2014-15 リクエスト | 為虎添翼・1

 

 

【 為虎添翼 】

 

 

此度も櫻花の咲く季節が、静かに過ぎる。
もう焦ることはせぬと、胸に言い聞かす。

過ぎればじきに、蝉が鳴き始めよう。
以前はその声よりも余程騒々しかったはずの叔母上の声すら、最近は全く聞こえぬ。
王様の御声も、王妃媽媽の御声も。

諦めてしまわれたか、呆れてしまわれたか。
それともこの石頭の頑固者に説いても無駄と、ようやく分かって頂けたか。

それでもあの方がここに戻り巡った三度目の季節、
俺は叶うかもしれぬという、ほんの小さく 微かなその願いを、今一度胸に抱え直す。

そして叶うまで、俺達の婚儀は絶対に挙げぬと。

 

******

 

「賛成してほしかったな・・・」

呟く声を聞いたのは、あの丘で再び巡り逢ってすぐの頃だった。

三度の季節が巡った後にようやく戻った方を連れた開京への帰途、野営を張った夕闇の中。
周囲で動く兵に指示を飛ばし、今宵の歩哨の配置を判じつつ陣中を歩く横でこの方が言った。
「オンマとアッパに、賛成してほしかった」
淋しそうな声に、小さな顔を覗き込む。

「何を」
尋ねるとその瞳が俺を避け、山の稜線を染め上げる暮の茜の夕空を見上げた。
「ううん、何でもない」

そう言って、懸命に首を振り笑おうとする。
相変わらず嘘の下手な方だと息を吐く。
こうして戻られても、そこは変わらぬ。
何でもなければ、言ったりはせぬ。
空に投げられた瞳を行先で捉まえ、確りと覗き込む。

「言うて下さい」

強い眸の中、捉まえた瞳が揺れる。それほど迷うことなのか。
問い質したは良いものの、その揺れる目に不安の雲が広がる。

今ここで話す方が良いのか。
確りと向き合うが良いのか。
迷うてこの方の口を止めようとした時、眸を離そうとした瞬間に声は響いた。
「私たちの結婚を」

そうだった。もう双親のおらぬ己とは違う。
ただお会いできぬだけで、この方のご両親は今も天界でこの方を案じておられるはずだ。
そのご両親に、賛成してほしかったとこの方は、今はっきりとそう言った。
それを聞いた以上、取るべき道は一つ。

正面突破。
再度天門が開き、この方のご両親に俺達の婚儀のお許しを得るまで、この方を娶れぬ。
「分かりました」

頷いた俺に、この方の瞳が当たる。
それは夕暮れのなかで揺れる周囲の篝火よりも、よほど不安そうに揺れている。
「何が分かったの」
「俺達の婚儀の日取が」
「隊長、まさか」

その懐かしい名で呼んで下さるこの方が望むなら。
「許可をもらうまで、結婚しない気?」

もう一度深く頷くと、この方は大きく目を瞠った。

 

******

 

その夜、俺はこの方の横を護り時を過ごしていた。

草原の上、篝火の前で敷いた皮織物に横たわるこの方の横、鬼剣を胸に抱いて。
「聞きたきことが」
横たわる寝姿に声を掛ければ
「・・・なあに」

眠いか、拗ねたか。
横のこの方の声は低く掠れて、発する端から周囲の闇に溶け込む。
うっかりすれば聞き逃してしまいそうだ。
そうならぬよう注意深く、言葉を重ねる。

「おっしゃいましたね。帰りを待っていた間のこちらの三年が、イムジャのいた処では一年だったと」
「そう、それは確かにそうだった」
この方はその問いに頷いて答えた。

「ならばここでまた三年経れば、天門は開きますか」
「それは分からない。だってこの前は一年足らずでまた開いたわけだから。
残されたあの日記が本当なら計算上、60年は待つはずだったのに。
向こうでも突然開いたし」

そうだ。
最初にこの方を天界へお迎えに行き、奇轍と徳興君と争った。
丘でこの方と無理に引き離されたあの時まで確かにほぼ一年。
決まった日に開くでも、規則があるでも無さげな気紛れな天門に命運を託した。
それであれば従うまでと肚を括る。

「天門前に人を遣り見張らせます。
再び開き次第、入ってみましょう」
この方の返答の声がより掠れ、より低くなった。
「開かなかったら」
「あなたを娶れぬ」
「隊長」
「決めたことゆえ」

首を振るとこの方の眉が寄る。
分かっている。己ですら時折嫌気がさす。
何故この方との誓いをこれ程破れぬのか。
何故ここまで、融通を利かせられぬのか。
これ程の想いで二人、各々の時間を過ごし、ようやく巡り逢えた直後というのに。

今とて周囲の兵の気配がなくば、このまま小さい体を抱き竦めたい。
身動きが取れぬよう、何処にも行けぬよう、囲ってしまいたいのに。

いつになるか知れぬ婚儀を再び待つ。
立てた誓いは、正気の沙汰ではないかもしれん。

それでも駄目なのだと、この心が知っている。
この方の唇から発せられる全ての言の葉は、決して千切れぬ蜘蛛の糸。
この手足も、心も、すべて其処へと縛りつける。
千切るくらいであればいっそ手足を捥ぎ、この方に捧げる方がましだと思わせる。

深い闇の中、この方の吐いた息だけがそれを縫い、この耳の奥まで届く。

 

 

 

 

リク新話、始まりました。

84. 無題
ヨンがウンスの両親に結婚の許可をもらいにソウルに
でも婚約者がいると断られ嫉妬しながら頑張るお話
婚約者はチャン先生でお願いします。
(ひまわりさま)

ヨン、最初からえらい覚悟です。どうなるのか・・・

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16 件のコメント

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    凄いぞヨンは、、すぐにでも一緒になりたいんだろうに、、どこまで耐える(´_`。)
    これからの展開はまた胃がキリキリとなるのかな?早く二人に幸あれと、、、祈るばかりです

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    こんばんは さらん様
    ありがとうございます 新しい お話 嬉しく楽しみです(=^ェ^=)
    でもでもヨンの覚悟凄すぎる 無事 正面突破して新しき翼を伴いお戻り下さい
    でも これから いどむ相手は最強のラスボスですよね ガンバレ ヨン p(^_^)q

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    始まりですね!
    また、えらい誓いをたてちゃったね(ノ_<。)
    でもヨンの事だから、大丈夫だと
    信じてます。(^-^)
    でも、でも、
    また 切ない話になりそうな(>o<")
    お手柔らかに(^w^)

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    チェヨンくんとウンスちゃん。
    現代に、来るんですか?
    えっ、ウンスちゃんが再び帰ってきてから三年も経ってるんですか。
    それから? (^^)

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    大変な物語が始まりましたー^_^;
    融通利かないヨンにあーもうっと、思いながらもどうなっていくのか楽しみです。
    さらんさんのお話、セリフの1つ1つでその情景が、浮かぶんですよね。
    流石によくよくシンイを、見られてるなと感心します。
    さて、続きを楽しみに待つとします。

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    >nonさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    今回はもうリク話なのでこうしか運びようがないですが・・・
    実際は、待たないでしょう、きっと(;^_^A
    さすがの私もここまでSにはなれません(゚ー゚;

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    >ぽんたさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    くぐってか~ら~のぉ
    もう今回は、ヨンがかわいそ過ぎて・・・(爆
    この後のリク話お題がまた、えらいのが続くので。
    またヨンで見て頂けると嬉しいですヨン❤

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    >ひまわりさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    正面の虎、後門の狼??
    家族+婚約者ですから…書いてて涙が(嘘です
    ラスボスw頑張って倒して頂きたいものですw

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    >モモさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    さすがにこのお題では、切なくなりそうですね…
    まあもう、完全パラレルとして切り離してください、と
    このカテ用のお願いをするしか(゚ー゚;
    さすがに我が家の二次では、ここまで修業はさせません(爆

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    >ポチッとなさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    それから、は続きをお読み頂ければと(;´▽`A“
    今回はリクが現代なので、現代、行かせますw
    でも夢落ちは使用済みなので、別Ver.にてσ(^_^;)

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    >★sachi★さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    【信義】はもう、ライフワークのように鑑賞していますw
    二次を書かずに気楽に楽しく観られたら、
    また違った見方があるのかなと思ったりもしますw
    それは自分のゴールに辿り着いたらのお楽しみで(*v.v)。

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    >トマトさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    はい、リク話なので待たせます。
    待たねば話が進まないので(爆
    老いらくの恋も、また楽し。そのくらいの気構えにてww

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    さらん様、こんにちは❤
    ヨンらしい。
    分かっていても、決して自分を曲げる事など
    出来ないのですね。
    特に、ウンスとの約束となれば尚更。
    出遅れてしまったのですが、
    その分、続きがすぐに読めるので嬉しい(^o^)
    いつも思うのですが、今回も文章が素晴らしい。
    難しい言葉も漢字も全てが流れるように美しい。
    素敵です❤

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ずっと読んで下さっている夢夢さまや皆さまには
    お気づき頂いているかもですが、5から急に
    文章量が増えていますw
    どう考えても【長編】がつく!と焦り、一話を増やすという姑息な手にw
    なので後半は抒情よりも勢いwwかもです

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