紅蓮・勢 | 25

 

 

この方を伴って鷹揚隊の軍議室へ踏み込む。
既に着席していた奴らが一斉に立ち上がり頭を下げる。
「座れ」
そう告げながら椅子へと腰掛け、横に置かれた椅子を目で示すと、この方が黙って腰を下ろされた。
「この方が医仙だ。今後典医寺の医仙と共に、迂達赤の軍医も兼任される」
俺の声に、この場に座る奴らがそれぞれ深く頷いた。

俺の隣のこの方がチュンソクの穏やかな笑顔を、次にその対面に腰かけるアン・ジェの晴れやかな顔をそれぞれに見て、安堵したようにこりと笑む。
「医仙、ようこそおいで下さいました」
この方の目を受けチュンソクがそう言い頭を下げる。
その声に、チュンソクの脇に控えた迂達赤の奴らが一斉に頷きながら
「医仙、お久しぶりです」
「ご一緒できて嬉しいです」
「ご心配せず、どうか役目にご専念下さい」
「我らが必ずお守りします」
口々に言って嬉し気に笑う。

迂達赤らの言葉が切れると、続いてアン・ジェが
「医仙、昨夜は夜分に申し訳ありませんでした」
そして頭を下げながら
「来て頂けて光栄です。これで安心して戦ができる」

そう言った後、横に控えた鷹揚隊の衛隊長たちに顔を向け
「医仙の医術は、かの伝説の華侘をも凌ぐと言う。
大護軍の大切な方だ。鷹揚隊も共にこの方を守る。良いな」
そのアン・ジェの声に、奴の横に控えた衛隊長たちが
「はい!」
そう一斉に頷いた。

軍議室の窓、射す日はまだ昼の明るさを留めている。今日が終わるまで、あともう一山だ。
「酉の刻より鍛錬だ。その後は全兵を休ませろ」
「は!」
「明朝は卯の刻に出立する。遅れるな」
「は!」
「解散!」

最後にそう告げ掛けていた椅子から腰を上げる。
その様子を見て兵らが各々立ち上がる。
此方に向かい頭を下げる中、この方を連れて軍議室を出る。
「初めてかもしれない」

鷹揚隊の廊下を歩きながら、横のこの方が小さく呟いた。
「何がですか」
首を傾げ問い返すと
「迂達赤だけじゃなく兵のみんなに、あんな風に話すのね」
「・・・ああ」

その事かと思い当たる。確かに軍議に共に出る事などなかった。
「こんな風に見ると、すごく新鮮」
「此度は特別です。今後も出て頂くつもりはない」
「そうなの?」
「知れば面倒な事もあります」
「そっか」

この方は俺を見上げて微笑んで
「こんなに一緒にいたつもりだったのにね。見た事ない素敵な顔を、まだたくさん隠してるのね」
その声に耳が微かに熱くなる。
「隠したつもりは」
「かっこよかった。出来る男って感じだった」
並ぶ褒め言葉に、この方から眸を逸らす。
「あ、照れた?」
「・・・いえ」
この方が楽し気に、ふふっと小さく息を吐く。
「照れたでしょ」
「・・・酉の刻より鍛錬です。ご覧になりますか」

擦れ違う兵らが足を止め頭を下げる中、話を変える。
「いいの?」
「兵の気が散らぬよう、隅にいらっしゃるならば」
「見たい!」
嬉し気な声に頷きながら、俺達は共に鍛錬場へと足を向けた。

 

******

 

「大護軍方が到着するのは、三日後の酉の刻だ」
双城総管府の兵舎、薄明るい夕刻の兵長の私室。私の声に兵長とウヨルが頷いた。
「薬を混ぜる段取りはついています」
兵長が低い声で言った。
「兵はどうだ」
「そもそも国の中央から外れた者ばかりです。元が勝とうと高麗が勝とうと気になどしません。
戦の後の身の振り方や、今後の金が気になっています」

最もだろう、私は頷く。
「加勢すればこの後必ず身分は保証する。
勝利軍の兵として残るか、敗残兵として追われるか決めろと、奴らに伝えてくれ」
「判りました」
「連名状を作っておけ。誰が同意したか、それぞれの班長に必ず把握させておけ。あとで確認する」
「すぐに命令を出します」

兵に裏切り者が出ても、もう元に文を送る間はない。その文が届く前に大護軍一団が到着される。
信じて頂いているのだと、この策を追って気付く。
私が気を変え手引きをせずにいれば、大護軍はそのままご自身のみで、双城総管府に挑むことになる。
その進捗さえ確認する術もないまま、あの方はここへいらっしゃる。
信じておらねば、そうは出来まい。
「ウヨル」
「はい」
「外との連絡を取らねば」
「はい」

私なら初めての場所で、中の者とどうやって連絡を取るだろう。
顎先を指で撫で、思案する。
最初から正々堂々、扉を叩くだろうか。
酉の刻。初夏のこの時期、まだ周囲は十分明るい。
兵が手薄になる時刻を確認するという事は、誰かを一旦、双城内に忍び込ませるおつもりかもしれない。

「東西の門をこちらの手の者で固める。そして門外、南北にはウヨル、お前の配下を立たせろ」
「畏まりました」
「大護軍側と連絡が取れれば、真っ直ぐ私の下に来て頂け」
「はい」

小さく震える、汗ばんだ掌を握り込む。
これが武者震いというものなのだろう。
虎の目のあの方もこんな思いを何度もしたろうか。
「弓を鍛錬したい」私が立ち上がって言うと、兵長が驚いたように
「今からですか」
この顔を見て、言葉を返す。

「そうだ」
昨日までの味方を討つために、そして明日からの味方を守るために。
李家の名誉を、その名を今一度、高麗に刻む第一歩のために。
「参りましょう、ソンゲ様」

ウヨルがそう言って、静かに私の後ろについた。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    照れるヨンが…可愛いし、素敵☆
    ヨンの力になってあげられるウンスの力が羨ましい。私もそうでありたいなあ…と。
    今日も素敵なお話、有難うございます(*^^*)

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    さらんさん、今宵も素敵なお話をありがとうございます。
    なるほど~。
    私たち読者は、いつも凛々しいヨンの姿やきりりとした態度を見せて頂けていますが、ウンスはその場には居ないことのほうが多かったのでしたよね。
    そりゃあ、惚れ直すはずです❤︎
    とはいえ、これからいよいよ戦場ですから、かっこいい姿のみならず、ヨンが見せたくないと思う場面にも遭遇するのか~。
    Σ(゚д゚lll)
    さらんさん、おやすみなさい

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    >muuさん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    そうなのです。実際の処、ウンスオンニはまだ
    雷功をぶっ放すヨンを見たのは、COEXの一度のみ。
    【迷迭香】の時は落馬で気絶してたしw
    その後、本編で何度か打った時(奇轍邸など)も
    その場にはいなかったのです…
    勿論敵と切り結ぶ姿は見ていますが、そこまでとは
    思っていないよな、と、ずっと思っていたので…
    そりゃあ惚れ直すわ~、とw
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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    >ちゃびおさん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    ウンスの「医師」という職種は目に見える形で役立ちますが、
    きっとちゃびおさまも、大事な方の役に立っていらっしゃるはずです❤
    照れヨンw もうこればかりは性格なのでどうしようもないですねw
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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