2014-15 リクエスト final | 結・1

 

 

【 結 】

 

 

「良いから試しに呑んでみろ」
「駄目なら止めれば良い」
「だ駄目です。皆が死ぬ」
「死ぬわけないだろう」
「そうだぞ、まだ飲んだこともないだろう」
「さ、さ猿酒を、飲みました」
「猿酒?」

テマンの声をその場の兵たちが繰り、一斉に噴き出した。

「テマナ、お前その名前は冗談だろう」
「猿酒なんてふざけた名前」
口々に囃し立てる声に、テマンが顔を顰めながら抗議する。
「ほ、ほんとの名前です」

腕を組んでその声を笑う奴らの後ろから寄り、俺は順にその頭を叩いた。
「お前らが無知だな、此度は」
そう言って、奴らが話し込んでいた兵舎の吹抜けの段に腰を落とす。

「猿酒と言うのは名の通り。
猿が木の実を洞に隠して忘れたまま、そこで発酵して出来た天然の酒の事だ」
その話に叩かれた奴らも痛みを忘れたように、へえなどと口々に言いながら頷いている。

「で、猿酒がどうした」
テマンがその声に頷いて、
「お、お俺が酒を飲まないのは何故かって」
「何故だ」

そうだ。手裏房の隠れ家に乗り込んだ時も同じ事を言った。
一杯呑めと言ったら、俺の声に決して首を横に振らんこいつが懸命に首を振りながら、死人が出ると。

「猿酒を、飲みました」
「山でか」
「はい」
「で」
テマンは皆が見つめるのに驚いたよう口篭もりながら、頭を掻いた。

「よ翌朝、木の枝が全部お、折れて」
その告白に、そこにいる兵たちがまた笑った。
「いや、それはお前の仕業かどうか分からんだろう」
「テマナ、酔って多少暴れることくらい、男なら皆経験がある」
「共に飲んでこそ深まる、結ばれる人間関係もあるぞ」
「第一俺たちは木の枝とは違う。お前が暴れたくらいじゃ何も起きないから、心配せず飲め」

そう口々に言われながらも首を振り、テマンが繰り返す。
「だ、駄目です。隊長や皆にめ迷惑が」

 

隊長に水を向けられても変わらないその頑固な声に、俺は横のトクマンを振り返る。
駄目だ。男同士なら飲んで騒いで女人との色恋沙汰も経験せんと。
奴は笑って頷くと周囲の隊員たちと何か小声で密談しつつ、兵舎の吹抜けからそっと忍び出て行った。

 

わいわいと囃す隊員たちの横。
トルベがトクマニへ目線を送り、その後トクマニが周囲の兵と連れだって兵舎を抜ける。
その様子を見て、副隊長へと
「副隊長」
俺が小さく呟くと、副隊長は首を回し
「どうしたチュソク」
小声で不思議そうに問いかける。
「何か企んでますよ」

扉から消えていく背を目で指して伝えると、副隊長は呆れた様子で首を振りながら
「碌な事を考えんな」
そう言って深く息を吐いた。

隊長たちがテマンを山より連れて来て以来。
新入りを呑んで潰す、その慣習を実行できなかった奴らがつまらなく思っているのを薄々感じてはいた。
酒は、無理強いして飲ませるものではない。
本人が呑まずにいるならそれで良いだろう。そう思っていたものの。

隊長が医仙を連れていらしたり、王様を手裏房へお連れしたりと、今までにない出来事が重なったせいか。
隊員らもこのところ、確かに少々浮き足立っている。
しかしだからと言ってテマンの口を無理に開け、酒を流し込む事はないだろう。俺はそう高を括っていた。

 

「どうして枝を折った」
俺が聞くと、テマンは首を振りながら
「ぜ、ぜ全然覚えてななくて」
そう言って首を傾げる。
「山にいた頃といえば、十三、四のころか」
「その頃から飲んでたとは、やんちゃな奴め」
「い、い、一回きりで」
「良いんだテマナ、男ならそれくらい気概がないとな」

周囲のその声に、テマンは頑なに首を振り続ける。

 

隊長が手裏房の酒楼に、俺を連れて行った時。
確かに飲めって言われて、俺は首を振った。

あの山で、餓鬼の俺が猿酒を見つけた時。
俺はそれが何かも知らずに最初に木の洞に鼻を突っ込み、匂いを確かめた。
今まで嗅いだことのない香りがした。
次に指を突っ込み、舌先で味を確かめた。
今まで飲んだことのない味がした。

しばらくしても、体はいつも通りだった。
毒じゃなさそうだと思い、懐から出した小さな椀を入れてそれを飲み始めた。

うまかった。
しばらくしたら体がほかほかした。
何だか笑いが止まらなくなった。
そして、えらく楽しくなってた。
だから俺は笑って、木に登ったんだ。
登っては下りて、洞の中の猿酒を飲んで。

そこから、全く覚えてない。

気付いたら朝で、俺は地面に転がってた。普段なら大きな獣にやられないように木の上で寝るのに。
えらく頭が痛くて、喉が渇いてた。
河原に下りて顔を洗って冷たい河の水をがぶがぶ飲んで、少しだけましな気持ちでもう一度眠ろうと林に戻ったら。

あの洞のあった木の枝、手に届く辺りが全部折れてた。

よく見ると折れ口は真新しくて、おまけに半分ささくれて、無理矢理折り取ったのがすぐに分かった。

まるで手負いの熊が暴れて折ったみたいだ。だけど熊なら枝を折る前に、地面に転がってた俺がやられる。
じゃあこれは、俺がやったんだな。そう思いながら寝床の木にどうにか登った。

ここであんな風に暴れたら、隊長か皆か、誰かが怪我する。
だから例え隊長に勧められても、俺は二度と酒を飲まない。
そう決めてるんだ。
なのに何だってそんな俺にそれほど酒、酒と勧めるんだ。
困って頭を振っても、しばらくたつとまた勧める。
一度で分かってくれたのは隊長だけだ。

やっぱり隊長は特別だ。

 

 

 

 

304. 踏めるかな?
[299]に書いたテマンのお酒呑む場面が読みたいです。

(みゅうさま)

長々と続いたクリスマスリク話も、いよいよ最終話となりました。
今まで読んで頂けた皆様に、大感謝です❤
そして此度は、きっと皆さまも気になっていた本編。
あの手裏房で、シウルの矢が放たれる直前、
卓についてぐい飲みしているヨンに勧められ
床に座った忠犬テマンがヨンを見上げて言った一言。
「飲めば死にます」
「お前がか」
「いえ、周りが」

どんだけなのでしょうか!

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