紅蓮・勢 | 28

 

 

「王様のお成りです」
控えた内官の声が響く。
その先触れの声の中王様が静かに進み、設えた玉座へ上られる。
居並ぶ五千全ての兵が、その場で地に膝をつき首を下げる。

王様は玉座にはお掛けにならずにゆっくり御目を巡らせ、庭に膝をつく兵を隅から隅まで見つめられる。
「余の、兵たちよ」
その王様の穏やかなお声。兵らの頭がより深く垂れる。
王様は一度大きく息をし、御声を発した。
「そなたたち、一人一人が余の民だ」
「は!」
「良いな。一人も欠けるでない」
「は!」
「戦勝の報せと共に、必ず全員が今一度ここに並べ」
「は!」
真直ぐ兵を見て御顔を上げたまま
「余からの王命である!」

庭の隅々まで響いたその太い御声に
「は!!」
兵らが一斉に深く頭を下げた。
「立つがよい」
王様の御声に居並ぶ全員が首を上げ、次に膝を上げる。

斜め後ろのチュンソクへと眸を流す。奴が頷く。
「迂達赤!」
チュンソクの声に並ぶ迂達赤が呼応する。
「は!」
「王命、肝に銘じよ」
「しかと受け賜りました!」
迂達赤が全員深く首を垂れる。

次に横のこの方の向こう、アン・ジェへと眸を当てる。
この眸を受け奴が声を張る。
「鷹揚隊!」
その声に鷹揚隊の大きな声が返す。
「はい!」
「王命、死守せよ!」
「畏まりました!」

そしてその場の全ての目が、此処に集まる。
明るさを増していく初夏の夜明けの光の中。
兵たちの鎧に打った星鋲が光る。
お前らの一人として失う気はない。

玉座を振り返れば。
お召しになる袍の黄金の龍が、生きるようにうねる。
王様を、そして国を、必ずお守りする。

横を見ればこの方の真直ぐな目がある。
何よりも失いたくない小さな息遣いがある。
俺の、そして高麗の守護女神。
あなたしかおらぬ。
俺を戦わせ、必ず生きて帰ると誓わせるのは、この世にあなたしかおらぬ。

あなたのいるこの国を守る。王様を、民を、兵を守る。
その為に幾度でも戦場に立とう。そして幾度でも戻って来よう。
そこに、いる?
二度と悲しい声で呟かせぬために。

「迂達赤!」
「は!!」
「鷹揚隊!」
「はい!!」

この姿を見ろ。この声を聴け。その命、この手に預かる。
鬼剣を握った腕を初夏の明け空へと、俺は突き上げた。

誇り高き高麗の武人たちよ。この名に懸け、そしてお前たちの名に懸けて

「勝つ!!」

歓声が、そして怒号のような鬨の声が天からの光の中、地を揺らすよう湧き上がる。
五千の男が顔を上げ、拳を上げ、足を踏み鳴らし、声を限りに。
チュンソクが叫び、アン・ジェが叫び、 テマンが叫び、トクマンが叫ぶ。
天地に響く叫びの中。
王様へ深く一礼し目を上げると、王様の御目が真直ぐ俺を捉え深く頷かれた。

こんなに大勢の命を背負ってる。こんなに大きな期待を背負ってる。
大きな叫びが鳴りやまず響く中、横に立つあなたを見る。
ヨンア、私知らなかったの。あなたの事ずっと見てたつもりだったのに。
あなたが私を守って走ってくれてる時も、そしてあなたの手が震えた時も。
それなのに何もわかってなかった。
王様があなたを信じてる事も、チュンソク隊長や迂達赤のみんながあなたを慕ってる事も、よく知ってたはずなのに。

それでもこんなにだなんて。
これ程だなんてそこまで深く真剣に、考えたことはなかった。
どうしよう。こんなに大変な事をしてたのに。
私、どうやってこれからあなたを支えて行こう。
どうやって目の前のみんなが命を懸けてるあなたを、護っていったらいいんだろう。

心と体を護るだけで足りるの?ヨンア、どうしよう。
あなたに、そしてあなたをここまで思ってくれるみんなに 私どうやってお返ししたらいいんだろう。
足りないわ。まだまだこの時代の医術の力が。勉強しなきゃ。漢方薬も調合も脈診も、手術も全部。

私に出来るのは医術だけ。私なら治療できる。高麗の韓方医学と現代西洋医学のハイブリッドよ。
私にだけできる事。元にも、他の国にもできない事。
それがあなたにとって、そして高麗にとって役に立つなら、すごく頑張れる気がする。
あなたの知らなかった顔を、こうして見つけるたびに。

歴史を変える事より、ヨンア、あなたを失う事が怖い。
あなたが大切にしている皆を失う事の方が、私は怖い。

だから絶対負けない。諦めたりしない。あなたを、王様を、媽媽を、みんなを守る事。
蜘蛛の糸みたいに頼りない希望なら、私が撚り集めて、縄みたいに太くしてみせるわ。
まだ頼りないけど、私のフィールドでベストを尽くす。

どうしよう。
今すぐ横にいるあなたをすっごく抱きしめたいけど、 さすがにそれはまずいって、非常識な私にもわかるわ。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    ドラマを見ているような シーンが
    現実に目の前で…
    ヨンが背負ってる物を 目の当たりに
    するって どんな気分でしょう。
    緊張するでしょうね 
    ヨンの気持ちを察すれば 
    寄り添って 抱きしめたくなるのも
    頷けます。 
    今回は そばにいるから…
    ウンス 勝利の女神になりましょう!

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    はぁ~。もう、ため息が出るくらいかっこいいです~!
    ♪───O(≧∇≦)O────♪
    いつも素敵なお話をありがとうございます。
    今日はまた、前のお話を読み返してしまいました。[都忘れ]を。何回読み返しても、切な過ぎてドキドキします。
    だから、その後の甘々なヨンも余計に好きなのかも(#^.^#)
    今回はハラハラドキドキしそうな予感が。。楽しみです。

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    >rinさん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    古いお話も読み返していただき、ありがとうございます❤
    嬉しいです~~❤
    今、過去話をいろいろ読み返し、反省やらちょっとばかりの成長やら
    噛みしめつつ、この後のお話書きに燃えております。
    多分、今まで(特にここ半年程)とは違う感じになりそうな。
    その時はまた、お楽しみ頂ければ嬉しいです。
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤超遅コメ返になり、申し訳ありませんでした…
    ウンスは「お客様」ではなく、もう「軍医」として
    いろんな部分で、今まで知らなかったヨンを見ながら
    ちょっとずつ自覚してくとこですね・・・
    そうでなければ困りますw
    これから先、もっと苦境は設定織り込み済みですが、
    でも頑張れ!あじゃあじゃ!と思いながら書いたころでした。
    ヨンで頂き、ありがとうございました❤

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