「あなたが連れて来てくれた日を思い出したの。お餅をのどに詰まらせたり、あなたが部屋で倒れたり。
そのあなたを手術したり。ねえ、ヨンア」
「・・・はい」
「覚えてないわよね、きっと」
この方は何故か、少し恥ずかし気に肩を竦めた。
「医療行為だから今までそう考えたことなかったけど、私たちのファース・・・ああ、えーと、初めてキスしたのはね」
いきなり何の話をし出すのだ。初めての何だと。
「イムジャ」
「初めてキスしたのはあなたが敗血症の手術の後、心停止した時よ。この典医寺の手術室で」
確かに覚えてはおらん。ただ長い夢を見ていた。
あそこはこの世だったのか、それともあの世だったのか。
父上がいらした。
幼い日によくしたように、並んで釣り糸を垂れた。
大きな月が上がっていた。昏い空を鳥が渡っていた。
全てが凍った灰色の世界。
ここにいても良いですか。父上に向けて伺った。
父上は何かをお答えになった。あの穏やかなお声で。
俺が幼い頃、空を見上げるように見上げたそのままのお顔で。
「あなたが生き返ってくれた時、私泣いたの」
「はい」
「患者に死なれるのが怖かったからなのかな。死なないで生き返ってくれたから?何度考えても、そうじゃない気がするの」
恥ずかしそうな笑みのまま、この方は小さく呟いた。
「サイコの事、あの時から助けたかったの。サイコだけど、でも信じられる、サイコしか返してくれる人はいないって信じてた」
「さいこ」
久々に聞いた呼び名に、思わず眉を顰める。
そんな俺を卓向かいから眺め、この方は身を乗り出して笑う。
「あなたにここで伝えたの、覚えてる?1人でどうにかする。
だからあなたはけがを治して、治ったらよく食べて。もう逢えないと思うけど、元気でって」
「・・・覚えております」
面と向かって言われた言葉も。
それでも逃がせない、一人で帰せないと、守りのトクマンに絶対に目を離すなと伝えたのも。
それでも抜け出たあなたを追った。
そして言われた言葉も。
あなたはあなたの道を行ってよ。もう私を守らないで。
守らないで。
その声に止めようとしたこの手が、奪おうとした荷から力なく滑り落ちた事も。
そう言ったはずのこの方が単身奇轍に向かった俺を止めに、いきなり俺と奇轍の間に走り込んで来た事も。
そして凍った俺の手に息を吹きかけ、小さな手に挟んで暖めるあなたの横顔に落ちた髪を恐る恐る払った時。
その瞳から真直ぐに、涙が落ちた事も。
命を無駄にはしません。だから泣かないで下さい。
初めての涙を見つめ、そう誓った事も。
「ここで酔っぱらって、チャン先生に言った事がある」
「はい」
「線を引いて、入って来ないでって思ってるって。いつか必ず離れなきゃって思ってたから。なのにどんどん気持ちが傾いた」
「・・・はい」
チャン侍医が生きていたら。
今もまだこの世に居れば、明日の事をどう言ったろう。
隊長。ずいぶん時間が掛かりましたね。
あの声でからかうように言うのだろうか。
「そんな事を思い出してたら、すっごく逢いたくなったの。今私がここにいる全ての事に感謝してる。誰よりあなたに。
だからもう離れたくない。離れる時間は1秒でも惜しいの。今晩は会えなくて、淋しかったから」
婚儀を挙げ、夫婦として過ごせば似て来ると思っていた。
けれどこの方に似てはいけないところがある。
この方が戸惑う時。強がって無理に笑みを浮かべる時。
それすら出来ずに夜の中、一人拳を握りしめ怖さと戦う時。
俺は似てはならない。この方と共に震える訳にはいかん。
道を示し、その手を引き、此方へ来いと連れ出さねばならん。
いつもこの方が、俺に示して下さるように。
大丈夫だと伝えねばならん。俺がいるから、大丈夫だ。
怖い事など無い。いつもあなたを護る。だから来いと。
俺と共に来れば大丈夫だ。信じてついて来い。
いつでもそう教えてやりたい、この方が迷わぬように。
誰より明るく輝いているために。俺に嫁してその輝きを奪うことだけは無いように。
「最初のキスは典医寺でしたから」
この心など知らぬげに、卓に身を乗り出したままのこの方が暢気に囁く。
「・・・独身最後のキスも、ここでする?」
その誘いに小さく息を吐き、俺は首を振る。
いつもあなたに先手を取られ、口説かれてばかりではいられない。
「いやなの?」
その声を聞きながら向かいの椅子から腰を上げ、この方へと静かに顔を寄せて行く。
一々聞かねば分からんか。
無言で近付ける伏せた眸に、向かいのこの方の睫毛が閉じる。
問わず、語らず、そのままで。
あなたの初めての口づけが典医寺だと言うなら、俺はあなたに宣任殿で乱暴な初めての口づけをした。
いくら他には止める手立てがないからと、多くの奸臣たちの前、あの奇轍と徳興君の目前で。
そしてあなたは知らぬだろう。俺が知らずにいたように。
毒に侵され熱に浮かされたあなたに、噛み砕いた天の薬を口移しで含ませた事を。
俺達の命は互いの息で出来ている。だから最後の息まで護りたい。
毎日交わそう。互いの暖かい息を。誰より近くで、忘れぬように。
一つ見つけた。迂達赤よりも典医寺の方が都合が良い点。
少なくともこうしてあなたと唇を重ねる瞬間に、扉を開け踏み込んで来る間の悪い奴は居らぬ。
「・・・夜明け前には、帰ります」
離れた唇の先がまだ触れ合う程に近くで伝えると、紅い唇の両端が美しい弧を描くように上がる。

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ウンスの告白、あまーい おねだりも
ヨン 堪らないわね。
明日になれば ぜーんぶ。
ぜーんぶ 俺のもの!
かわいいウンス。 離れがたいけど
最後まで偉いわ ヨン。
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さらんさん❤
うっとりするような、婚儀前夜の二人の様子…(///∇//)。
ヨンとウンスの会話に、「そうそう!私も覚えてる。
あのときも、このときも!」と割り込みたくなる気持ちを
必死に抑え、ともに夜を過ごさせて頂いています。
ああ…いよいよ明日は婚儀(///∇//)。
でも、お話はまだまだ、引っ張って頂きたいなあ…❤
さらんさん、掌編楽しみです!
(あ!(・・。)ゞ抽選なんでしたっけ……あわわわ)
さらんさんの手のひらの上で、ドキドキワクワクの
時間を楽しませて頂けるなら、
気分はもう「メリークリスマ~ス(#⌒∇⌒#)」に
違いありません❤
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あぁ~~やっとやっと
待ちに待った婚儀ですね❤
此方まで緊張してきます(^^)
ヨンから叔母様へのご挨拶に
ホロリとしました。
さらんさんが素敵過ぎて惚れ惚れしております❤
そして、くまみや様のクリパへの
ご招待ありがとうございます。
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素敵な結婚式前夜ですね。
ヨンとウンスのお互いを想い合う気持ちが素敵すぎて……
思わずため息出ちゃう……(〃ω〃)