媽媽のところへ向かう道。
1週間皇宮を離れただけなのに、道の両脇の木の葉はもう、きれいな赤や黄色に色づき始めてる。
そしてどこににいても目に入る、あの黄色い野菊。
あの時あの人の髪に挿した、黄色い小さな花。
笑い始めた私にきょとんとした後、慌てて自分の髪をくしゃくしゃ掻き回して、うんざりしたみたいに私を見たっけ。
そしてエンゲージリング代わりに結んでくれた花。
困ったみたいな顔をして。 あの大きな掌で不器用そうに。それが嬉しくてすごく泣いたっけ。
そう考えると、この花のシーズンって長いのね。
それとももしかして、似てるだけで全然違う花なの?
そんな風に考えていた時にかかった、聞き慣れた懐かしい声。
「医仙、お、お帰りなさい!」
辺りを見回す。聞き慣れているけど、ここで聞くわけない声。
「・・・テマナ?」
足音を立てずにテマンが後ろから、秋の庭をまっすぐ駆けて来る。
「行き違いでした。典医寺に行ったらトギが、医仙はもう出たって」
「ああ、うん。今日あの人がすごく早く出掛けたでしょ?」
「そうだったんですね。だから医仙も早かったのか」
何だろう、話が合わない。
「ねえ、テマナ?」
「はい!」
「あの人がすごく早く迂達赤に行ったって、もしかして知らない?」
訊いた途端、テマンが少し悔しそうに唇を噛んだ。
どうして?いつも、本当にあの頃からいっつも一緒にいるのに。
行って来たばかりのあの天門。あそこで初めて出会った時から、いつも誰よりあの人の側にいた。
私があの人を刺した時も。その後あの人を治療した時も。皇宮に戻って敗血症になったあの人の手術した時も。
アレストであの人の呼吸が止まった時も。
キチョルの邸にさらわれた私を迎えに来て、慶昌君媽媽のところへ向かう時だって、いつも一緒だった。
時々、1人になってくれないかなあって思っちゃうくらい。本当に弟みたいに可愛がってるのね、信頼してるのねって。
テマンもあの人をお兄さんみたいに、もしかしたらお父さんみたいに無条件で信頼してるのねって、聞かなくても分かるくらい。
テマンだけじゃない。
チュンソク隊長もトクマン君も、今はもう亡くなった迂達赤のみんなも、今も一緒にいてくれるみんなも。
あの人の事を大好きで、信頼して一緒にいてくれてた。
だからキチョルから逃げて天門に入ってあの人と離れた時だって、大丈夫って、良かったって思えたのに。
1人になったのが私で良かった。あの人が1人じゃなくて良かった。
みんなが支えてくれれば待っててくれるかも。凍らずに、眠らずに待っててくれるかも。
そして帰って来た時にテマンやトクマン君たちを見つけたから、やっと信じて実感してあの人のところへ戻れたのに。
「テマナ、正直に言って?」
私がまっすぐにその目を見てぎゅっとその手を握ると、テマンは驚いたみたいに私に向かって、慌てて何度も頷いた。
あの人の家族なら、私の家族でもある。あの人の弟なら、私の義弟だもの。
「は、はい」
「もしかして、あの人とケンカした?なんか嫌な事あった?」
「・・・え」
心の底から驚いたみたいに一声叫んで、テマンは慌ててぶるぶると首を左右に振る。
「そそそんなこと、あるわけないでしょう、医仙!」
「じゃあ、どうして1しゅ・・・7日も離れたのに、あの人と一緒にいないの?
テマンらしくないわ。私のお守頼まれた?」
「あ、いえ、そうじゃなく」
「そうよね、今はそんな時じゃないもの。じゃあ何で?」
「え、ええと」
「うん」
「実はその、チェ尚宮様に頼まれて」
「叔母様に?」
困ったみたいに頷くテマンに、首を傾げながら私はその手をグイッと強く引っ張った。
「行こう、テマン」
「は、はい、ででも医仙」
引っ張ってるのに、テマンは動いてくれない。
困ってテマンを振り返ると、テマンはもっと困った顔でそうっと優しくでもしっかりと、握ってた私の手をほどいた。
「医仙は、大護軍以外の手を触っちゃ駄目です」
こんなとこまで本当にそっくり。私は頷いて、先に立ってどんどん歩き始めた。

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さらんさん、此度もワクワクしながら拝読させて頂きました。ありがとうございます❤︎
『いい夫婦の日』の今日は、後輩男子の結婚式に招かれ、美味しいシャンパンでほろ酔いした赤ら顔を覚まそうと、廊下のロビーでこそっとさらんさんのページにお邪魔し、癒やされたり、ドキドキしたりしておりますσ(^_^;)
チェ尚宮はいったい、何を企んでいらっしゃるのでしょうか?
婚儀の余興…という訳ではないですよね?
聡明なコモのこと、ヨンのかわりに二人の新しい生活のために、あれこれ考えておられるのかも…(#^.^#)
さらんさん、昨日とは一転、寒い1日になりましたが、お元気ですか?\(//∇//)\