
王様を守り切れなかった時、あなたが絶望で遠くに行ってしまった、そんな歴史の断片も知ってる私だから。

二度と嫌なの。
たとえ悪夢でも冷たくなったあなたを抱き締めて、後悔だらけで額にキスしながら泣くだけなんて。

私は絶対に後悔しない。あなただけを見つめて、あなただけの為に生きる。
笑う。あなたの記憶の中にこの笑顔が最後に残るように。
手を握る。大好きな大きな掌を最後に温められるように。
キスする。大好きな唇が私の唇を覚えててくれるように。

もし今日が最後の日でも。明日が来ないとしても。
絶対後悔しない。あなたと一緒に、私は生きてく。

 

 

 

 

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