2014-15 リクエスト | 為虎添翼・2

 

 

「ヨンア!」
皇宮に戻ったその足で、二人揃って王様に、そしてご一緒におられた王妃媽媽に拝謁する。

ようやく終えて康安殿を出た俺達の背後。
珍しく大きな足音を立てた武閣氏隊長、王妃媽媽付き筆頭尚宮の叔母上が此方へ駆け寄った。
俺と横のこの方は、回廊で歩を止める。

駆け寄ってきた叔母上は無言のままいきなり俺の肘を取り、回廊の隅の階へこの体を投げた。
急の仕打ちに避けきれず、俺は階の角に腕を強か打ちつける。

「痛いだろう、何なんだ」
「当然だ、思い切り痛くしてやった」
「帰京早々、大した出迎えだな」
階の角に打ちつけた腕を叩き、階へ腰を据え、目前に立つ叔母上を見上げる。
「乱暴な出迎えの理由は、分かっておろう」
抑えた厳しいその声に、喉の奥で笑う。
ああ、己で己を殴りつけたいほどにな。
その眸を見た叔母上は、鋭く細く息を吐いた。

「一体何を考えておるのだ。何ゆえ御二方の前であんな馬鹿な宣言を」
「馬鹿か」
先ほど王様と王妃媽媽にお伝えした言葉を胸内で繰り返し、両掌で顎から上へと顔を拭う。

 

******

 

「して大護軍、婚儀はいつ挙げるのだ」
王様の嬉し気なその御声を、横におられる王妃媽媽が
「是非一刻も早う。ようやくまたこうしてお二人が逢えたのですから」
そう引き継がれ、微笑んで頷かれる。

拝謁を申し入れた時より避けて通れぬであろう。判ってはいたものの。
いざこうして御二人と、脇に控える叔母上を眸に映したままお伝えするのは、決意が要る。

息を吸い、そして横のこの方を見る。俺を見つめ返す瞳を覗き込む。
躊躇い、そして今では悔いさえ浮かんでいる鳶色の瞳。
それでも俺は顎先で頷き、王様と王妃媽媽へ眸を戻す。
「医仙を今、娶ることはできませぬ」

王様と王妃媽媽のお顔を、そして愕然とする叔母上の顔を順に見渡し
「この方のご両親に、御許しを頂くまで」
言うべき言葉を続ける。
「お許しというが、大護軍」

王様がゆっくりと此方に御目を合わせる。
「医仙の御両親は天界にいらっしゃるのだろう。どのように処するか」
「再度天門をくぐり」
短く答える声に、王妃媽媽の御声が被さる。

「なりませぬ大護軍。これ以上待つなど、医仙をお待たせするなど」
「王妃」
高くなった御声に、王様がかすかに揺れる御声をかけられる。
「王様・・・」
王妃媽媽が縋るように王様へと御目を遣られる。
そして叔母上の目が早く翻せ、今の発言を取り下げろと頻りに急かす。

「再び開くかどうか、誰にも分からぬのだろう」
王様に頷きお伝えする。
「けれど医仙は、こうして戻って来ました」
「其れが奇跡かもしれぬだろう。もし二度と開かねば。
少なくともこの生のあるうち開かねば」
「ならば娶れませぬ。それが天の御意志でしょう」
「大護軍、王命を出しても」
「王様」

首を振り真直ぐに王様の龍顔を拝し、俺は言った。
「些末事の度に発すれば、その重み薄れます」
「大護軍」
王様の横、王妃媽媽が高く言い募られる。
「大護軍にとって、死ぬ程の思いで戻られた医仙とのご婚儀が些末なことですか」

御声に驚き王妃媽媽を拝する。王妃媽媽は黙って御首を振られる。
叔母上へと助け舟を求めるが、その視線はひと睨みで却下される。
この方へと眸を移せば、その視線は哀しそうに伏せられたままだ。

そんなつもりはないと、どうお伝えすれば良い。
この三人の女人方のご様子は、どうしたことだ。
戸惑う俺を前に、王様が
「王妃もみなも大護軍を責めるでない。この口の重い男の心中も慮れ」

そう仰ると女人方は、三人三様の溜息をつかれる。
王妃媽媽の深い息、叔母上の鋭い息、この方の短い息。
なおさらの肩身の狭さに、俺は四つ目の太い息を吐く。
そこに王様の静かな溜息が被り、思わず王様を拝する。

王様は王妃媽媽、そして残る二人を順に目で追われた後、此方に向かい御口端を歪められた。
「そなたの心は寡人なりに解した。まずは至急天門に見張りを立てる。良いな」
「・・・有難き倖せ」
「では、下がるが良い」

珍しく下がれと、脱出の逃げ道を作って下さる王様に心から感謝する。
そしていつもより深く一礼し、俺は即刻御前を辞した。

康安殿の外にて息をつく。あれではまるで針の筵だ。
直後に叔母上に呼び止められ、こうして説教まで喰らうとは思わなかったが。

「それでも、曲げる訳にはいかん」
そう言うと叔母上が俺に向かい眦を吊り上げる。
「ヨンア、お主いい加減に」
その時俺と叔母上の間に、傍にいたこの方が割り込んで叔母上を止めた。
「叔母様、もう良いんです。元はと言えば私のせいなんです」

その声で我に返ったよう、叔母上がこの方を見遣る。
「此度はこの男に何を言いました、医仙」
「結婚に、両親の許可が欲しかったな、って」

・・・はあああああ。
叔母上は今までになく、俺ですら初めて聞くほど深く息を吐いた。
「医仙」
「はい」
「こ奴の扱いに慣れた方が良いかと」
「・・・はい・・・」
「あなた様に言われれば、たいがいの無茶は押し通します。こ奴の事ですから」
「・・・ですよね、やっぱり」

叔母上の眉間が、苛りと寄る。
「ですよね、ではございません、医仙」
「はい・・・」
「で」
仕切り直すようにひと声言って、叔母上が此方を向き直る。

「どうする、ヨンア」
「天門が開くのを待つ」
「医仙も同意されますか」
「許可は本当に欲しいんです。事情があって・・・」
「そうですか」

叔母上はそこで首を振る。
「では天門が開き次第、行かれると宜しい。
ヨンア、お主はその日まで不眠不休の覚悟にてしっかりと役目を努めよ。
そうでなくとも王様と王妃媽媽に、こうしてご迷惑ばかり掛けるそなたらなのだからな」
「ああ」

ようやく纏まった話を受け、階から腰を上げる。
後は待つのみ。ようやく其処まで漕ぎつけた。

此処で大きな聞き逃しをしている事にその折は、まだ気づいてはいなかった。
あの夜あれ程用心深くこの方の話を聞いたはずが、気の緩みでその一言を聞き逃した。

事情があって。
普段であれば、必ず伺ったはずだ。
事情とは何か。俺に何かできぬか。

天門が開くまでの時間が、そして聴き逃した一言が自分の首を絞めるとは、その時の俺は全く思ってもいなかった。

 

 

 

 

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