威風堂々 | 9

 

 

「後で話が」

王様の護りを終え、敢えて回り道をし、坤成殿への回廊を進む。
王妃媽媽の御部屋前、衛に立つ叔母上の姿を見つけ、その前を進みつつ低く声を掛ける。

叔母上は通り抜けざま掛けたこの声に小さく頷き
「兵舎へ行く」
それだけを返しまた何食わぬ顔で姿勢を正す。

小さく顎で頷いてその脇を通り過ぎ、迂達赤兵舎への帰りを急ぐ。

 

あ奴の呼び出し。先般の医仙の問い。関係はあるのかないのか。
妙に腹を据えたような、あ奴の眸は気に掛かる。
「後で話が」
一言だけ告げるその声は、特に憤りも不満も感じん。
だからと言って、気を抜くわけにもいかんな。

様子見か。そう考えて呟いた。
「兵舎へ行く」
あ奴は満足気に小さく頷き、そのまま通り過ぎて行く。

 

*****

 

迂達赤の兵舎への途も、秋の気配が深まっていく。
東屋の池の蓮の影も消え、水面を渡る風は肌寒い。

皇庭の彼方此方の草木も花も、穏やかな色彩で揺れている。
今年の曼珠沙華は既に散った。
これから紅葉が深く色づくまでは野菊や桔梗の出番だろう。

兵舎の隅にも揺れるよう、あの黄色い花が群れ咲いている。
叔母上を待つ窓の外、群れ咲く野菊を遠景に眺める。

あの方がくれた、黄色い花。
この心に咲いた、一輪の花。
瓶に閉じ込め眺めたその花。
待つ間に萎れ色を失くしても、心に揺れ続けた一輪の花。

あなたと離れた、四度の秋。
あなたの戻った、去年の秋。
あなたと過ごした最初の秋は全ての色が鮮やかで。
そしてその後の四度の秋はただひたすらに待った。
あなたの戻った去年の秋は幻かとこの眸を疑った。
そしてようやく訪れた全てを成就させる此度の秋。

だからこそお詫びせねばならん。頭を下げお願いせねばならん。
お義父上とお義母上に、天界であなたの戻りを待つ全ての方に。

黄色く群れ咲く花の向こう、足早に鍛錬場の脇を抜けて来る
見慣れた叔母上の姿を窓外に認め、凭れた桟から身を起こす。

あの手厳しい叔母上の事。此度はどれ程甘いと罵られる事か。

 

媽媽の御部屋の護りを終えて、そのまま迂達赤兵舎へと駆ける。
医仙があ奴を問い詰めたとは思えん。
ならばあ奴は何故この機に呼び出す。

全く、何処まで手を焼かせれば気が済むのだ。
婚儀が控えておるのだから、阿呆のようににやけておれば良い。
猟犬の如く尻尾を振って、愛しい主人の側に従いておれば良い。

駆け込む迂達赤兵舎の、埃の立った鍛錬場。
そこから見上げたあ奴の私室の窓が開いている。

此方の様子を見ていたらしい。それほど来訪を待っておるか。
それでは尚更に分からぬ。医仙に寝言が露見し焦っているか。

口は禍の元。皇宮で日々を過ごす者なら、誰でも知っておる。
まして此度はあ奴の厄介な過去まで絡んでいる。
元はといえば、己が医仙に駆けた言葉が発端で。

まさかそれに難癖をつけに来たではあるまいな。正しく口は禍の元。
しかしあの時はああでも言わねば、奇轍の元へと死ぬ気で向かったあ奴を止める事は叶わなんだ。
医仙にしか止められなかったのだ。その決断に今も悔いは無い。

見殺しになど出来なかった。 叱りたくば叱り飛ばしてみるが良い。

覚悟を決め、迂達赤兵舎への戸を勢い良く開く。

ヨン、まだまだお主に黙って叱り飛ばされるほど耄碌しておらぬ。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    さらんさん、大好きなコモとヨンの遠慮の無い雰囲気、見せて頂きありがとうございます❤
    大事なチョッカのヨンを思いやるあまり、つい厳しくしてしまうコモ…、此度はさすがに「寝言」ですから、叱るわけにもいきませんね…(-_-;)。
    それにしても、これから親族となる二人が、誰よりも嫁となるウンスを大切に大切に護ろうと、真剣になっていることを彼女に教えてあげたいなあ。
    さあ、二人の緊迫した(?)場面が楽しみです!
    さらんさん、いよいよびっばんmade in Japanの開幕ですね!

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