紅蓮・勢 | 50

 

 

笑ってれば大丈夫。私は今でも信じてる。
いつだってそうしてきた。辛ければ辛いほど、大きな声で笑い飛ばして。

自己否定して自己嫌悪に陥って、何も出来なかったって後悔してめそめそするなんてまっぴら。
泣いたりしない。惨めになるだけだもの。何も生み出さない、そんな非生産的な事。

だから不安で押し潰されそうな時ほど笑った。
私には出来る。知識もある。技術もある。
今まで積み重ねてきたものがある。私なら成功する。
いつだって自分にそう言い聞かせてきた。
そう思わなきゃ、人の体にメスなんて入れられない。
誰かの生命をこの手に預かるなんてできない。

そう思うために、あらゆる知識を詰め込んできた。
新しい術式も、どんどん取り入れた。
知識に裏打ちされない自信なんてあり得ない。
だから病気を治療するだけで十分よね?それ以上の事、求めたりしないでほしい。
1人1人の患者に心を傾けたりなんて、期待しないで。
そんな事したら私の体も心も時間もどれだけあっても足りない。

医者は私にとっては仕事。仁術でも理念でもない。
そう思って仕事をしてきた。
あの時あなたに逢うまでは。チャン先生に教えてもらうまでは。

初めて思った。助けたい。自分の持てる全てで。
ちっぽけな手の中に握った不満だらけの器具と薬と、ちっぽけな頭の中に詰まった知識しかないけど。
死なないで。
あの時アスピリンを渡して呟いた言葉を、胸で繰り返す。
その為なら何でもする。だからお願い、目を開けて。
もう一度、世界を見て。どこかであなたを待ってる、その運命を
もう一度、その手に捕まえて。

ヨンア、全部あなたが変えてくれた。

あの時逢いに来てくれた。そして連れて来てくれた。
あなたしかいない。
だから、何度生まれ変わってもあなたを探す。
私の運命を、もう一度捕まえる。
逢えるまで、離れたあなたに何度だって訊く。

そこに いる?

あなたが大切。自分より大切。
誰かの事をそんな風に思う日が来るなんて、私には絶対にないと思ってたのに。
あなたさえ無事なら、何があっても怖くない。
私たちは必ずまた逢えるって知っているから。

ねえヨンア。なのにあなたは、残酷なことを言う。

私にはあなたが、あなたの方が、もっとずっと大切。
あなたさえ助かるなら、この男が死んだって構わない。
なのにあなたは、あなたを殺すはずのイ・ソンゲを私に助けろなんて言う。

助けたくなんかない。先の世界がどうなろうと構わない。
李氏朝鮮が興きても、興きなくてもそんなの知らない。
そう言って気が済むまで、子供みたいに泣き喚きたいのに。

そうしなければ私が死ぬから。私の心が死ぬからなんて言う。
そんな事ないのに。あなたさえ無事なら。
あなたが無事ならいつまでだって、あなたと一緒にいるのに。

あなたを殺す男なんて、どうなったって構わないのに。
それなのに未練はないなんて、言わないで。

私が死んだらあなたがどうなるか、考えるだけで怖い。そんな弱みに付け込むなんてずるい。
私が反対できないのを知っててそんな風に言うなんて。それは、とっても残酷な事だと思う。

ここでイ・ソンゲを助けたら、きっとこの未来は国史の授業で習った道に、また一歩近づいちゃうのに。
「約束して」

油灯の光る壁に寄りかかって、床に腰を下ろしたあなたに振り返って、私はお願いする。
「諦めないで。歴史を変えても、天罰が下ってもいい。私があなたを必ず護るから、諦めないって約束して」

あなたは床に座り込んだまま、そこから私を見上げた。
いつもと反対。いつもは私が見上げるのに。

あんなに強いはずのあなたは目の高さが変わっただけで、心配そうに私を見上げるちっちゃな子供みたいに見えた。
思わず駆け寄ってぎゅっと抱きしめたくなるくらい。
大丈夫よ、私はここにいる。そう言いたくなるくらい。いつもそうしてもらってるのは私の方なのに。
でもそれでも私だって護る。あなたを護るから。
「そこにいて。手術が終わるまで」

そう言った私を見上げて、あなたがしっかりと小さく頷いた。
私はあの女鍛冶さんにもらった針を、道具箱から取り出した。
チャン先生の蟾蜍解毒湯をかけて消毒して、縫合糸を通す。
朝鮮の太祖、李成桂。このままならあなたを殺す男。これから最大限の恩を売ってやるわ。
一生かかっても、返しきれないくらいの恩。2回も命を救えば、それくらい当然よね?

私がこれから救うのは、あなたを殺す男じゃない。
私たちが一緒にいる筈のこれからの時間。
そして何度生まれ変わっても必ず巡り逢う、私のソウルメイト。
私たちを、そしてあなたを救うために、恩を売るわ。
我慢して、泣きたいのも怒鳴りたいのも我慢して、歯を食いしばって、笑って手術してやろうじゃない。

待ってて、そこにいて。逃げたりしないで。大好きなその声でもう一度、私を呼んで。
大きく深呼吸をした瞬間
「イムジャ」

そう呼ばれて振り向けば、あなたの視線とぶつかる。私の心を読んだでしょ。
思わずにっこり笑うとあなたは驚いたように目を開いて、そしてその目尻をゆっくり優しく下げた。

 

 

 

 

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6 件のコメント

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    偉いな~ ウンス
    いい女だよ~ 
    それでこそ ヨンが選んだ 女だよ。
    そうそう 恩をきせちゃえ~
    逆らえないように してしまえ~
    がんばれ~ ウンス!
    ヨン… ウンス偉かったよね~。

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    さらんさんこんばんは♪
    ウンスが格好いいと思ったのは
    初めてかも♥
    (originalでもおもわなかったのに…)
    体調いかがですか?と伺いながら
    結局偽善でしかない私は
    お話の続きが気になり
    何度も覗いてはまだかな~まだかな~
    まだかな妖怪になっちまってます。
    とにかく
    さらんさん元気に更新してくれ~
    おねげーしますだ(* ̄∇ ̄*)が
    本音でございます(ー_ー;)
    すみません。
    ヨンが弱く見えるのはウンスの目線だから。
    さらんさんの頭の中身が見たいこの頃
    毎回唸るお話
    ほんとにありがとうございます(#^.^#)
    続きも楽しみにしています!

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    感動です、殺したい位憎い人を助ける、なって欲しくない歴史通りに近づく手助けをする、辛いですよね…
    ウンスは強い人です(涙)

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    天罰が下ってもヨンを守りたい,ウンスの強い想いですね。
    ウンスの事は歴史に織り込み済だから,最初にイソンゲを助ける事になったのでは無いかと,ドラマを見た時思いました。
    助けなければ亡くなっていた訳ですから。
    (史実のチェヨンには寵愛したユ夫人がいますし)
    でも,李氏朝鮮が興きても,ヨンが殺されるなんてウンスは耐えられないですよね。
    イソンゲに命の恩人だと思ってもらい,本当に歴史が変わったら・・・
    そう切に願いたいです(。-人-。)

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    二人のお互いを思う心情に感動してしまいました。
    深いです。親子の情愛にも似た感情ですね。
    本当に素晴らしいです。
    ウンスと同じ時代に生きるものとして、未来を知るものとして。
    ウンスの強さに尊敬の念を抱きます。
    誰でもが出来ることではなくて。分かってはいても簡単にできることではなくて。
    二次小説、凄いです。全くの別物なのかもしれないけど。続きがあるなら、こうであってほしいと思ってしまいます。
    嗚呼、私も正真正銘のシンイ廃人です。
    更新楽しみにしています。
    お身体を大切になさって、是非、書き続けてください。
    ありがとうございました。

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    なるほど!
    恩を売って運命を変える作戦なんですね。納得できたウンスさん、バッチリ恩を売ってくれるでしょうね。傷痕を見る度ソンゲさんは感謝する。
    これでひと安心です。
    ソンゲさんにはもう少しヨンと活躍して欲しいので。

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