ご自分が傷つく言葉が返るからではない。俺を傷つけるのが。
ただその怖さ故に黙っていた。この方はいつでもそうだ。
俺の為にだけ笑い、俺の為にだけ涙を流して。
だから不安になる。愛しているの一言だけで伝わるのかと。
もっと大きな言葉はないのかと、我武者羅に探す事になる。
そして挙句の果てに、叔母上に罵られる事になる。互いの事しか考えぬ馬鹿者二人と。
いつの間にこのようになったのだろう。出会った頃は違ったはずだ。
勝手に大声を上げ好き放題に駆けまわり、逃げようと手を焼かせ、此方の肝を冷やした。
そして俺は誓った約束も果たせず、目が離せぬこの方に苛立ちながら、焦りながら振り回されていた。
正しい答はいつも単純で、最も近い処にあった。
目を閉じ背を向け見ないようにした、その場所で待っていた。
遠廻りの果ての、最も近いその場所で。
「・・・体だけでなく、心も」
「え?」
「あの時おっしゃった」
剣が迷ってるって聞いて、私はどうすればいいの。
これで守ってるって言える?
守るならこの体だけじゃなく、心も守って。
「心も守れと」
「そうね」
「体も、心も」
これほどまでに俺の体を案じ、宅の庭中に薬草を植え、倒れる程医の道を究めようとするこの方。
昏い夜に一人拳を握り、失う怖さに怯えながら、翌朝には明るい笑顔を浮かべようとするこの方。
そして俺を傷つけぬ為に全てを背負い、無理して下手な嘘を吐き敵の懐に飛び込み兼ねぬこの方。
どれ程離れようと誓いを貫き、気の遠くなる程の時を超えても、此処へ戻って来てくれたこの方。
毒を飲んででも帰らぬと、命懸けの駄々を捏ねた方。
体も心も守る事を、言葉ではなく目の前で見せる方。
「心も、体も・・・」
俺は心を捧げて来た。無論それには一点の嘘も曇りも無い。
そして体は。
躰は後から付いて来ると思っていた。
この方を今までの女達と同列になど決して扱わぬと誓った。
そしてこの方からの触れ合いを、意固地になって避けて来た。
俺を弄んでいるのかと。どれ程耐えているか判らぬのかと。
この喉元に、胸に、耳に触れる息を、温かい唇を、悪戯な歯を腹立ち紛れに邪険に避けて来た。
愛している。その言葉で伝わると教えられ、伝えて来た。
全て伝わると教えられ、ずっと伝えて来た。
「イムジャ」
「なぁに?」
「愛している。そう心を伝えて来た」
「うん。伝わってる。私の心も伝わってる?」
「はい」
「良かった」
この方が腕の中、満ち足りた笑みを浮かべてもう一度囁く。
「ヨンア」
「はい」
「愛してる。あなただけを愛してる」
「・・・はい」
愛している。俺こそもっと大きく深く、浅ましく強欲な程。
あなたの心の全てを。そして、まだ知らぬ体の全ても。
体だけじゃなく、心も守って。心を護れば、では躰は。
「イムジャ」
「なぁに?」
「愛していると言えば伝わる。そうでしょう」
「うん、そうよ」
「心の全ては伝わる。そうですね」
「うん。全部伝わる」
「では体は」
俺の問い掛けに、この方が耳朶まで深紅に染まる。
釣瓶落としの陽が既に藍に変わった水平線の弧を照らす、薄暗い礼成江の宵闇の中、はっきり判る程に。
「俺の躰もあなたを愛していると御存知ですか」
「え?」
「あなたの躰も、俺を愛してくれますか」
「・・・ちょ、ちょっと待って。どうしたのヨンア」
あなたの此度の嘘が、俺の心を思い遣ったものならば。
婚儀の衣装には、今まで誰も触れたことのないものを着て欲しいと願ったものならば。
心はあなたのものだと知っている、伝わっていると言った。
では俺の躰もあなたのものだと、どう伝えれば良いのだろう。
他の者が触れた衣を嫌がる程に、心も体も己だけのものであって欲しいと、もし望んでいるなら。
「俺の躰も、あなたのものです」
「・・・う、ん、そう、なの?」
「そうなのではなく、そうです」
婚儀までなどと誓ったからだ。誓ったからそれまでは見せる事も、証を立てる事も出来ん。
この躰の全てがあなたのものだと、一晩中刻み付けたくとも。
あなたの躰の全てが俺のものだと、一晩中知り尽くしたくとも。
この心の臓を引き摺り出して目の前で見せてやりたくとも、さすがに死んでは元も子もない。
ましてあなたの心の臓を掴み出すなど、誰より護ると誓う、傷つける者は赦さぬと誓う己の出来る事ではない。
心は分かった。心だけは通じた。
但し今まで良かれと信じ、他の女達と同列に扱わぬと誓った誓い自体。
躰も心も護れと願うこの方に、最初から添わぬものではなかったのか。
この方の為にと無理して誓った、その誓い自体が見当違いだったのか。
どうして俺はこうも気付くのが遅いのだ。
誓って待ったこの一年、婚儀を待ち望み唱えた呪いは一体何の為だったのだ。
指先に、額に、髪に、唇に触れるだけで堪えてきた。
伸びようとする度に、汗をかきながら握り締めた拳。
もっともっとと欲しがる度に、噛み締めて来た奥歯。
答はいつでも己の心の中、最も近い場所にあった。
心の命じるまま手を伸ばせば、簡単に見つかった。
目を閉じ背を向け見ないようにした、その場所で待っていた。
「俺は」
いつかのこの方のよう、頭を掻きむしりたいのを堪えて呟く。
「・・・うん」
「罵られて当然です」
「はい?」
「叔母上にも、あなたにも」
「ちょっとどうしたの、ヨンア」
この方の驚いた声に黙って首を振る。
宵の帳の降り始めた礼成江。潮の流れに揺れる舟。
吹き抜ける川風は冷たく、腕の中には愛しい女人。
二人で暖まる事が出来るなら、簡素な船室の中でも極上の夢見だろう。
馬鹿げた石頭のせいで、立てた遠回りの誓いのせいで、そうは行かん。
叔母上の言う通り。
女心も判らぬ俺は、愚か者だった。

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もぉ~ やぶっちまえ!
(/–)/ え? ダメ?
でも… もう よく ここまで我慢したよ…
(;_q) 偉いよ ヨン。
あとちょっと 頑張る?
ウンス ご褒美はずまないと。 (///∇///)
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さらんさん、おはようございます。
寒くなったり暖かくなったり。
風邪引いてませんか?
私はちょっと喉がイガイガします(^_^;)
ヨンア、ウンスを抱いちゃうか?!とお話を読み進めていて、鳥肌たっちゃいました。
でも、やっぱり誓いは守るのね(^_^;)
ヨンさんは高麗武士だからね。
さて、誓いは守らなきゃいけない、でもウンスを抱きたい、しかも抱いた方が気持ち伝わんじゃね?!と気付いたヨンア。
婚儀が終わるまで頑張れるかな~(^w^)
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さらんさん、さらんさん、さらんさ~ん❤
会議の前にいそいそとスマホを開き、思わずドキッとしてしまいました。
ああ…(〃∇〃) こりゃあ仕事になりませんよ~。
いつになく、情熱的なヨンの言葉と熱い眼差しが…見聞きできるようで…。
言葉少ないからこそ、ひと言ひと言が心に響くのですよね。
ああ、さらんさん、素敵…❤